TOP > バックナンバー > Vol.11 No.1 > 13 EV以外のセッションでの電動車両関連発表
電動車両関連セッション以外でも、電動車両関連の発表が多数あった。その中から、トレンドをよく表している3件を紹介する。
電費向上のために、経済性を重視する小型車両を中心に、ダウンサイズのモータと変速機を組み合わせる手法が採られているが、変速による無トルク状態やショックがない、高コストのダブルクラッチ変速機(DCT)を採用する例も多い。ボッシュの牧野ら(13-1)は、動力伝達系Ⅲ(136)セッションで、電動パワートレイン用として、要求に応じて動的に変速比を変更する方法でモータを最適状態で使用するCVTを開発した。バリエータを駆動する油圧システムを図13-1に示す。バリエータへの油圧は電動ポンプで直接制御され、要素の削減とともに油圧系の損失の低減が図られている。
さらに、CVTのバリエータやその駆動用油圧による損失を精査し、適切な軸間距離と大きなベルト巻きつけ径によって損失の低減が可能であることを示した。これによって、図13-2に示すように、一般のCVTに比べてバリエータ損失が半分に、ポンプ/油圧系の損失は1割に抑えることができている。車両走行試験を実施し、30%ダウンサイズのモータで元のモータの性能を充分オーバーし、40%ダウンサイズでほぼ同等の性能が得られたとしている。
EV化によるCO2削減効果は、発電源に関する電力ミックスや、晴天時のPVの発電停止要請に見られる(電気が生ものであることに起因する)瞬時瞬時の需給バランスに左右されるほか、最終的にはライフサイクルコストでの評価が必要となる広範な課題である。
電動車両の駆動用電池を電力貯蔵システムとするバーチャルグリッドに関する報告が、スマートシティ(セッション155)で複数あった。大まかな概要のみ紹介する。
中川(13-2)と千阪(13-3)は、乗用車が全部電動車両に置き換わった際、40Wh程の車載電池の70%程度を毎日充放電するとその総電力量は現在のグリッドからの供給量に近い値となることから、PVでの発電をヒートポンプでの貯湯と車載電池での貯蔵により柔軟な使用を可能にするバーチャルグリッド(図13-3)について、CO2削減効果をシミュレーションで求めた。
各種の効率を加味したエネルギーベースのシミュレーションであるが、EVと暖房の関係や車載搭載PVの効果などに関して妥当と思われる結論が提示されていることは興味深い。いくつかの生活形態ごとに検討した結果、PVの電力を有効に利用できた結果、CO2排出量を78~85%低減できる(図13-4)が、PVでの余剰電力が系の効率を下げるので、各生活形態ごとに最適なPV出力値が存在することも明らかにしている。並行して製造/リサイクル/廃棄までのライフサイクルでのCO2排出量の試算も期待したい。
モード燃費試験時にシャシダイナモ(CHDY)に設定する走行抵抗値は、試走路での惰行試験で求めるが、理想的な試験環境が得にくいこともあり、ばらつきの可能性が指摘されている。パワートレインの効率が良い電動車両では電費の走行抵抗依存性がICEVの3倍以上あるので、このばらつきが課題となる。そこで、WLTPでは、風洞試験の風損とCHDY上でのタイヤを含む機械損から求めることを、合理性の担保を条件に許容している。
計測/診断/評価(セッション158)で、井上ら(13-4)は、JSAE CHDY試験法分科会で検討・発表してきた後者に対応する方法をまとめたJASO E017の概要を紹介した。タイヤ損失が路面温度に大きく依存するため、ローラ温度の管理基準を定めたうえで、求めたタイヤ損失データを標準温度での値に補正する(本誌Vol. 10, No. 2, 5. 排ガス 参照)。このためにCHDY上での惰行試験結果からタイヤ損失のみを分離する方法として、①ホイルトルクメータで、ホイルより車両側の損失を計測、②設計値の積み上げで機械損を求める、③機械損/タイヤ損の規定標準値による、の3方法を認めている。全般に細分化した効果(補正あり)の積み上げが多いので、補正エラーの積分が気になるが、図13-5に示すように、本方法の結果が従来の試走路で得られたデータの中心値となり、妥当であるとしている。