TOP > バックナンバー > Vol.11 No.8 > 舶用エンジンにおけるCO2回収実証実験の紹介
脱炭素化の世界的な機運が高まる中、国際海事機関(IMO)では、国際海運分野からのGHG排出量を2050年に半減し、今世紀中にゼロとすることを目指すGHG削減戦略が採択された。
MHIエンジニアリング(以降、MHIエンジ)は、川崎汽船(株)、日本海事協会と共同で、CO2回収装置利用の検証プロジェクト“CC-Ocean (Carbon Capture on the Ocean project)”を推進している。ここでは、その実施状況について報告する。本プロジェクトは、国土交通省海事局の補助事業である「海洋資源開発関連技術高度化研究開発事業」の支援を受け、洋上におけるCO2回収の実現を目的とする。
MHIエンジは、関西電力(株)と共同でCO2 回収技術を開発し、独自のアミン吸収液KS-1TM を用いたCO2 回収プロセスKM CDR ProcessTM を商業化している。このプロセスは、対象ガスに含まれるCO2 を90%以上(純度99.9vol%以上)回収し、独自の省エネ再生システムにより蒸気消費量の低減を実現する(作動原理の動画のリンク)。
1991 年のパイロット試験装置(2t/日)から実証試験装置(10t/日)を通じて運転実績とノウハウを積み重ね、1999年の初号機(210t/日)から世界最大機(4,776t/日)まで幅広いCO2回収装置を世界各国に納入し現在まで安定して稼働している。
JX石油開発(株)および米国独立系発電事業者のNRGエナジー社が共同で推進している大型原油増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)プロジェクト向けに、世界最大となるCO2回収装置(4,776トン/日)を納入し、2016年12月末に商業運転が開始された。
排ガスから回収したCO2は圧縮後、パイプラインを通じて油田に輸送・圧入される。必要な電気や蒸気は、付帯熱源から供給され、既設設備出力を低下させずに運転可能である。本CO2回収装置は、これまでの知見を活かし、新しい省エネシステムやアミンエミッション低減システムなどを採用した結果、納入装置の中でも最高の省エネ性能を達成している。
本実証試験は 2ヵ年計画であり、2020年8月から日本海事協会の検証の下、デモプラント装置および実船搭載にかかわるHAZID 評価(潜在危険および想定災害についての同定評価)とCO2 回収小型デモプラント装置の製造、システム安全評価を実施した。その後デモプラント装置の工場作動試験を経て、川崎汽船(株)運航の石炭運搬船“CORONA UTILITY”に搭載完了しており、GHG排出量削減を目指して、洋上環境下に於ける運転と性能確認計測を行う。
MHIエンジはCO2回収小型デモプラント装置の製造を担当し、化学吸収法を採用した陸上プラント排ガス処理用のCO2回収装置をベースに洋上転用している。
本船舶のディーゼルエンジン排ガスからのCO2回収システム系統の概念図を図4に示す。CO2回収装置は、排ガス冷却塔、吸収塔、再生塔の3塔から構成される。エンジン排ガスは冷却され、吸収塔にて、吸収液と排ガスが充填材表面にて対向接触し、排ガス中のCO2が吸収液に吸収される。分離排ガスは排ガス洗浄塔にてミスト除去後に排出され、吸収液は再生塔で加熱されCO2を放出して、再使用される。
洋上実証試験では、浮体・船体動揺がCO2回収性能へ及ぼす影響、排ガス中の硫黄分の影響、CO2吸収液の交換時期やストック量などの運用面及び船員によるオペレーションの安全性確認に関するアウトプットが期待されている。
三菱重工グループは次期事業計画において、CO2排出低減とCO2回収を促進し、2050年カーボンニュートラルの達成に貢献すると発表した。MHIエンジは、1990年よりCO2回収技術の開発を進め、1999年の初号機から現在に至るまで多くの商用機を納入し、本分野において世界トップシェアを誇っている。このCO2回収装置は、優れた省エネ性能と高い信頼性を有し、回収CO2は肥料・メタノールなどの化学製品やEORなど様々な分野で用いられている。
現在は、特定の発生源からのCO2回収をキーワードにモバイル装置の研究開発を進めており、船舶用エンジンからのCO2回収を含め、環境・エネルギー問題の解決に貢献していく。
Takahito YONEKAWA (MHI ENG), Kazuki SAIKI(MHI MSB)