TOP > バックナンバー > Vol.9 No.6 > 特集:将来のEV大量普及と電力供給システム
地球温暖化低減の目的から,自動車の電動化を推し進める動きが活発になっており,脱石油化に有利な,BEV,PHEV,FCV等を優先し,最終的に化石燃料のみを消費するHEVを含めた内燃機関自動車(ICEV)の生産を抑制もしくは排除する動きすら,世界的な潮流になりつつある.
実用化で先を走るBEVやPHEVは,電池のエネルギー密度の制約による一充電走行距離の短さや,電池のパワー密度の制約による充放電効率への影響や充電に要する時間の長さなど,成熟しきったICEVに取って代わるには,電池による制約が課題となっている.
これら,主に電池性能に起因する制約を補うための様々な技術開発も盛んになっている.大量の電池を搭載することによる効率低下を避ける方法として,走行中に給電する機能を活用した様々なシステムの提案がなされている.一方,古くから有望視されてきた,使用した電池を短時間で充電済み電池と交換する電池交換システムは運用上解決すべき課題が多く,飛躍的な普及は望めない状況にある.一充電走行距離の制約が回避できるPHEVも,電気の消費比率を高めようとすると,BEVと同様,電池の制約による課題に直面する.
これらの課題は,エネルギー密度,パワー密度が大幅に改善され,充分なサイクル寿命を確保出来る次世代電池の出現によって大幅に改善されることが期待されており,その際には,前述の技術はあまり意味を持たなくなるので,インフラ整備を前提としたシステムの普及の難しさがわかる.
一方,これらの車両は電力供給システムや水素供給システムとセットのシステムであり,車両の優劣だけでなく,供給システムとセットでの評価が不可欠である.実用化段階に入ったBEVとPHEVのCO2排出量は,電力供給システムの特性に依存するので,電力供給システムとしての電力ミックスについては広く議論されてきた.しかし,グリッドから供給される電力は,現状では,消費に合わせて発電しなければならないいわば“生もの”であるため,BEVやPHEVが大量普及した段階では,この充電需要に合わせた発電を実時間で如何にシステマティックにこなすかがCO2排出量を左右するキーとなる.この課題は,次世代電池の出現で解決できるものではなく,むしろ充電需要のタイミングや負荷の変動が拡大する可能性があるので,問題は深刻になる.そのため,将来的には電力供給システムと連携して,充電負荷のコントロールを目的とした“スマート充電”の必要性も議論されている.
この様な状況に鑑み,本特集では第一弾として,BEV,PHEVの地球温暖化低減効果と電力供給システムに関して,異なる立場の2専門家の見解を紹介していただいた.温暖化低減効果の評価指標をはじめ,評価や判断の基準はその分野毎に文化や組織の立場によって微妙に異なる面があるが,底流の基本的なものは共通であると考えられる.本特集をこの観点で見ていただくことで,関連技術者が自動車の電動化を長いスパンで議論する際の一助となれば,幸いである.
2専門家の見解で共通している,CO2総排出量削減に有効とされる,電力供給システムにEVを取り込む将来のシステムについては第二弾として企画したい.