TOP > バックナンバー > Vol.13 No.4 > 社会で活躍する産業用エンジンのカーボンニュートラルへの道
2020年10月、菅前内閣総理大臣による2050年カーボンニュートラル(以下CN)宣言を受けて、様々な分野でCNに向けた検討が始まった。陸内協の会員各社が扱う産業用エンジンは、これまでオンロード(乗用車・トラック)エンジンの技術を踏襲してきた。しかし、オンロードエンジン(特に乗用車)のCNシナリオが、二次電池を搭載する電動化やハイブリッド化を主体することに対し、作業環境の異なる産業用エンジンには必ずしもすべては適用できないと考えられる。そこで本稿では、産業用エンジンとオンロードエンジンの違いや産業用エンジン特有の課題に加え、それに適応可能なCNシナリオの検討結果について報告する(1)。
産業用エンジンは、サイズ・使用燃料・用途ともに多岐である(図1)。これらを大きく五つのカテゴリーに分類する。一番小さなものはハンドヘルドで、2サイクルガソリンエンジンが主に用いられ、手で持って作業を行う。ノンハンドヘルドは、持ち運びができるが、概ね据え置きが多い用途で4サイクルガソリンエンジンが中心である。ノンロードは農機・建機に代表されるもので、国の規制の有無で2段階に分類しており(19kWが境界)、主にディーゼルエンジンが用いられる。最後が定置式で、コージェネ・ポンプ場・非常用発電など、主にディーゼルエンジンとガスエンジンが用いられる。GHP(ガスヒートポンプ)用エンジンは定置用に分類している。
産業用エンジンとオンロードエンジンはどう違うのか?乗用車やトラックの目的は、場所Aから場所Bに移動することである。例えば加速して坂を上ってBに移動した場合、位置エネルギーmghと速度エネルギー1/2mv2に相当するエネルギーを消費する。しかし、再び坂を下り減速して停止すると理論的には両エネルギーは回収できることになる(もちろん空気抵抗や摩擦抵抗などはあるが)。一方産業用の場合、エンジンの仕事はすべて作業(土を砕く、穴を掘るなど)に費やされるので、動力回生ができない。そのため、電動化しても電気を使う一方であり、結果として大きなバッテリを必要とする。これが両者の根本的な違いである。実際のところ、乗用車は思ったより少ない馬力で走行している(60km/hで8kW程度)(2)。
産業用エンジン固有の課題前述の動力回生ができないことに加え、そもそも産業用エンジンが使われるのは、電気の通っていない場所が多い。さらに、電動化した場合に充電所まで自走できない用途もある。かと言ってエンジン発電機を持っていくと言うのは本末転倒である。さらに、軟弱地で使われる機械などは、重くなると沈んでしまう。乗用車やトラックに比べ床面が広くないので、バッテリを搭載する場所が少ない。用途によっては長時間作業を止めることができない。このように産業用エンジンでは、電動化一点張りでは解決できない固有の課題がある。非常用発電機などは、バッテリに置き換えると、巨大なものになる上に充電時の放熱のため常時空調まで必要となる。
産業用エンジンは無くならない!ならどうする?電動化が困難な状況があるとは言え、CNに向かう必要がある。考えられるシナリオは、今のエンジンの優位性をそのまま保てる新燃料・代替燃料が中心になる。近年、バイオ燃料・e-fuel(H2とCO2から合成)・アンモニア・水素の直接利用など、多くの選択肢が提案され、研究開発がなされている(3)。そこで、現時点で前述の各カテゴリーにおいてどのような新燃料が期待されるかについて、産業用エンジンメーカーの技術者で議論を行いまとめた結果を表1に示す。燃料価格は不明な部分が多いが、基本的にDrop-in(そのまま使える)燃料であるe-fuelやバイオ燃料に大きな期待が寄せられていることが分かる。現時点では複数の選択肢があるが、今後絞られていくと考える。
エンジンは、熱を仕事に変換する効率の良いエネルギー変換装置で、ゆえに長年利用され、我々の生活を便利にかつ豊かにしてきた。CNに向けて、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーに大きな期待が寄せられているが、これらは安定供給が難しい。将来、超大容量・軽量の蓄電装置ができれば解決するかもしれないが、2050年までにできるとは考えにくい。よって、今降り注ぐ太陽エネルギーをe-fuelなどの燃料という形で一時保存してエンジンに供給することで、太陽光・風力発電の不安定性をカバーすることは有効だろう。そうした燃料の使い道として、産業用機械は自動車以上に内燃機関との相性が良く、さらに進化させて生き残るべきものと考える。
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