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Vol.11 No.6

WLTPの策定について
Development of WLTP
川野 大輔(大阪産業大学(国連WLTPインフォーマルグループ副議長)) 

Daisuke KAWANO (Osaka Sangyo University (Vice-chair of WLTP Informal Working Group))

アブストラクト

 乗用車等の排出ガスや燃費に関する技術基準の国際調和を目的に、国連に乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法(Worldwide harmonized Light vehicle Test Procedure, WLTP)を制定するためのインフォーマルワーキンググループ(WLTP IWG)が設置され、車両技術の向上に応じて様々な試験法の制定および改定が行われてきた。ここでは、これまでのWLTP IWGの活動概要と最新の活動状況を報告する。

WLTP IWGの活動概要

 自動車の排出ガスや燃費に関する技術基準の国際調和に向けた取り組みは、国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム(UNECE/WP29、以下「WP29」という)およびWP29傘下の排出ガス・エネルギー専門家会議(GRPE)で進められている。一方、乗用車をはじめとする軽・中量車については、近年の車両技術の著しい向上に早急に対応するため、それぞれの国や地域が独自に排出ガスおよび燃費の認証試験法を定めており、メーカーの大きな負担となっていた。このような背景から、GRPEにおいて2008年にWLTP IWGが設置され、12年もの間、図1に示すような様々な活動を行ってきた。

 WLTP IWGはその活動の段階に応じてフェーズに分かれており、設置当初のフェーズ1aでは、ベースの試験法として従来の内燃機関車の試験法に加えて、近年の車両の電動化にも対応した試験法が検討され、2014年3月に開催された第162回WP29において、世界技術基準(UN GTR)のNo.15として可決された。2015年からのフェーズ1bでは、従来再現性に乏しく膨大な試験時間が掛かっていた電気自動車の一充電走行距離試験について、試験時間を大幅に短縮できる新たな試験法を日本が提案した。そこでは、WLTPテストサイクル(WLTC)である動的セグメント(DS)の間に定速セグメント(CSS)を入れてSOC(State of Charge)を低下させることで試験時間の短縮が可能(そのときの車速履歴の例を図2に示す)となっており、本試験法がUN GTR No.15 Amendment 1に採用された。2016年からのフェーズ2においても年々改定が行われ、最新のUN GTR No.15 Amendment 6が2020年11月の第182回WP29で採択された。なお、燃料蒸発ガス(エバポ)試験法については別にUN GTRが制定され、2017年6月の第172回WP29でUN GTR No.19として可決され、本UN GTRも年々改定が行われた。これらのUN GTRをベースにUNECE規則(UNR)の制定に向けた検討がなされ、2020年6月に開催された第181回WP29において、UNR No.154として採択された。
 その後、WLTP IWGは予定していた全作業を終え、マンデートの期限である2020年6月で一旦クローズとなった。以降の必要な作業はWLTP Adhocグループで行うこととなっている。

UN GTR No.15 Amendment 6の概要

 UN GTR No.15 Amendment 5(2019年6月の第178回WP29で可決)からAmendment 6の主な変更点は以下の通りである。
■ 既存要件の改定
■ 車載式故障診断装置(OBD)に関する附則の追加
■ 耐久試験法に関する附則(オプション)の追加
■ 低温試験法に関する附則(オプション)の追加
■ 生産適合性(COP)に関する附則の追加
 特にこの中でも議論に時間を要したのが低温試験法であった。日本では、低温下における交通量も比較的多いことから低温試験の導入が検討されており、中央環境審議会「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」の第十三、十四次報告でも今後の検討課題として言及されているところである。一方、欧州が採用してきたUNR No.83にはすでに-7℃を試験温度とする低温試験法が導入されており、UN GTR No.15 Amendment 6の検討の際も欧州が提案した試験温度は-7℃であった。日本では、国内のRDE(Real Driving Emission)試験について検討するため各都道府県別の気温別交通量調査を実施した結果から、-2℃以下に占める割合は1%以下であったことから、低温試験における試験温度としては-2℃が適当であると主張した(図3参照)。しかしながら、国際基準としてより多くの地域の環境をカバーすることが望ましいことから、今後高温試験の試験温度を検討する際には日本の実態に合わせて38℃をベースとすることを条件に、-7℃の低温条件に賛成することとなった。

UN GTRのUNR化

 WP29における国際協定として、自動車の構造および装置の安全・環境に関する統一基準の制定とその統一基準による装置の相互承認を図ることを目的とした1958年協定と、世界的な技術基準の調和を目的とした1998年協定があるが、日本政府はそれぞれ1998年、1999年に加入し、積極的に基準調和の推進に取り組んでいる。前述の通り、WLTP IWGでは主に、1998年協定における世界技術基準(UN GTR No.15,19)の制定と改定を行ってきたが、ここでは、並行してフェーズ2で検討した1958協定におけるUNECE規則(UNR No.154)について述べる。
 図4にUNR No.154の概要を示す。日本・欧州で異なるサイクル、燃料性状、規制値等を併記するレベル1と、満足すればIWVTA(国際的な車両認証制度)認可が取得できる最も厳しいレベル2のマルチレベル構造となっている。これらをシリーズ別に、レベル1の要件をUNR No.154の00シリーズ、レベル2の要件を01シリーズとして制定している。また、UNR No.154にはType 1 test(常温での排出ガス・燃費・電費試験)、Type 4 test(燃料蒸発ガス試験)、Type 5 test(耐久試験)の要件が含まれているため、従来から欧州が採用しているUNR No.83から同試験の記述は削除された。

まとめ

 現在、日本ではJC08モードに代わりWLTCが導入されているが、今後はさらに踏み込んだUN GTR No.15,19およびUNR No.154が日本で採用されることとなる。これらが自動車の開発と認証プロセスの効率化をもたらし、日本の自動車産業の発展に大きく寄与するものと期待している。
 WLTP IWGの会議は今まで計31回開催され、筆者はフェーズ2が開始された第14回から副議長に就任し、周りの方々に助けられながら、何とか副議長の任務を遂行することができた。WLTP IWGメンバー、特に国土交通省・環境省をはじめとする政府関係の方々と国内自動車メーカーのエキスパートの方々で構成されるチームジャパンメンバー各位に謝意を表する。