TOP > バックナンバー > Vol.10 No.6 > 2 「後燃え」は今も続く
ディーゼル燃焼チーム燃焼期間短縮グループでは、熱効率向上の妨げとなる「後燃え」(燃料噴射終了後から膨張行程に及んで続く緩慢な燃焼)の低減を目指し、明治大学(光学計測、インジェクタ開発、単気筒エンジン実験)、千葉大学(多気筒エンジン実験)、徳島大学(全量ガスサンプリング実験)、早稲田大学(詳細反応LES(Large Eddy Simulation)数値解析)の協力体制により、(1)後燃えの現象解明、(2)後燃え低減コンセプトの創出、(3)後燃え低減ハードウェアの開発、(4)熱効率向上実証の四つのステップで研究を実施してきた。本稿では、各ステップの主な研究成果、研究に際して苦労した・苦労している点、SIP後の展開と今後の展望について概説する。
先ずエンジン筒内の高温高圧場で刻一刻と消えていく後燃えを追跡するため、燃料分布と熱発生領域を同時時系列可視化できるUV可視化法(2-1) を開発し、噴霧先端の過濃混合気が後燃えの要因であることを容器実験(2-1) および実機筒内(2-2) で明らかにした。装置や計測法を新たに準備しつつ担当する学生を育て,学術的にも価値があり,実用的にも結果を出せる手法を工夫し、またそれを産学双方の関係者に分かってもらうのに苦心した。これでいけるかと思える研究計画を関係者の前で初めて説明した後,ある企業の方から「我々(企業)がニーズの発信を間違わなければ,素晴らしい成果を出してくれる」というコメントを頂き、元気が湧いた。
Fig.2-1 ディーゼル噴霧火炎の後燃えのUV可視化
次に噴霧先端過濃混合気の生成を抑制するため、従来とは逆の発想の「逆デルタ噴射」(噴射中の噴射率漸減)(2-3)を提案し、詳細反応LES(2-4)で効果を検討した。従来の矩形噴射率に対し、逆デルタ噴射では後続噴霧の追い付きを抑制し、噴射中の連続的な波状空気導入(Entrainment Wave)効果(2-5)や噴霧外縁の渦の発達で空気導入を促進することで噴霧を均質化し、後燃えを低減できる可能性を示した。後述のTAIZACを用いた実機性能試験では未だ明確な後燃え低減の実証には至っていないが、一方で顕著な冷却損失低減が観測されており、SIP終了後も継続して取り組むべき課題が山積している。
Fig.2-2 逆デルタ噴射コンセプト
逆デルタ噴射を簡便に実現できる新たなハードウェアとして、TAIZAC(TAndem Injectors Zapping ACtivation)と名付けたインジェクタを開発した(2-3)。これは2本のインジェクタを直結、あるいは切断・直結・一体化し、研究室内で自作したもので、段別の噴射圧制御(低圧プレ噴射+高圧メイン噴射等)、初期噴射率の立上がり急峻化、急峻逆デルタ噴射など、様々な新たな噴射機能を簡便に実現できる。国内外で特許も出願しており、現在も発展版の開発に日々奮闘している。着想の経緯、開発に際しての想い、基本構造と動作原理、命名の経緯などについては別稿を御参照頂きたい(2-6)。
Fig.2-3 TAIZAC(直列2弁瞬時切替駆動式)インジェクタ
TAIZACを搭載した単気筒(2-3)および多気筒エンジンで性能試験を実施した。従来のG4Sソレノイドインジェクタに比べ、第2世代TAIZACで冷損2.3pt低減、図示効率1.4pt向上を実証した(2-3)。SIP終了後に実施したG4Pピエゾインジェクタとの比較でも、第4世代TAIZACで冷損0.7pt低減、図示効率0.4pt向上を実証している。SIP半ばの年度末2日間で2階にあった研究室のすべてを1階へ引越し、動力計400V専用線を敷設、学生30名が机を並べる研究室内に完全防音エンジンセルを設置、エンジンおよび動力計を導入し、0.1pt%精度の熱効率向上実証になんとか漕ぎ着けた。
SIPの5年間を振り返ってみると、前半は必死に考え、後半はとにかく走り切ったという感が強い。大学側にいる者として、教員にとっても学生にとっても大変貴重な経験となったことは間違いない。研究に参画、協力頂いた関係諸氏に、改めて心より感謝申し上げたい。一方で、燃焼期間短縮のための研究はAICEプロジェクト研究に継承され、現在も続いている。今後は270MPa対応の第4世代TAIZACを製作,高圧急峻逆デルタと噴射終了時の波状空気導入効果を併用可能な噴射率パターンを検討、容器・実機試験により燃焼期間短縮効果を検証,渦発達・空気導入・熱発生促進について実験的に調査,モデル化を試みる予定である。