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Vol.12 No.2

内燃機関車両のカーボンニュートラル実現に向けたAICEの技術シナリオ
AICE Technical Scenario of Internal Combustion Engines for Carbon Neutral
木村 修二
Shuji KIMURA
日産自動車株式会社
Nissan Motor Co., Ltd

アブストラクト

 現在、2050年までにカーボンユートラル(CN)を宣言した国は125か国を超え、世界の自動車会社も、電動化を中心としたCNへ取り組みを次々と発表している。電気自動車が大きな期待を集めている今、次のような問いをしばしば耳にする。「内燃機関車両は生き残れるか?」―我々AICEの答えは、‘YES’である。現在、CASEなどの最先端技術との融合によって、CNを実現できる新しい内燃機関を目指して、産学官連携による研究を推進している。
 本稿では、AICEのCN実現に向けた技術シナリオを解説する。なお、AICEにおける現在の研究の中から、3件について本特集号内で技術的取組みが紹介されている。AICEの研究例については、当該記事を参照されたい。

内燃機関車両によるカーボンニュートラル(CN)実現への挑戦
CN実現のための三つの技術

 CNに向けた各国の取り組みの中から、欧州委員会(EC)のシナリオ(図1)を例に、CN実現のシナリオを探ってみよう。ECのシナリオは、CO2 排出量を90%削減、CO2 除去量を2倍に増加させてCNを実現している。CN実現のポイントは、CO2 排出量をゼロにするのではなく、一定量削減し、CO2 吸収、除去技術との組み合わせによって実質的なCO2 ゼロを目指すものとなっている。
 表1に示す自動車会社(VolkswagenとGeneral Motors)のCN実現に向けたシナリオをみても、両社共に、CO2 排出量削減技術として、①電動化などによる効率向上、②再生可能エネルギーの利用、を掲げ、さらに③CO2 吸収・除去技術と、三つの技術を掲げている。

電気自動車(BEV)のCN実現に向けた課題

 内燃機関の課題の前に、CN実現に大きな期待を集めている電気自動車(BEV)の技術課題を整理した。
 現在の課題を表2に示す。第一の課題である、「発電時のCO2 排出量」は、各国で進む再生可能エネルギーへの転換よって、解決が期待される。また、第二の課題である「バッテリ製造時のCO2 排出量」も、製造時の再生可能電力の利用やバッテリのリユース、リサイクルによって大幅に改善されることが期待される。
 第三の課題である、「バッテリの資源の枯渇問題」は、今後のBEVの台数増との関係が深いため、2050年の台数予測を試みた(図2)。まず、2050年の四輪車の保有台数を予測すると、20億台(うち乗用車は14.2億台)であった (1) 。リチウムの埋蔵量8460万トン(炭酸リチウム換算) (2) 、BEVとハイブリッド車(HEV)用のバッテリのリチウム使用量を20kg/台、4kg/台、2050年時点での乗用車の電動化率100%の条件で予測すると、BEVの台数は5億台となり、2050年時点の乗用車の約35%程度に留まる結果となった。2050年に向けて、BEVの台数拡大には、レアメタル使用量の低減や新材料の開発といった、第3の課題の技術的解決策が必要である。

内燃機関車両の技術課題とAICEの技術シナリオ

 内燃機関搭載車両の課題は、走行中の燃料の燃焼によって発生するCO2 排出である。このCO2 排出量をゼロにするには、様々な技術で排出量を抑制することと、CO2 吸収、除去技術との融合が不可欠である。AICEでは、この課題を解決するための四つのステップを技術シナリオとして定義した。そして、それぞれのステップごとに選定した研究アイテムの効果を、数値解析で検証した。
 2015年のガソリン車のWell to Wheel CO2 排出量を100%とすると、①平均熱効率向上、②最大熱効率向上といったエンジンの効率向上策で、29.7%まで削減の可能性が示された。更に、AI制御や軽量化など、③車両の効率向上を含めると、20%まで削減可能である。さらに、④CO2 除去技術よってゼロを目指している(図3)。車として80%のCO2 排出量削減を行うことで、CN燃料の供給量やCO2 回収量は、従来のCO2 排出量から予想される量に対して、大幅に削減され、CN燃料の供給や価格、CO2 回収システムの実用化などの課題に大きな影響を与えることが期待される。

AICEの役割と今後

 AICEの役割を表3に示す。内燃機関車両のCN実現は大きな挑戦ではあるが、日本の輸送部門全体がCN社会にスムーズに移行できるよう、産官学連携による研究を推進している。AICEは、四つの技術シナリオを基に、乗用車および大型車、建設用機械などすべての内燃機関搭載車両の2050年までの目標値に落とし込んだ技術シナリオも策定している (3)
 本特集記事では、現在進めている研究の中から、エンジンの熱効率向上、排熱回収、AI制御の3分野の事例を報告する。今後共、日本の産学の連携、所謂、サイエンスとエンジニアリングの融合によって、内燃機関搭載車のCNに向けた技術シナリオを早期に実証していくことが、AICEの最大の役割と考えている。

【参考文献】
(1) 藤村 俊夫:自動車の将来動向:EVが今後の主流になりうるのか、PwC Japan合同会社
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/automotive-insight/vol3.html、(2021.3.31)
(2) U.S. Geological Survey: Mineral Commodity Summaries 2018, p.98 (2018)
(3) 木村 修二:「内燃機関車両におけるカーボンニュートラルに向けた技術シナリオの検討」2021 自動車技術会秋季大会
【さらに学びたい方へ】
(1) 経済産業省:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略、経済産業省
HP, https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-2.pdf(2021.3.31)