TOP > バックナンバー > Vol.13 No.6 > AICE-PM/PNサロゲート燃料に対応した粒径分布モデル検証実験
SIP/AICEにおけるPM/PNモデル構築・検証活動では、独自にサロゲート燃料(以下,サロゲート)を定義して研究を進めてきた。特に提案した5成分サロゲートは、単気筒エンジンを用いて実験を行った場合、市販ガソリンのPM/PN排出特性をよく再現することを実験的に確かめてある。一方、開発したモデルは適切に検証が行われる必要があるものの、エンジンによる実機計測結果だけでは関与する現象が多く、どこに問題があるのか判断が難しい。そこで、燃料は予め気化した上で定常的に伝ぱ火炎を形成し、粒径分布の計測が可能な実験装置を製作した。本装置を用い、噴霧・蒸発モデル等に依存しないPNモデルの検証を行うことができた。
近年、自動車用エンジンの排出ガス基準には、微粒子の排出質量に加えて排出個数に関する厳しい規制が含まれている。そのため、大きさごとの個数を含めた微粒子排出特性について、定性的かつ定量的な予測が可能であり、エンジン運転条件の最適化に活用できる予測モデルの構築が求められている。SIP/AICEにおけるPM/PNモデル活動では、独自にサロゲート燃料(以下、サロゲート)を定義して研究を進めてきた。特に、イソオクタン・ノルマルヘプタン・トルエン・イソペンタン・1,2,4トリメチルベンゼンから構築される5成分サロゲートは、単気筒エンジンを用いて実験を行った場合、市販ガソリンのPM/PN排出特性をよく再現することを実験的に確かめてある(1)。そのようなサロゲートを対象として、著者らは排出質量が予測可能なモデル(AICE-PMモデル)(2) - (6)、粒径分布まで予測可能なモデル(AICE-PNモデル)の開発に取り組んでいる(7)。一方、開発したモデルは適切に検証が行われる必要があるものの、実機計測結果だけでは関与する現象が多く、どこに問題があるのか判断が難しい。そこで、燃料は予め気化した上で定常的に伝ぱ火炎を形成し、粒径分布の計測が可能な実験装置を製作した。本稿では実験装置、また現時点で公開可能な一部の結果を紹介する。
実験装置および実験方法
粒径分布については、Burner Stabilized Stagnation Flame(BSS火炎)を用いた計測、検証例が多い。本研究では新たに、高沸点燃料成分まで対応できるように工夫したBSS火炎実験装置を作成した。
BSS火炎実験装置は主として、予混合気ダクト出口に焼結金属を設置することによって平面火炎を安定に形成できるバーナと、試料ガス採取管路(内径10 ㎜、開口部直径3 ㎜)を内蔵した噴流衝突平板で構成される。焼結金属温度と平板温度は、水冷によって温度を一定に保つことができる。実験システムの概略を図1に示す。ダクトから噴出した予混合気は平板に衝突し、形成された伸長流動場に平面過濃予混合火炎が保持される。BSS火炎では、バーナ出口から平板までの距離を変化させることによって、火炎背後から試料採取されるまでの滞留時間を変化させ、異なる成長時期の粒子を評価できる。液体燃料は独自に作成した気化器を用いて気化させている。粒径分布の計測には、KANOMAX社製のポータブル・エアロゾル・モビリティー・スペクトロメータModel 3310およびTSI社製の粒径分布計測装置(TSI SMPS model 3938、計測レンジ2 - 64 nm)を用いた。
図2にBSS火炎の1例を示す。
ところで、本研究ではAICE-PM/PNサロゲート燃料を実験対象としており、その中には高沸点成分も含まれている。また、本研究では予混合火炎を取り扱うとともに、すすの研究であることから過濃条件を対象としている。酸素よりも分子量の大きな燃料の場合、過濃条件ではルイス数の影響によって火炎が不安定になりやすい。そこで、BSS火炎実験装置では焼結金属を用い、予混合火炎をその近傍に保持することで、逆火を防ぎつつ定常的に安定な火炎を形成している。この場合、火炎が焼結金属近傍に存在することから、部材の温度が高くなりやすい。その温度を、用いた焼結金属の使用温度(例えば300℃程度)以下に冷却しつつも、通過する燃料が凝縮しないように沸点(例えば170℃)以上に温度を保つ、この温度管理が非常に難しかった。焼結金属を使用したバーナには、標準品として市販化されたものもある(McKenna burner)。この製品では焼結金属中に冷却管を埋め込んであり、冷却は比較的容易である。一方で、冷却管近傍をガスが通過するときに燃料が凝縮することが懸念された(同等の形式での予備実験で、凝縮を確認)。詳細は紹介できないものの、本実験条件を達成するために、装置の設計製作は研究担当者が主となり、学内の工場で指導を受けながら加工した。さらに、県内の特殊加工を得意とする企業や同様の装置を有する海外の研究者と連携して知見を得ながら装置を完成させた。最後に、技術者として基本的なことではあるものの、実験前の暖気や細かい準備を毎回しっかりと行い、実験値を取得することができた。
図3に、イソオクタン/トルエン混合燃料条件に対するモデル計算結果を、実験結果とともに示す。実験条件名のIはイソオクタン、Tはトルエン、その後の数字は混合割合を示す。また、AICE-PNモデルが提案モデル、CRECKは文献モデルである。なお、図中の灰色領域はPAMSの計測範囲外を表す。当量比2、I075T025およびI050T050条件については、実験中にPAMSに不具合が生じたため、TSI SMPS model 3938を用いて計測を行ってある。詳細は既報(7)等に譲るものの、このような実験結果に基づき、噴霧・蒸発モデルに依存しないPNモデルの検証を行うことができた。
本研究では、燃料は予め気化した上で定常的に伝ぱ火炎を形成し、粒径分布の計測が可能な実験装置を製作した。本装置を用い、噴霧・蒸発モデル等に依存しないPNモデルの検証を行うことができた。本報告では、結果の一例を紹介した。現在も、様々な燃料パラメータの変更やバイオ燃料の混合が及ぼす影響の実験などを実施し、興味深い結果も出てきているが、新しい計測が故に、結果の十分な吟味が必要である。今後は、得られた結果を随時公開し、持続可能な社会の形成に寄与できる燃料設計の知見を提供してゆく。
最後になりますが、ご支援いただいた皆様に心より感謝します。ありがとうございました。
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