TOP > バックナンバー > Vol.10 No.5 > 2 空の移動革命に向けて
空飛ぶクルマの実現により期待される社会像についてご紹介するとともに、「空の移動革命に向けた官民協議会」等の国の取組みや地方公共団体の取組みをご紹介しつつ、日本における空の移動革命の実現への期待について述べる。
空飛ぶクルマの明確な定義はないものの、後述するロードマップにおいて、電動化、自動化、点から点での移動ができる、という三つの要素を持つモビリティのことを、「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」として定義しつつ、それを含む幅広い概念を空飛ぶクルマとして指している。空飛ぶクルマは電動化により内燃機関が不要となり、部品数が少なくなることから整備費が削減されるとともに、自動化が進むことで運航費も削減される。また、垂直に離着陸ができるため、滑走路がなくとも点から点への移動が可能となる。こうした空飛ぶクルマが実現することにより、都市部では渋滞を避けた通勤・通学への活用、離島・山間部では海や山を越えた新たな移動手段としての活用が期待されている。また、物流や娯楽に加え、災害時などの一刻を争う状況においても、「空飛ぶクルマ」は効率的な移動・輸送手段として大きな役割を果たすと考えられている。経済産業省として国土交通省や民間事業者とともに、空飛ぶクルマの実現を通じて空の移動がより自由に、手軽になる「空の移動革命」を実現することを目指している。
Fig.2-1 経済産業省が制作したイメージビデオ:「さあ、空を走ろう。- Let's drive in the sky.-」
空飛ぶクルマの構想を具体化し、日本における新しいサービスとして発展させていくためには、「民」の将来構想や技術開発の見通しをベースに、「官」が民間の取組みを適切に支援し、社会に受容されるルールづくりなどを整合的に進めていくことが重要である。こうした動きを加速すべく2018年8月に官民の関係者が一堂に会する「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げ、日本として取り組んでいくべき技術開発や制度整備等について議論を開始した(図2-2)。
2018年12月には官民協議会の議論を踏まえて「空の移動革命に向けたロードマップ」を作成し、2023年に事業をスタートさせることを目標とした。この目標を達成すべく、民間からのビジネスモデルの提示を踏まえ、必要な技術開発や環境整備について議論を行っていくこととしており、2019年12月には民間事業者によるプレゼンテーションを通じてビジネスモデルの提示を行い、2020年6月には、ビジネスモデルを踏まえた短期/中長期の技術開発、環境整備の論点をとりまとめた。今後は、実務者級での議論の場を設置し、具体的なユースケースを踏まえながら検討を加速させていくことを予定している。
空飛ぶクルマを実現するためには、その飛行試験や実証実験の舞台となる地方公共団体と民間事業者とが連携し、具体的なサービスの提供を想定した実証実験を行うことが必要不可欠となる。2019年8月には「地方公共団体による空の移動革命に向けた構想発表会」を実施し、福島県、東京都、愛知県、三重県、大阪府からの構想を発表していただくとともに、民間事業者と地方公共団体の連携の促進を目的としたマッチングの機会を提供した。実際に空飛ぶクルマの実現に向け、ドローンを活用した実証実験等が進みつつある。
世界での空飛ぶクルマの議論は、特に都市部での活用による渋滞の回避を具体的なユースケースとして想定されている。日本では、官民協議会やその他の検討の場において、2025年の大阪・関西万博での空飛ぶクルマの活用に向けた議論が進みつつあるほか、救命救急の場面で医師の迅速な派遣、離島や中山間地域での移動の手段の確保、観光地へのアクセス、といった多様な空飛ぶクルマ活用に向けた検討が始まっている。都市での活用への検討を進めつつ、ニーズがあり、社会的な受容性も高い地域やユースケースでの活用をいち早く始めることが空飛ぶクルマの実現を早める可能性があると考えている。
空飛ぶクルマが実現し、空の移動革命に向けて歩みを進めていくには、空飛ぶクルマの機体メーカーに留まらず、空飛ぶクルマを運航する事業者や既存の交通サービス等との連携を通してモビリティサービスを提供する事業者、離着陸の観点からは空港やリゾート地、ビルを運営する事業者や建設会社にかかわっていただくことも必要となる。空飛ぶクルマの実現は、戦後のモータリゼーションによって社会が大きく変わったような変革を起こす可能性がある。この新たな産業分野に参入を検討いただき、足を踏み出していただければ幸いである。経済産業省としてもこの芽を育てていけるよう尽力していく所存である。