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コラム

内燃機関の熱効率向上とゼロエミッション
Thermal efficiency improvement and a zero emission of internal combustion engine
飯田 訓正
Norimasa IIDA
本誌編集委員長 / 慶応義塾大学
JSAE ER Editorial Committee / Keio University

自動車動力源の変遷の歴史
 昨今、自動車の電動化がマスコミに頻繁に取り上げられているが、自動車の動力源の歴史を遡ると多様な展開であったことが分かる。
<蒸気機関>
 世界で初めての自動車は蒸気機関を動力源として1769年に産声をあげた(Cugnot’s Steam Carriage 1769)。蒸気機関はJames Wattの改良により、様々な用途の動力源として発達し、産業革命をもたらした。その後、大量に普及する過程で蒸気ボイラーの爆発事故が頻発したことが記録されている。
<電動モータ>
 1777年に電池、1823年には電動モータが発明され、1873年電動の四輪トラックが英国で実用化される。フランスで開発されたEVは世界で初めて車速100 km/h 超を達成し(La Jamais Contente 1899)、ポルシェ社は電動車の製造会社として創業した(Porsche’s EV 1900)。電動車は内燃機関車より古い歴史を持ち、1840~1910年代は電動車の時代であったと言える。
 しかし、電動車は、小型軽量で高出力という内燃機関の優位性、および液体燃料の利便性には及ばず、一旦市場から姿を消すことになる。
<内燃機関>
 1885年にドイツにてSIエンジン搭載の自動車が開発され(Benz)、1908年には米国でT型フォードがライン生産方式により大量に生産された。1925年にはドイツでディーゼルエンジン搭載のトラックが開発され(MAN Diesel Truck)、1900年代には自動車の動力源は内燃機関に置き換わった。

動力源とエネルギー源の歴史
 動力源の変遷をエネルギー源の視点から遡ると、自動車発明当初の石炭火力から、続いて石炭火力で発電した電力、そして石油系の液体燃料へと変わった。人類の液体燃料の使用は鯨油を照明に用いたことに始まるが、鯨油の供給不足をきっかけに化石燃料である石油を基油とする液体燃料が鯨油の代替として開発された。それが内燃機関の発達と相まって自動車、船舶、飛行機のエネルギー源として世界で広く利用された。近年では気体燃料である天然ガスが利用され、<燃料電池>への水素の利用が試みられつつある。

カーボンニュートラルに向けて
 2020年に菅首相は、温室効果ガスの削減目標として、2050年までに実質排出ゼロ「カーボンニュートラル」を実現することを表明した。これは、パリ協定の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低くする目標をさらに踏み込んだ「野心的なビジョン」と言える。
 ビジョンの実現には、これまでの延長線上にない「非連続なイノベーション」が模索され、環境と成長の好循環を実現しつつ、温室効果ガスの大幅削減を目指すことになる。
 ビジョンは「あるべき姿」に向かって、あらゆる可能性と道筋を追求するもの(べき論)であり、現在見通せる対策や方策の積み上げプロセスとは性質が異なるものだ。ビジョンとプロセスは明確に分けて、実効性の高い施策を着実に講じてゆくことが求められる。
 カーボンニュートラルCNの実現は、CO2排出量と回収量をバランスさせることを意味する。エネルギーの製造過程および使用過程で排出するCO2を大幅に削減することに併せて、大気中からCO2を回収するインベーションが求められる。CNなエネルギー源(水力、風力、太陽光、バイオマス等の再生可能エネルギー)の利用が求められるが、それだけでは絶対量が足りず、エネルギー需要を賄えない現実にある。
 地球上にある資源およびエネルギー源を再度精査して、製造過程にてCO2を発生しないこと、炭素回収のプロセスを導入すること、等により、NCな燃料、およびCNな電力を供給するイノベーションが求められる。これは100年の計となる人類の壮大なチャレンジだ。

内燃機関の高効率は永遠の課題
 2050年にカーボンニュートラルが達成できたとしても、実は、2050年に至るまでの期間に排出されるCO2は大気中に蓄積される。よって、目標年の2050年を待つことなく、CO2排出量を今から削減することが重要である。その意味で内燃機関の熱効率向上は極めて火急の課題だ。
 液体燃料は供給性と安全性において圧倒的優位性を持つことから、過疎地でのモビリティ確保にはカーボンニュートラル(CN)燃料と内燃機関の組み合わせが必要だ。CN燃料はエネルギー変換によりコスト高となるので内燃機関には「さらなる効率向上」が求められることになる。ゼロエミッションと高効率は永遠の課題といえる。

おわりに
 世界の自動車会社、石油会社、大学等の研究機関の研究者・エンジニアの皆様には、自動車用の新規動力源の研究開発に並行して「内燃機関の究極の熱効率とゼロエミッション」の研究開発とその早期普及に取り組んでいただきたい。

注記:本コラムは「JSAE関東支部報「高翔」第72号巻頭言」を簡素化して掲載したものです