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Vol.10 No.6

1 ディーゼルエンジンの熱効率向上
Improvement of thermal efficiency in a diesel engine
川那辺 洋
Hiroshi KAWANABE
京都大学
Kyoto University

 SIP革新的燃焼技術のディーゼル燃焼チームにおいては、乗用車用ディーゼルエンジンの更なる熱効率向上を目指して、エンジン筒内燃焼の高度制御をテーマとし、そのための要素技術の研究開発を実施した。熱効率向上の基本的な方策としては、燃焼期間を短縮することによる高等容度化と、これとは背反の関係になることが多い冷却損失の低減を目指した燃焼法の確立である。このような燃焼を小型エンジン特有の狭い燃焼室内で実現するために、噴霧火炎の壁面への衝突を緩和すると同時に、燃焼室空間に分布する酸素を素早くかつ隈無く使い切るような噴霧火炎を形成するということを基本燃焼コンセプトとした。

 上述の燃焼コンセプトの実現を目指して、本チームでは主に以下の4グループを設定して、研究開発に取り組んだ。

  • 高負荷においては燃焼期間短縮の障害となる後燃えを低減するための研究
  • 冷却損失低減のために、火炎の壁面への衝突を抑制するための研究
  • 超高圧噴射装置を用いたディーゼル燃焼の希薄化に関する研究
  • 高等容度燃焼を実現したときの燃焼騒音増大に対して、構造および燃焼制御両面からの抑制を図る研究

さらに、これらの4グループで得られた知見に基づき、実際のエンジンへ適用することによって高効率化の検証を行った。

 一般に、エンジンの熱効率を向上する際に重要なのはバランスであろうと考える。よく、学生にエンジンの熱効率向上の話をするときのたとえ話として、ナイフで鉛筆を削る話をする(最近のほとんどの学生がナイフで鉛筆を削ったことがあるとは思えないので、適切なたとえ話とは思えないが)。鉛筆の芯の先端を尖らせるためには、一方向からざっくり削ったのではダメで、すべての方向からバランスを見ながら削り込んでいかなければならないわけだが、これがエンジンの熱効率向上の手法と似通っているように思える。エンジンは一般に幅広い運転領域で使用されるので、総合的に効率を向上させるためには、適用される技術のバランスが重要であるという意味である。しかし一方では、刃がなまくらなナイフでは芯を尖らせることはできない。すなわち、ある方向から削り出す際にはその方向でよく切れるシャープなナイフを使わなければならず、それがすべての方向において必要となる。
 本稿に続く4報の原稿は、いわばディーゼル燃焼チームにおいて実施された4方向のシャープなナイフの開発ストーリーと思って読んでいただければと思う。