TOP > バックナンバー > Vol.9 No.6 > 特集:電力供給システムとEV普及の関係
*2 この記事の詳細版PDFはこちらからダウンロードできます。
将来のEV普及により、電力系統に多くのEV蓄電池が接続されることになり、電力の安定供給システムとの連携が期待されている。本稿では、EV充電電力に適用する電力CO2排出係数および電力会社視点のEV電池活用可能性について解説する。
現在(2019年7月現在)、47の電力会社が参加する電気事業低炭素社会協議会では、政府が示す「2030年度の長期エネルギー需給見通し」に基づき、2030年度の国全体の排出係数を0.37kg-CO2/kWh程度(使用端)にする目標を掲げ、毎年、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを実行し、経団連および政府に報告している。また、同見通しの非化石電源比率、44%の実現のため、エネルギー供給構造高度化法で、電気事業者の2030年度の非化石電源比率を44%以上とすることが義務化されている(3-1)。さらに、火力発電所に関しては省エネ法の新設基準で燃料種毎の最高水準発電効率の基準が設定され、ベンチマーク制度では各火力発電事業者の目標効率が44.3%以上に設定されているので、必然的に通常の石炭火力発電ではなく発電効率の高いLNG火力発電の割合を増やす等の取り組みが必要となっている。このように、電力事業者はCO2排出係数、非化石電源比率、燃料種毎の火力発電比率と「比率」による規制および自主的取組で電源種の制約を受けながら、地球温暖化対策としてCO2排出量低減の取り組みを進めている状況にある。
国際的な産業団体であるWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)と米国のシンクタンクであるWRI(世界資源研究所)が、企業等が自主的に温暖化対策をする際にその効果である温室効果ガス排出量を算定するルールとして「GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)」を作成している。図3-1に示す様に、原則を定めた「コーポレートプロトコル」に加えて、プロジェクト毎の削減量取引を視野に入れた、通常のビジネスベースではコスト面等から実施されないような、温室効果ガス排出削減の追加性を有するプロジェクト毎の想定削減量を算定するための「プロジェクトプロトコル」を発行した。さらに、その補足ガイドラインとして「系統電力削減プロジェクトガイドライン」が作成された。
「系統電力削減プロジェクトガイドライン」では、日常の電力負荷の変動に対応して稼働を停止する電源(短期的影響電源(Operating Margin))と電源建設計画に影響を与えるような緩やかな変化に対応して設備を無効化する電源(中期的影響電源(Build Margin))による排出量で評価している。その上で、個別プロジェクトの特性や継続期間に合わせて、短期的影響と中期的影響の比率を最適化し、電力削減排出係数を算定する方法をとっている。
なお、各電気事業者は直接保有する電源や相対契約の電源だけでなく、多様な電源種が含まれる日本卸電力取引所のスポット取引等も活用して短期的な需要の増減に対応している。この取引は、経済産業省・環境省・農林水産省が運用する「J-クレジット制度」によって発行される排出削減量に対応した貨幣価値の証書によることで「追加性を有するプロジェクト」の削減効果の評価が可能となっている。削減排出量の算定は,電源設備導入から1年後までは限界電源(系統全体の時々刻々の電力需給バランスを保つための負荷追従電源であり、Operating Margin)排出係数を、1年後~2.5年後までは限界電源排出係数と全電源平均係数の平均値を、2.5年後以降については全電源平均係数を適用している(3-3)。
将来、EVがどこまで普及していくかを現時点で的確に想定することは困難だが、普及量に応じて国内の電力需要が増加することが想定される。また、EV以外にも様々な電力需要増加ポテンシャルが試算されている。2019年中に策定する日本政府の「革新的環境イノベーション戦略」に活用するために、エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会が設置され、CO2大量削減に貢献する技術についてポテンシャル評価の検討等が行われている。表1に様々な新規の電力需要増加要因による、国内の電力需要増加ポテンシャルを示す(3-4)。
電力需要増減が実際に影響する電源を考える場合、省電力機器や分散型電源の普及などに代表される「電力会社か想定可能な需要の増減」については「全ての電源」で対応するのに対し,「あらかじめ、電力会社の需要想定で考慮していない需要の増減」に関しては、当該年度はその増減分を負荷調整電源で対応する。後者については、その増減の個別の原因が継続する場合は翌年度以降の需要想定のベースとなる過去電力需要実績に当該需要が内包されるので、前者の「すべての電源」での長期的対応となる。
英国の小売電気事業者EDF Energyは多車種のEVをリースでユーザーに提供する等、EV関連事業に力を入れており、EVオーナーを対象にした平日オフピーク時間(21時~9時)および週末が安価になる「GoElectric」という料金プラン(風力、太陽光、バイオマス、潮汐、水力を用いた100%再エネ電力プラン)を展開している。電力会社としてはEVの充電時間を電力負荷が小さい時間帯に誘導することが効率的な系統設備・電源運用に有効なため、夜間時間帯に誘導する料金単価を設定するケースが多いが、米国の一部の州のように太陽光発電(Photovoltaic, PV)が増加している電力会社では、太陽光発電の電力をEV充電で吸収するために昼間時間帯も安価なオフピーク時間帯に設定する方向になっている。
EVの充放電(Vehicle to grid,V2G)をデマンドレスポンス(Demand Response, DR)やバーチャル・パワー・プラント(Virtual Power Plant, VPP)として制御する実証事業も欧米で広く進められており、発電所の調整力の代替や電力需要調整にEVを活用する取り組みも進められている。日本でも、再エネ電力増加による系統電力影響抑制のために、PVの自家消費拡大やDR・VPPが注目されており、住宅用PVの余剰電力のEV充電への活用や、通勤用自家用EVを営業所に設置したPVで充電する等の再エネ電気の自家消費拡大のための取り組み促進策の必要性が議論されている(3-7)。
電力分野の温室効果ガス低減活動の背景、トレンド、実情等を紹介し,EVへの充電電源評価も全電源平均係数で評価することの妥当性を示した。また,EVへの充電タイミングや電源種を最適な方向に誘導する流れや、EVの電池を電力インフラシステムに取り込んでより効果的にCO2排出量を低減する流れ等について紹介した。