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TOP > バックナンバー > Vol.12 No.6 > ディーゼル機関における後燃え現象解析
SIPディーゼル燃焼チーム燃焼期間短縮グループ(明治大学、早稲田大学、徳島大学、千葉大学)では、燃焼期間短縮による熱効率向上を目指す最初のステップとして「後燃え」の現象解明に取り組んだ(「後燃え」とは燃料噴射終了後から膨張行程にかけて続く緩慢な熱発生を示す)。
千葉大学では、先行研究で開発された可視化手法を応用し、実機筒内の後燃え可視化に取り組んだ。さらに、詳細化学反応を考慮した燃焼数値解析で得られた三次元的な情報と比較することで後燃え要因を検討した。その結果、実機筒内の後燃えは、噴霧先端に形成される過濃混合気の燃焼が主要因であることが示された。本稿ではこれらの取り組み概要について紹介する。
明治大学では噴霧火炎中の燃料分布と熱発生領域を同時時系列可視化できる紫外可視化手法を開発した。燃料中、または燃焼生成による芳香族の紫外吸収影写真により燃料分布を捉えると共に、紫外撮影によりOH*を主体とした化学自発光を熱発生領域のマーカとして捉え、さらに直接撮影で輝炎を捉えている。近藤らは本手法により定容容器内の単一噴霧燃焼を調査し、後燃え要因が噴霧先端の過濃混合気であることを示した(図1)。(1) 本結果に対して、「定容容器とは燃焼場(温度、圧力、空間障害物の存在)の大きく異なる実機筒内においても後燃え要因は同様の現象と言えるのか」という課題を明らかにするために、実機での筒内紫外可視化に挑戦した。(2)
実機筒内の可視化実験には当時最新の排気量2.2Lの乗用車用4気筒ディーゼルエンジンを用い、4番気筒を可視化・解析の対象とした。紫外光を透過する特別に試作したボアスコープを耐熱、耐圧のスリーブへ挿入しシリンダヘッドに設置した。OH*固有の微弱な自発光をバンドパスフィルタ(310nm)で分離し、イメージインテンシファイヤで増幅し撮影した(図2)。輝炎からの輻射光の影響を考慮するため同条件で直接撮影も実施した。図において、可視化範囲を赤い破線で示している。紫外自発光および火炎の高速度撮影と同期して取得した筒内圧から熱発生率を算出し、撮影画像と併せて、後燃え要因を検討した。
Fig. 2 Experimental setup of multi-cylinder visualization
図3の上段から、非燃焼時の視野範囲、直接撮影、紫外撮影結果を示す。後燃え期間となる40.5 deg.以降の画像を比較すると、輝炎、紫外共にキャビティ内に輝度の高い領域が存在するが、最大輝度を示す領域には両画像で差が見られる。即ち、紫外自発光の最大輝度は赤丸で囲われた領域にある一方、輝炎は黄丸で囲われた領域、つまり紫外とは異なる領域で最大輝度を示している。輝炎と異なる位置で最大輝度を示す紫外自発光領域には相対的に高濃度のOH*が存在しており、熱発生領域に相当すると考えられる。また、高濃度のOH*は燃焼後半までピストンキャビティ内に確認でき、後燃えの発生領域と推察した。
三次元数値解析結果との比較実験による可視化では得られない奥行き方向の情報を補うため、三次元数値解析により、噴霧火炎全体の動きを把握することとした。周、足立らが検討した詳細化学反応を含むモデル(3)を使用し後燃えを再現した。図4は数値解析結果と高速度撮影結果の比較である。数値解析の結果から、噴霧火炎の過濃領域はキャビティ壁面に沿って旋回しながら、徐々に速度が低下してキャビティ外周壁上方の空間に停滞する。OH*はその過濃域の周りに広く分布し、熱発生の分布と重なることが分かる。つまり噴霧火炎先端の過濃混合気の周りで後燃えが発生している。実機では紫外光の高輝度領域が主にキャビティ壁周辺に確認されたが、OH*は空間の一か所に固まって存在するわけではなく、上下に分布したOH*の積算値として濃く見えていたことが確認された。
実機筒内の後燃え要因は定容容器と同様に燃焼噴霧先端の過濃混合気であることが確認できた。以後、本研究グループでは燃焼噴霧先端の過濃混合気の抑制手段として、噴射率制御に注力してくこととなる.こちらの内容については個別の論文を参照されたい。
SIPの一連の研究活動では他大学との連携及び産の強力なサポートにより一大学の研究では成しえない成果が得られたと感じている。この研究体制はAICEに引き継がれ継続中であるが、危急の課題であるカーボンニュートラルに対し一丸となって取り組んでいく所存である。
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