TOP > バックナンバー > Vol.11 No.6 > 予想以上に違う!? 国による環境規制の考え方
今号でいう「環境規制」は国などが行う、燃費やCO2の規制と、NOxやPMなどの大気汚染物質に対する規制を主対象としている。これらがいずれも強化されていることについては古今東西共通だが、その程度や考え方は国や地域により、かなり異なる。その違いを生むのはその国などの法規制のあり方や、それを運用する官署の立場によるところが大きく、燃費とCO2の規制などはその代表といえる。そうした各国の事情の違いと日本の現状などについて記載した。
多くの自動車大国はエネルギー輸入国であり、自国の利益のためCO2よりも燃費の規制が先に始まる。燃費規制は、米国ではエネルギー政策節約法(EPCA)やエネルギー安全保障法(EISA)、日本では省エネルギー法、中国では省エネルギー・新エネルギー自動車産業発展計画に基づいて、いずれも運輸や産業・エネルギー政策を所管する官署が規制を行っている(表1)。規制値を決めるにあたっては、新技術の開発・普及予測などが強く意識される。日本のトップランナー方式などはその典型的なものといえる。燃料消費は減らさなくてはいけない一方で、自動車産業は国の根幹であり、育成・強化して国際競争力を高めなくてはいけない、という意識が現れたものと考えられる。
一方の欧州で、EUという枠組みで考えると、国によりエネルギー事情も自動車産業の規模も異なる状況で、同じやり方は確かになじみにくい。そこに地球温暖化の問題が顕在化した。それにより引き起こされる問題はエネルギー事情その他に関係しない。その結果、CO2の規制が策定され、日米などの燃費規制では関係しなかった環境政策の官署(欧州ではDG GLIMA)が規制に関与することになった(表1)。インターナショナルな視点で、CO2規制はより適したものといえそうだ。そこに2007年、米国においても最高裁判所の判決受けてCO2規制が加わり、新たにEPAが規制を司る官署に加わった。
一般に環境政策官署が定める規制値は、技術ベースよりも温室効果ガスを20xx年までに〇○%削減する、といった視点で厳しい値に定められる傾向にある。ただし、その厳しい規制値を現実的に達成できるようにするため、公定試験モード燃費(CO2)値に加えて「かさ上げ」するような措置が追加される。それに対して、CO2の視点のない日本の2020年度燃費基準では、あくまでモード燃費値そのもので勝負する必要があるため、日本の燃費基準をCO2に換算して「ゆるい」とする比較を見たことがあるが、公平ではない。
別稿で紹介される日本の2030年度燃費基準では、策定の考え方は従来を踏襲しているものの、基準値の大幅な強化、柔軟な達成判定といった記述があり、CO2規制を行う欧米の影響を受けた感がある。
一方の大気汚染物質であるNOxやPMに関して言えば、国内では大気汚染防止法に基づいて環境省が規制値などを決めていて、世界的に見てもほぼ同様である。しかしながら、大気汚染防止法に相当する法律の考え方が、言うほど同じでない。日本では疫学的視点などから定められた大気環境基準(表2)を維持するための必要な措置として排出ガス規制が行われる。だが、米国の大気浄化法(Clean Air Act)では「リスクを最小限度にする措置をとれ、ただしコストを考えろ」というスタンスであるため、排出ガス低減技術が進化&普及して、少ないコストで更なる低減が可能ならば下げて当然、という考え方に至るようで、更なる強化も検討されていると聞く。
一方欧州では、疫学的な健康影響についての結論を待たずに「健康を害するおそれ」で規制を行うことがある。粒子数(PN)の規制はその代表例といえる。確かに昔のアスベストの例をみると、考え方自体は理解できる。
そのPN規制について、環境省に執筆頂いた別稿にあるとおり、日本でも導入されることになる。これはこれまで大気中NO2、SPMの環境基準達成のためNOx、PMを規制強化するという「ストレート」なものから、微粒子濃度改善につながる、とする「変化球」に変わった感を受ける。そこには国際統一基準化が関係しているとみられる。
日本は自動車輸出国でもあり、国際的な基準調和の波に逆らうことはできない。かといって、これまで自分たちで苦しんで対策を考えて実行して、改善してきた実績にもっと自信を持っていいのではないか。世界統一基準という「大波」に逆らわず流されず、自分たちの大気、利益のために必要なことを自分たちで考え続けていくべきだと思う。この「中途半端さ」こそが、自動車大国ながら規模的に一国で完結できない我が国の最適解のような気がする。上記「変化球」もその範疇といえるかもしれない。
Hisakazu SUZUKI (JSAE ER Editorial Committee / National Traffic Safety and Environment Laboratry)