TOP > バックナンバー > Vol.11 No.1 > 1 ガソリン・エンジン燃焼Ⅰ・Ⅱ
中村ら(1-1)は小型二輪車を対象とした、吸気ポート内の逆流現象を利用して、従来と異なり吸気通路の切り替え機構を用いずに部分負荷領域のみタンブルを強化する技術を構築し、静粛性と動力性を損なわずに燃費性能を高めることを可能とした。スロットル開度約15Deg.においてタンブル比は0.5→1.5と向上しBMEP250kPaにおける正味熱効率は-1.7%改善している。この技術のポイントは、トレーリングエッジ側の遅い流れがスロットルバルブ背面に発生した低圧部に引き寄せられて逆流する現象を有効に活用するために吸気ポート内に隔壁を設置することにある。性能向上に対するコスト増加は避けられない場合が多いが、緻密な観察結果から実現したい機能を最低限の手段で実現させる取り組みに、技術者として尊敬の念を感じる。
鈴木ら(1-2)は電動車用に発電専用としたエンジンに特化した希釈燃焼の熱効率向上に関する設計指針を提言した。エンドスコープによるプラグ近傍の可視化を行ったサイクル変動の発生要因結果に基づき、サイクル変動の少ない強いタンブル流れによる放電チャンネル安定化のためには、タンブル流れを上面に合わせ剥離なく導入する、タンブル流れを点火時期まで保持する、点火プラグに向かう流れの方向性を整えるという流動設計指針を提示した。設計指針の具現化には、コールドスプレーによるバルブシートレス技術を採用しており、EGR率30%まで安定した燃焼により正味熱効率43%を実現した。今後、流動が混合気形成や壁面への熱損失へ与えるの影響を含めた設計指針の提案が期待される。
野村ら(1-3)はガソリンエンジンのMBDに向けて、筒内の燃焼現象に基づき、物理則ベースの1D CFD用筒内熱伝達モデルの構築し、それを実機の計算に応用し、燃費の予測精度を検証した。 3D CFDによる筒内現象解析結果を基に、乱流燃焼速度を用いた新しい熱伝達モデルを構築することにより、熱流束モデルの精度を向上させ、結果として従来モデルと比較して燃費予測誤差を約1/3に減少させ、概ね燃費予測モデルとしては必要な精度が得られるとした。エンジンの熱効率向上は引き続き重要な方策であり、本発表技術を含めMBDによる更なる開発効率と予測精度向上の実現により、改良技術の早期登場が強く期待される。