TOP > バックナンバー > Vol.9 No.6 > 特集:将来のEV大量普及と電力供給システム
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走行中に排ガスを出さない電気自動車(EV)の普及が世界中で進められている。しかし、Tank to Wheelで評価すればEVのCO2排出量はゼロであるが、Well to Wheelで評価すると排ガスゼロとは言えない。またLCAで考えると電池製造時のCO2排出量が無視できない。ここでは発電所からのCO2排出量に注目して日本の電源事情におけるEVのCO2排出量を評価するとともに,EVのCO2排出量をHEVほかの環境対応車のCO2排出量と比較評価した(図2-1)。
図2-2に日本の2030年頃を想定した系統電力と、EVの充電に伴う発電所からのCO2排出量とエンジン搭載車のCO2排出量を示す。ここで単純に考えると、EVの普及を中止して充電需要がなくなった場合に石炭火力を止めると、走行と電池製造を合わせて192(=182+10)g/kmのCO2排出量が減少する。代わりにHEVが走ると129g/kmのCO2が発生する。結果、CO2排出量は192→129g/kmとなって67%(約2/3)に減少することになる。CO2削減を優先する場合(石炭火力を止める)は、EVではなくHEVを普及させる方がCO2が減少するという重要な事実がここにある。
EVのCO2排出量の算出において、電源平均のCO2排出係数が使われる(=80g/km)ことが一般的だが、EVの普及に伴う正確なCO2排出量を評価するためには,「EVと電源を含む総合的なEV走行システム」からのCO2排出量として捉えて,EVの充電需要が発電構成に与える影響を考慮して算出する必要がある(図2-3).ここでは、コジェネなどの系統電力削減によるCO2排出量の算出に使われているマージナル電源の考え方(図2-4)をEVに適用することを検討した。
その結果、多くの場合石炭火力がEVの充電需要のマージナル電源になる(=182g/km).再生可能エネルギーが増加すると昼間の電力が過剰になる状況が増えてくる。そこでEVの普及によってカーボンニュートラル走行を実現するためには、再生可能エネルギーがマージナル電源になるように、昼間の余剰電力(≒0g/km))を使ってEVを充電するインフラと優遇策の構築が必須であることを示した。
一方、大量な余剰電力が出るようになると水素に変換して貯蔵・再利用することが考えられている。それが水素社会の意味だ。また、この水素とCO2と反応させて気体燃料(メタン)や液体燃料(ガソリンや軽油相当)を生成する開発も行われているので、将来的にはEVだけでなくエンジン搭載車もカーボンニュートラル走行が可能になる。
要点をまとめると以下のようになる。
(1) EVは価格が高いだけでなく、走行距離と充電時間などの技術的問題、給電施設などインフラの問題があるが、その走りの快適性は素晴らしい。多くの人がEVに乗ってその魅力を実感すれば、魅力的なEVが続々と導入されていることと合わせて、EVは多くの専門家が予測しているより急速に普及すると筆者は考える。
(2) 発電所を含めたEVのWell to WheelのCO2排出量は、どの発電所からの電力で充電するかによって大きく異なる。一般的な電源平均のCO2排出係数で算出する方法は実際の排出量の増減を適切に算出できない。EVの充電需要の有無によって発電量が増減する発電所をマージナル電源と呼び、EVの普及の有無によるCO2排出量の評価にはマージナル電源のCO2排出係数を使って算出する必要がある。
(3) 一般的なEVの夜間充電の場合は長期的には石炭火力がマージナル電源になる可能性が高い。また、炭素税などCO2削減を優先する政策が導入されると、ほとんどの場合石炭火力がマージナル電源になる。その結果、EVが普及してもCO2排出量は従来エンジン車と変わらない可能性が高い。
(3) 昼間に余剰電力が大量に発生する状況になれば、その電力で充電することでEVのカーボンニュートラル走行が実現できる。余剰電力がない場合でも、昼間のマージナル電源はLNG発電となってCO2排出量は夜間充電より大幅に小さくなる。このことから、余剰電力が発生する昼間にEVを充電する仕組みを導入することがCO2削減に向けての重要な施策になる。
(4) 昼間の余剰電力でEVを充電する仕組みを構築した上で、余剰電力の発生量を予測して、それに合わせてEVの充電需要(普及台数)を制限することでEVのCO2排出量を削減できる。例えば、昼間充電の仕組みが定着して、EVを余剰電力で充電すればEVはカーボンニュートラル走行ができる。充電需要の1/3を余剰電力で充電するようになれば、EVはHEVと同等のCO2削減を実現できる。
(5) 余剰電力や再生可能エネルギーから燃料を製造するようになると、従来エンジン車でもカーボンニュートラル走行が可能になる。再生可能エネルギーから燃料(電力)を製造する手段の普及に合わせて、EVだけでなく、HEVを中心とした次世代環境自動車の効率向上と普及を進めて行く必要がある。その際、CO2削減に伴う社会的費用と削減効果を評価して方向づけする視点が重要である。
“Japanese Gas Industry and Its Efforts in Reducing CO2 Emission” by Japan Gas Association, COP10 in 2004