TOP > バックナンバー > Vol.11 No.4 > 4 エンジンの摩擦損失低減の要素研究と焼付きおよびオイル消費予測モデルへのアプローチ

Vol.11 No.4

4 エンジンの摩擦損失低減の要素研究と焼付きおよびオイル消費予測モデルへのアプローチ
Engine friction loss reduction research and approach to seizure and oil consumption prediction models
三原 雄司(東京都市大学)

Yuji MIHARA (Tokyo City University)

アブストラクト

 SIP革新的燃焼技術(2014年~2018年)で実施した機械摩擦損失低減グループの研究は、損失低減チーム内の課題として、排気エネルギー有効利用グループとともに目標の達成を目指した。摩擦低減には各大学のトライボロジー研究の成果をエンジン部品の形で具現化し、しゅう動面形状の変更も取り入れて摩擦仕事の低減を行った。摩擦低減に伴う背反事象のうち、焼付き・摩耗・なじみに関してはこれらの一連の現象のメカニズムと物理モデル式化を行い、オイル消費(LOC)に関しては摩擦低減要素がLOCに与える影響を調べるとともに、世界初のフォトクロミズム法を用いて油膜流れの可視化とLOC低減を実証できるCFDモデルの検討を行った。

はじめに

 内燃機関の研究推進に向け、企業と大学によるコンソーシアム形式により研究を進める体制はSIPの特徴である。推進にあたり、企業群の大学へのトライボロジーに関する研究ニーズは、(1)大幅な摩擦低減に繋がる革新的な研究を開発に生かしたい、(2)設計に応用できる数値モデルとその実験解析データ、の二つであった。このため、ピストン・シリンダー系とクランク・軸受系の摩擦低減に効果のある面圧の適正化と低摩擦の表面性状の研究を進めるとともに、解析モデルには企業の要望が高い焼付きの予測シミュレータとオイル消費モデルの開発を進めた。ここでは各研究サブグループの実施内容と成果を紹介する。

機械摩擦損失低減グループの課題別研究の紹介
サブグループ構成

  摩擦低減のため、潤滑油の低粘度化とエンジンのしゅう動面積の小型化を考慮したが、これらは摩耗や焼付きとトレードオフの関係となる。このため課題をサブグループ(SGr)化し、低フリクション要素(SGr1)と焼付き/なじみ解析とモデル化(SGr2)、およびオイル消費の低減/解析モデル化(SGr3)に大別した(図4-1)。SGr1では固体潤滑剤やテクスチャ等の表面性状の改良を実施し、有力な研究内容は部品を試作してエンジン試験を実施した。SGr2では大学の評価試験機(焼付きのその場観察装置や摩耗試験機と摩耗粉観察、共振ずり測定装置等)で現象解明を行い、これらの実験がモデル構築に大きく寄与した。図4-2はSGr1の取組み例である。

摩擦低減(サブグループ1)

 摩擦低減の基礎研究とエンジン試験へのアプローチの例を図4-3に示す。東北大では表面テクスチャと潤滑油添加剤に含まれるMo、S、Zn等のエンジン実働中の熱や圧力に起因するエネルギーの付与による化学反応で発現する表面薄膜による摩擦係数の低減効果についてエンジン軸受材料を対象として進め、都市大のエンジン軸受試験機で摩擦特性や焼付き特性を評価した。名古屋大ではエンジン軸受材料上にDLC(a-C:H)やCNxのオーバーコートを施し、摩擦係数や比摩耗量の低減効果はすべり軸受試験機でも実証された。京都大では貧潤滑下の摩擦係数低減に向けてポリマーモノリス構造を開発し、チェーンガイドやすべり軸受等、しゅう動条件に応じて製作条件を変えて最適化を進めた。すべり軸受試験機では高い耐焼き付き性を実証した。

摩耗・焼付き現象の解明と解析モデル化

 物理式や境界条件設定のために、エンジン軸受材料とエンジン油を用いて現象を調べた。 2017年度までに軸受形状、荷重条件を入れた流体構造連成解析ソルバーと、部品形状をCADモデルで取り込めるVer.1を開発した。東北大はArchard (Preston)による油膜厚さに応じた摩耗量予測および境界潤滑モデルを作成し、モデルver1にナノ油膜厚さでの粘度上昇の測定結果を入れた。最終年度はトライボフィルム特性を取入れ、JG(Junction Growth)も取入れたVer.2を完成させた。図4-4はVer2によるリングオンプレートの実験との摩擦係数の比較で、解析結果と比較してよい一致が得られた。

オイル消費のメカニズムと解析モデル化

 ピストンリングのボアに対する動的挙動解析、オイルリング周りの気液二相流解析を行い、検証としてリング挙動やボア変形計測・ピストンランド圧力とフォトクロミズムによる油膜挙動観察を実施した。 フォトクロミズムは色素を溶かしたオイルにレーザを照射して着色して油膜の挙動を高速度カメラで観察する。図4-5は1stリング合口上下の油膜の吸気行程ATDC75°での可視化で、2ndランドの油膜は1stリング溝に流れ込み、リング溝背面を経由して1stリング合口上部からオイルが流出した。即ち、2ndランドから合口部に流入したオイルは1stリング溝で溝内オイルと混合し、それが合口の上部から流出していることが判明した。

まとめ

 摩擦低減によって総合熱効率向上に寄与するため、エンジンの各しゅう動部に対して流体潤滑の促進(しゅう動面形状を変えて油膜を積極的に発生させるリングやテクスチャー)や、混合・境界潤滑領域での摩擦係数の低減(固体潤滑材料の適用やトライボフィルムの積極的な発現効果)を実施し、焼付き/なじみ現象やLOCの予測モデル開発を行った。フォトクロミズム法はSIP後に益々改良され燃料希釈も観察できる技術に発展した。刻々と変わるトライボロジー現象やLOC予測の解析モデルの難易度は高いが、SIPで本格化した産学連携研究により着々と研究が進められており、高効率とゼロエミッションの両立を目指すエンジン開発に貢献すると考えている。

【参考文献】
(4-1) 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:革新的燃焼技術、内閣府及び科学技術振興機構、(https://www.jst.go.jp/sip/k01_team4.html)
(4-2) 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:革新的燃焼技術、内閣府及び科学技術振興機構、(https://www.jst.go.jp/sip/dl/k01/k01_seika2019_p08.pdf)
(4-3) 三原雄司;SIP革新的燃焼技術 エンジントライボロジー研究の活動状況, 潤滑通信社 潤滑経済 (2019年5月号6-13P)