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コラム

渡邊 学
発酵
Fermentation
渡邊 学
Manabu WATANABE
本誌編集委員
JSAE ER Editorial Committee

 今回の題目は「発酵」です。
 皆さんは発酵と聞いて何を思われるでしょうか? お酒?ヨーグルト?? それともバイオアルコール燃料でしょうか?
 発酵の定義はいろいろあるようですが、「ある物質」が「別のある物質」へと微生物の働きで変わること、というのが一般的なもののようです。有名なものにアルコール発酵があります。この場合、できるものは「お酒」です。そのほかにヨーグルトや納豆、味噌や醤油なども「発酵」を用いて作られる食品ですね。
 個人的な話で恐縮ですが、最近ドイツワインにはまり込んでおり、いろいろと勉強し、資格を取ったりもしました(ドイツワインケナーという資格があります。皆さんもご興味があればぜひ!)。今回は発酵の奥深い世界をちょっとだけご案内します。
 ワインとは、ブドウ果汁に含まれる糖分を酵母の働きによってエチルアルコール(エタノール)に変換すること(アルコール発酵)により作られるアルコール飲料になります。この酵母によるアルコール発酵のメカニズムを解明したのは、ルイ・パストゥールという19世紀の有名な微生物学者です。アルコール発酵でできる飲料という意味では日本酒も同じではないか、と思われる方もいるかもしれませんが、酵母は糖分をエタノールに変換する能力しか無く、一方日本酒の原料であるお米には糖分がほぼないため、いったん麹菌を使ってお米のでんぷんを糖分に変換し、その糖分をさらに酵母によってアルコールに変換させるという2段階の発酵を行っています。麹菌による発酵の過程で糖分のほかにアミノ酸などのうま味物質も生成され、これが日本酒の独特な味わいにもつながっています。
 話をワインに戻しますが、ワインはブドウのみを原料としたアルコール飲料で、その起源は約8000年前のメソポタミア地方までさかのぼるとされています。その後、エジプト、ギリシャ、そして古代ローマへと伝えられ、ヨーロッパ全土へと広まっていきました。キリスト教の聖書の物語にも出てくるくらい広く飲まれていましたが、その理由の一つとして、当時は「飲料水」の衛生状況が良くなく、アルコール飲料であるワインのほうが雑菌の繁殖を抑えて清潔で安全であったから、とも言われているようです。
 少しドイツワインの宣伝をさせてください。皆さんはドイツワインというとどんなイメージでしょうか? 甘ったるい白ワイン?? それは1980年代のイメージです。今は辛口の白ワインが主流で、冷涼な気候のドイツで栽培されたリースリングというブドウから作られる辛口(trocken)の白ワインは、柑橘類や桃のような芳香をまとい、強い酸味とわずかな残糖とからなる味わいが絶品です。機会があればぜひ美味しいドイツのリースリングを飲んでみてください。また、フランス・ブルゴーニュのピノ・ノワールにも負けない美味しい赤ワインも増えてきました。こちらもおすすめです。
 最後に生産量について目を向けてみましょう。OIV(国際ブドウ・ワイン機構)が2024年11月に発表した推計によると、2024年の世界のワイン生産量は2億2700万~2億3500万hlと推定され、1961年(2億2000万hl)以来、最低の収穫量となる見通しだということです。これは過去10年間の平均と比較して13%の減少になるとのこと。OIVは南北両半球の気候変動が生産量減少の大きな原因となっていると主張しているようです。温暖化の影響はかなり深刻なようで、ブドウ栽培の適地の緯度がどんどん上がっているという話もあります。
 さてこの生産量ですが、平均予測量2億3100万hlが過去10年の平均の13%減とすると平均は26,600万hl=2,660万kl! アルコール濃度を12.5%で換算するとエタノール量として330万kl強になります。また、これを生産するために約730万ヘクタールの土地がブドウ畑として使われています。一方、燃料用のバイオエタノールは、経済産業省の資料によると2023年の米国・ブラジルにおけるエタノール輸出量が697万klとのこと。全世界で飲まれているワイン中のエタノール量の約2倍ですね。これを多いとみるか、少ないとみるか‥‥。
 いずれにしろ、植物を原料にして工業製品を作ることは、農産物の生産と規模感が大きく異なってくると思います。個人的には「発酵」技術は職人芸の領域で奇跡のようなおいしいワインの生産に使われてほしいなと思います。では、モビリティのエネルギー源はどうするのかって?それは美味しいお酒でも飲みながらじっくり語りましょう!

 最後に一言。「飲んだら乗るな! 乗るなら飲むな!!」 飲酒運転はだめですよ。

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