昨年11月21日~24日の期間、東京(両国)で第33回内燃機関シンポジウムを開催した。当該シンポジウムは、テーマを「持続可能社会における内燃機関」とし、第60回燃焼シンポジウムとコロケーション開催した。筆者は実行委員長として当該シンポジウムの運営に携わった。ここでは、当該シンポジウムの概要を振り返るとともに、3年ぶりに対面開催されたシンポジウムに対する感想を述べたい。
開催趣旨については、予稿集序文の一部を以降に再掲する。エネルギーとモビリティに対する枠組が、2050年カーボンニュートラル達成という目標の下に大きく変化し、従来枠組内で最適化されてきた内燃機関にも変化が求められているが、この枠組の変化に対する社会構造の変化は長期にわたるため、従来枠組で、経済性、利便性、エネルギーインフラへの適合性において高度に最適化された内燃機関を、動力の部分電動化、燃料のカーボンニュートラル化とあわせて有効利用することが、2050年までの温室効果ガスの累積排出量低減に大きく貢献すると考える。このためには、内燃機関の高効率化と環境負荷低減を今まで以上に加速しなければならない。さらに、持続可能社会においても継続使用される内燃機関の開発には、その基礎である燃焼現象の正しい理解が必要である。前掲の社会要求の応えるため、当該シンポジウムを、燃焼の基礎研究の最新情報を研究者間の直接交流により得ること、基礎研究者と技術開発者が課題を共有し新たな技術革新のためのアイデアを得ることを目的に、第60回燃焼シンポジウムと同日程・同会場で連携開催した。
シンポジウム開会式における筆者の挨拶では、上位枠組の変化に対しシステムの新たな平衡点を見出すためには、システムに係る全ての分野の技術者間で、分野を横断した科学的かつ客観的な視点に基づく議論が必要であること、さらにその議論の結果を社会に提示することが重要であることを述べ、セッションではこれらの重要性を意識して議論いただきたい旨を参加者にお願いした。
シンポジウムでは、燃焼シンポジウムとの合同企画として、石山拓二氏の特別講演「ディーゼル燃焼の研究とエンジンの低エミッション・高効率化」、合同フォーラム「カーボンニュートラルに向けた内燃機関×燃焼×燃料の挑戦」、合同懇親会を実施した。当該シンポジウム単独企画としては、SI機関基調講演として鈴木琢磨氏の「電動車両に特化した高効率発電用エンジンのための筒内ガス流動コンセプト」、CI機関フォーラム「Sustainableな高効率Powertrainを目指して」を開催した。一般公演では22セッションで85件の研究成果発表が行われた。
3年ぶりの対面開催ということもあり、シンポジウムには多くの方(両シンポジウム合わせた参加登録数:670名)に参加いただき盛況の裡に終えることができた。最後に当該シンポジウムに対する筆者の感想を述べる。開会式で参加者にお願いした分野を超えた議論については、従前シンポジウムに比べ活性化した印象を持った。エンジン筒内現象に対する科学的視点に基づく質問や議論も行われ、今後の分野連携につながればよいと思わせる議論もあった。しかし、総体的には「エンジン村」の議論が多かったように思う。開催趣旨において、「従来枠組で高度に最適化されたエンジン」の必要性を掲げたが、個別技術の枠に収まっていては革新的な進歩は望めない。一方、燃焼シンポジウムとの合同フォーラム「カーボンニュートラルに向けた内燃機関×燃焼×燃料の挑戦」については、燃料を含めたエネルギー変換システムとして、CN対応技術と内燃機関の組み合わせはエネルギー収支の悪化を受け入れざるを得ない場合が多く、これは経済自立性としてはとても不利であり、社会受容を得るには、利用者の価値観の変化も求められること、価値観の変化に関して技術者としての見解を積極的に社会に提示する必要があることを強く感じた。以上のように、本シンポジウムは、持続可能社会における内燃機関の在り方を上位枠組の変化を意識して議論する場として、分野を超えた連携に貢献したと思うが、今後さらに連携を加速し具体的な社会貢献につなげるには、意識改革を含めた技術者の一層の努力が必要であると思った。
会場に隣接する横綱町公園の一角に東京都復興記念館がある。20年以上前に一度訪れたことがあったが、セッションの合間に再訪した。シンポジウム会場のある一帯は、近代において関東大震災と東京空襲の2度にわたり被災している。記念館は、被災状況とその後の復興の様子を資料や写真により今に伝えている。被災直後の生々しい写真、炎熱にさらされ溶曲した機械や自動車等の展示物と、被災の痕跡を全くと言っていいほどうかがわせないまでに復興した現在の同じ場所の光景を対比させられ、我々技術者は予測困難な将来における危機を可能な限り防ぐ努力をなお一層強めねばならないと思った。
第33回内燃機関シンポジウムのセッション内容については、弊誌Vol.13 No.3(2月発行予定)にて報告する予定である。
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