TOP > バックナンバー > Vol.13 No.4 > オフロードエンジンの将来展望
カーボンニュートラル(以下CN)の実現に向けて、乗用車分野では電動化への取り組みが加速している。一方、産業機械分野での電動化は、多種多様なオフロード機械への対応が必要な上、その使用特性に対する課題が残る。それは、使用特性上必要量のバッテリ容量確保が困難な事や電源までの自走が困難な事、更には乗用車と比較して動力回生の機会が少ない事などである。よって、オフロード機械ではフル電動化に加えて、内燃機関を利用し続けながらCNを実現出来る取り組みが有力となる。そのため、エンジン熱効率の改善、電動デバイスの有効活用、低炭素燃料対応等のアプローチが想定される。本稿では、CN実現に向けたオフロードエンジンとしての取り組み事例を紹介する。
オフロードエンジンは、図1に示すオフロード機械のパワートレインとして使われている。これらの機械は、トラクタやエクスカベータなど、自走しながら作業を行うものから、発電機やコンプレッサなど、定置使用するものまで多岐にわたる。そして、必要とされる現場での作業が目的となるという点で、オンロード車両とは一線を画す。さらに、オフロード機械においては、使用環境や作業内容も様々である。 例えば、トラクタでは、農耕地での耕耘作業が一般的だが、市街地での除雪作業にも使用され、作業に応じたエンジン回転および負荷が要求される。一方、一定回転数で使用される発電機では、建設現場の動力源として24時間連続稼働されるものもあれば、病院などの非常用自家発電設備として有事の際のみ稼働されるものもある。
オフロードエンジンの特徴オフロードエンジンは年々多様化が進み、オフロード車両は従来の汎用機から作業効率向上を求めて専用機に移行している。その特徴として、各オフロード機械に仕様を最適化した多彩なエンジンバリエーションの設定がある。具体的には、要求に基づく補機部品のオプション設定や、各機械の搭載スペースに応じた補機レイアウトの設定である。例として、クボタ製3.8Lエンジンの排ガス浄化装置における搭載形態の違いを示す(図2)。その様々なオフロード機械の多くは、極低温、高地、粉じんの多い場所など過酷な環境下で使用され、掘削、整地、耕作など高負荷域での使用がメインであることから、それに耐えうる高い信頼性が求められることも特徴である。それらを備え持つ内燃機関の継続利用により、CN実現に向けたオフロードエンジンとしての取り組み事例を紹介する。
CN実現に向けて内燃機関を活用した三つのソリューションを示す。それは、既存エンジンのさらなる低燃費化を目指すピュアエンジンソリューション、電動モータも活かすハイブリッドソリューション、代替燃料を使用するフューエルソリューションである。ピュアエンジンソリューションの事例として、電子制御小型ディーゼルエンジンを挙げる。19kW以下のエンジンを電子制御化し、新燃焼⽅式TVCRを適用して排ガス低減と低燃費化を両立した。TVCRは、小型エンジン専用に開発された独自のコモンレールシステムとオリジナルのE-TVCS燃焼方式を組み合わせた技術を有する。また、ECUはエンジンへの直載を可能とし、搭載性を向上させている。
ハイブリッドソリューションハイブリッドソリューションの事例として、クボタマイクロハイブリッドエンジンを挙げる。主にDCコンバータ、リチウムイオンバッテリ、モータージェネレータを追加搭載することでハイブリッド化したディーゼルエンジンで、高負荷が必要となった瞬間にモータが出力をアシストする。
フューエルソリューションフューエルソリューションの事例として、水素やHVO(Hydrotreated Vegetable Oil)の利用を挙げる。燃料を水素に置き換えた水素エンジンからはCO2が排出されない。HVOはバイオマスを水素化処理するプロセスを経て精製されるパラフィン燃料である。パラフィン燃料は欧州規格としてEN15940が定められ、品質や安全性の保障が整備されている。こういった低炭素排出となる代替燃料へのエンジン対応も求められる。
オフロード機械が使用される場面や課題を踏まえた上で、CNを実現できるパワートレインが必要になっている。Well to Wheelを考慮すると、電動化の場合は発電方法でCO2排出量が左右されるため、最適解とは限らない。また、オフロード用途に適した高い信頼性も必要となる。そこで、今回挙げたような内燃機関を活用した様々なソリューションが考えられる。オフロード分野における将来の主流エネルギーは明確となっていない。図7に示すような各種製品ポートフォリオを拡充し、多様な燃料種・電動化需要に対して即座に対応できる技術蓄積を行っていかなければならない。
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