TOP > バックナンバー > Vol.14 No.1 > 熱効率50%に貢献する摩擦損失低減の研究
SIP研究では50%を超える熱効率の実現に加え、現象解明によってエンジン設計を支援する革新的な解析モデルの構築を目指した。この目標のために「学」の低摩擦の研究成果をエンジンしゅう動部品に応用して検証する体制と、しゅう動面の摩耗・焼付きの現象解明と危険予測、加えてLOC(Lubricating Oil Consumption:潤滑油消費)の予測と低減に向けた解析モデルの開発を研究課題とした(2)。図1は研究開始時の研究シナリオで、2014年度~2015年度は潤滑に関する個々の課題の明確化を進め、2016年からは大学発の低摩擦の研究や企業の知見を摩擦しゅう動部品へ導入して検証を進めるとともに、なじみ・焼付きおよびLOCのモデル化のための現象解明を進めた。2017年にはこれらの研究成果がガソリンで52%およびディーゼル機関で50%の摩擦損失低減になるようにGT-power等で試算して新たな研究成果の導入の検討をした。
研究や企業知見で得られた摩擦低減効果のエンジンへの実装2014年度から2018年までに検討・導入した摩擦低減要素を図2に示す。基本諸元の見直しや企業知見の導入(低バレルリング+ディンプルボア等)、低粘度油0W-8と大学提案の添加剤構成、名城大が開発した固体潤滑剤のピストンスカートへの付与(3)(4)、レーザテクスチャ軸受など主要なしゅう動部の表面性状の変更や荷重低減などを実施してその低減効果を調べた。実験検証は4気筒エンジンでの摩擦平均有効圧だけでなく、浮動ライナエンジン(FLE)やエンジン軸受試験機での評価を加えた(5)(6)(7)(8)。名大梅原研では軸受材料上にDLC(a-C:H)やCNxのオーバーコートを施し、摩擦係数や比摩耗量の低減効果を基礎試験で調べ、上述の軸受試験機で実証した。東北大足立研ではレーザを用いた表面テクスチャによる摩擦低減効果のメカニズム解明に加え、軸受での効果検証を進めた。難易度の高い焼付き予測モデルにも取り組み、図3はその例で、東北大栗原研では独自の共振づり測定法で添加剤成分の異なるSIP研究専用エンジン油(SIP-A~E)によるナノオーダーの最小油膜厚さの違いを調べ、これらの結果は九大八木研での焼付き現象の可視化結果も加えて、東北大宮本研で焼付きモデル開発を具体化した。
浮動ライナエンジンでの摩擦低減効果の評価クランク角度毎のピストン系の摩擦力計測が可能なFLEによる実験結果の例を図4に示す(9)(10)。標準バレル(張力14N)のピストンリングの摺動面形状を低バレル(なじみ形状+張力9N)にした場合、行程中央および上下死点付近において10N近くに及ぶ大幅な摩擦低減効果が得られた。シリンダライナへディンプルを付与すると低バレルリングとの相乗効果で摩擦が更に低減した。この他、リング張力は同じでバレル形状のみを変えた場合にも、低バレル形状のピストンリングはオイル粘度を0w-20から0w-8に下げた場合と同等の摩擦低減効果が得られており、LOCとのバランスを考慮した上で、積極的な流体潤滑の発生を促すしゅう動面の導入が摩擦低減に効果的であることが分かっている。
浮動ライナエンジンでの摩擦低減効果の実証例図2および図3に示した低摩擦要素のうち、スタンダードエンジンを100%とした際の摩擦低減効果を図5に示す。基本諸元の変更・オイルの低粘度化・低バレルリングとディンプル付きライナ・摩擦調整剤と清浄剤を調整した添加剤の適用等で、50.4%の摩擦低減の可能性が得られ、ピストンスカートへのMoS2圧入等を加えると更なる摩擦低減の可能性が示唆された(10)(11)(12)。一方、実用面で考えれば、摩擦低減の長期的な効果や片当たりによる局所摩耗や音振の課題、上述したLOCとのバランスの検討も必要であり、継続した研究が必要である。
SIP研究の推進時は、多くの摺動部に対して実験実証およびなじみ/焼付きの解析モデルやLOCの予測モデル開発の試みを産学連携で行った。様々な成果が得られベンチャー企業もできたが課題も多く顕在化し、エンジントライボロジーの解析モデルの構築にはマルチフィジクスの実現が重要で、多くの分野の基礎研究が益々重要であると改めて認識した。本学でも研究を進めている水素エンジンでも運転条件に応じた燃焼生成物等による潤滑油の劣化が散見され、カーボンニュートラル燃料における摩擦・摩耗・焼付きおよびLOCの課題等、研究課題は尽きないと考える。
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