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Vol.14 No.7

二輪車用エンジンのカーボンニュートラル対応
Carbon Neutral for Motorcycle Engines
二宮 至成
Yoshinari NINOMIYA
スズキ株式会社
SUZUKI MOTOR CORPORATION

アブストラクト

 二輪業界においても、マルチパスウェイでのカーボンニュートラル対応が進んでおり、この難局に対して、メーカーの枠を超えた取り組みも増えている。水素エンジンは、将来の水素社会に向けて、研究すべき技術であるが、一方エネルギー密度の低さから二輪車への水素搭載に課題があり、また燃焼にも課題があることから協調して解決していく必要がある。合成燃料は、内燃機関のカーボンニュートラル対応としては直近の有力な対策になり、製造コストなどの課題が解決できれば、大きな変更なしで、二輪車用内燃機関は生き残ることができる。ここでは、将来技術である水素と、直近の対策である合成燃料について紹介する。

水素エンジン
HySE

 カワサキモータース、スズキ、本田技研工業、ヤマハ発動機の4社は、小型モビリティ向け水素エンジンの基礎研究を目的とした「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology)」を設立した(図1(1))。水素には燃焼速度の速さに加え、プレイグニッション、バックファイアなどの異常燃焼、着火領域の広さからくる不安定な燃焼などエンジンとしての課題に加え、小型モビリティへの水素タンク搭載や水素充填、安全性確保など車両としての課題もある。そこでHySEでは、これまでのガソリン燃料を用いたエンジン開発で、各社が培った知見や技術をもとに、連携してこれらの課題解決に向けた基礎研究を進めている。

ダカールラリー参加

 HySEは2024年1月5日から1月19日まで開催された「ダカール2024」において、水素や電気、バイオフューエルとのハイブリッドなどカーボンニュートラルに向けた次世代パワートレインの技術開発を促す目的で設定された新カテゴリー“Mission 1000”に「HySE―X1」(図2)にて参加した。世界一過酷なモータースポーツと言われる厳しい環境条件下で、研究中の水素燃料エンジンを搭載した「HySE―X1」を実走行させることで、加速中の異常燃焼や燃費、耐久性など、台上試験では得られない課題を抽出することが目的である。想定を超える設定ルートの89%を走行することができ、走行条件違いで多くのデータを取得することができた。今回は、各ステージを走りきるための余裕を持った水素量が搭載できず、低い速度域を多用した燃費走行に徹する状況も多かったが、タンクの追加とエンジンの燃費改善を行うことで、更なる高い速度域でのデータ取得を狙い2025年も参加予定である。

水素エンジン二輪車

 HySEでの基礎研究を進める一方、二輪各社で試験車両を作製し、水素エンジン二輪車としての課題抽出に向けた動きも出ている。ヤマハ発動機はジャパンモビリティショー2023に水素エンジン搭載の研究用スクータを展示している(図3)。カワサキモータースは、「Ninja H2」をベースとした水素エンジンモーターサイクルを製作し、鈴鹿サーキットにて公開走行を実施している(図4)。スズキは大型スクータ「BURGMAN400」をベースに、水素タンクを車体中央下部に配置した水素エンジン車「水素エンジンBURGMAN」を試験車両として制作し、社内テストコースにて、走行テストを行うとともに、ジャパンモビリティショー2023、人とくるまのテクノロジー展(横浜・名古屋)に展示している(図5)。二輪車は、そもそも水素タンクを搭載するスペースがなく、いかにして二輪車としてのデザインや走行フィーリングを維持しながら、車両として成立させていくのかが課題である。

合成燃料
レースにおける合成燃料開発

 四輪車のレースでは、スーパー耐久において未来を見据えた車両開発を目的としたST-Qクラスを設定し、カーボンニュートラル燃料技術の開発を推進している。特に最近では、「共挑 S耐ワイガヤクラブ」を結成することで、メーカーの枠を超えた技術交流が進んでいる。二輪のレースにおいては、国内最高峰クラスであるJSB1000において、カーボンニュートラル燃料であるハルターマン・カーレス社製「ETS Renewablaze Nihon R100」の採用が実現している(2)。この燃料は植物ゴミや木材チップなどのバイオマスを原料とし、化石由来の原料を一切使用していないことが特徴となっている。現状はオイル希釈に課題があるとされている。

スズキCNチャレンジ

 スズキは、「2024 FIM世界耐久選手権"コカ·コーラ" 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第45回大会」に、燃料をはじめ、複数のサステナブルアイテムを使用して参戦した(図6(3)。チーム名は「チームスズキCNチャレンジ」として、実験的クラスとして設定される「エクスペリメンタルクラス」での参戦となっている。結果として問題なく8時間走行することができ、216ラップ総合8位で完走することができた。今回スズキが使用した燃料は、40%バイオ由来のサステナブル燃料「ELF MOTO R40 FIM」である。燃料特性の違いからエンジン適合は変更している。オイルはMotul製バイオ由来ベースオイルとしたが、耐久性には問題ないことが裏付けられた。なおタイヤ、カウル、ブレーキなど車体部品に関してもサステナブルな新技術アイテムを投入している。

まとめ

 カーボンニュートラルは、各国、各地域に適したマルチパスウェイで取り組む必要があり、電動化のみで達成できるものではない。内燃機関もまだまだ活躍できる動力源であり、二輪車としても、近場の移動は電動スクータで、趣味性が高く長距離運転も行う中大型機種は内燃機関が担い、ニ極化していくと考えている。引き続き内燃機関の研究を進め、カーボンニュートラルの実現に貢献していきたい。

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