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Vol.12 No.3

熱劣化した三元触媒の浄化性能に関する研究
 -貴金属および助触媒を考慮した表面反応モデルの構築- 
Conversion Performance Prediction of Thermal-Deteriorated Three-way catalyst : Surface Reaction Model Development Considering Platinum Group Metals and co-Catalyst
久保 悠之介、山川 幸紘、草鹿 仁(早稲田大学)

Yunosuke KUBO, Yukihiro YAMAKAWA, Jin KUSAKA (Waseda University)

アブストラクト

 ガソリン車から排出される一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)および未燃炭化水素(HC)を同時に浄化する三元触媒(TWC)における浄化特性を数値的に記述した。詳細な表面反応と劣化メカニズムの主要因子を考慮した準二次元数値モデルを構築した。Langmuir-Hinshelwood機構に基づき、貴金属(PGM)粒子の活性サイトにおける各ガス種の吸着、脱着、表面反応を考慮した。活性サイトとして、PGM表面と助触媒であるCeO2-ZrO2、反応ガスが接する三相界面(TPB : Three Phase Boundary)およびPGM表面という浄化性能の異なる2種類を考慮した。劣化モデルとして、触媒劣化時に発生するPGMのシンタリングによる二つの活性サイトの量的変化をモデルに反映させた。以上より、三元反応特性と劣化による性能低下を記述した。Pd/CeO2-ZrO2-Al2O3触媒の数値計算モデルを構築し、触媒性能が活性化するライトオフ浄化性能を予測した。

モデル構築概要
貴金属表面活性サイトを考慮した表面反応モデル構築

 Pd/Al2O3触媒は、PGM由来のPGM表面活性サイトのみ存在している。これは、Al2O3が酸素吸蔵能(OSC)を持たないためである。これを使用することでPGM表面活性サイト上における反応特性評価が可能となる。具体的には、図1に示すように熱劣化していないFresh Pd/Al2O3触媒の反応特性をLangmuir-Hinshelwood機構に基づいて解析し、PGM表面活性サイト上での吸着脱離や表面反応を考慮した表面反応モデル(PGM表面反応モデル)を構築した。本モデルで考慮した反応スキームは、8の化学種、6の吸着種、そして14の素反応で構成される。はじめに、モデルガス試験による濃度依存性の実験結果から吸着脱離表面反応速度定数等の表面種熱物性値を算出した。次に、表面種熱物性値とライトオフ実験結果を用いて各表面反応速度定数および吸着脱離速度定数を同定した。

三相界面活性サイトを考慮した反応モデル構築

 次にPd/Al2O3に酸素吸蔵能を有するCeO2にZrO2を添加したCZと記載される活性サイトを加えたFresh Pd/CeO2-ZrO2-Al2O3触媒を対象に詳細反応モデルを構築した。図2のように2種の触媒と気体が接し反応が活発に起こるTPBの定義が明らかでないため定義を明確にした。具体的にはFresh Pd/CZ触媒はPGMの粒子径が小さいため、TPB活性サイトが多い。そのため、Fresh Pd/CZ触媒の反応速度はTPB活性サイトの影響が大きい。そこで、モデル上ではFresh Pd/CZ触媒の全活性サイトをTPB活性サイトと近似し反応速度を決定した。図3に示すように貴金属表面モデルと同様の手法により、TPB活性サイトを考慮した反応モデル(TPB反応モデル)を構築した。本モデルで考慮した反応スキームは、8の化学種、8の吸着種、16の素反応で構成される。これはPGM表面活性サイトを考慮した反応と基本的には同じメカニズムだが、本モデルではOSCの酸素吸蔵および放出を考慮した。

劣化モデル構築

 シンタリングとは触媒が高熱に曝され貴金属粒子が凝集することで、比表面積が減少するため浄化性能が悪化する。このシンタリングにより、担持貴金属の粒径が増大する。この際、PGM上の活性サイトは、TPB活性サイト量割合が減少する一方、TPBから遠い距離にあるPGM表面活性サイト量割合は増大する。劣化モデルとして、PGM表面反応モデルおよびTPB反応モデルを連結することで、反応特性の異なる2種類の活性サイト量変化を考慮したモデルを構築した。本モデルで考慮した反応スキームは、8の化学種、14の吸着種、30の素反応で構成される。各反応式の反応速度定数は、PGM表面反応モデルおよびTPB反応モデルと同様である。劣化メカニズムにおける主要因子として、PGM粒子のシンタリングに伴う2種類の活性サイト量変化を推定し、それぞれの活性サイト量をモデルに入力した。

ライトオフ連続昇温のモデル検証

 推定された各劣化触媒の活性サイト密度をモデルに入力し、劣化 Pd/CZ触媒を対象に、化学種5種(CO,C3H6,O2,NO,N2)を供給したライトオフ実験との検証を行った。表1に供給ガス条件を、実験および計算結果を図4に示す。図4より、劣化モデルはライトオフ浄化性能を概ね予測できていることが分かる。このことから、PGM上における2種類の活性サイトの特性とシンタリングに伴う各活性サイト量の変化を考慮することで、本数値計算モデルにて劣化触媒による浄化性能を概ね予測することを可能とした。

まとめ

 本研究では熱劣化も記述した三元触媒のライトオフ浄化性能を予測可能にすることを目的として、詳細な表面反応メカニズムおよび劣化機構の主要因子を考慮した三元触媒反応モデルを構築した。各熱物性値の推算からPGM活性サイト上における反応スキームの速度パラメータを同定可能とし、PGM表面およびTPB活性サイトを考慮した反応モデルを構築した。その際、酸素原子の詳細反応パスを考慮し、各種雰囲気場におけるTWCライトオフ浄化挙動を概ね再現することを可能とした。劣化モデルでは、PGM粒子の熱劣化に伴うシンタリングに伴う2種類の活性サイト量変化を考慮することで、TWCのライトオフ浄化性能の熱劣化を再現した。

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【参考文献】
(1) Daniel Chatterjee, Olaf Deutschman, Jurgen Warnatz, Detailed surface reaction mechanism in a three-way catalyst, Faraday Discuss, Vol.119, pp.371-384 (2001)
(2) Sung Bong Kang, Seok Jun Han, In-Sik Nam, Byong K. Cho, Chang Hwan Kim, Se H. Oh, Detailed reaction kinetics for double-layered Pd/Rh bimetallic TWC monolith catalyst, Chemical Engineering Science, Vol.241, pp.273-287 (2014)
(3) Masato Machida, Ayumi Fujiwara, Hiroshi Yoshida, Junya Ohyama, Deactivation Mechanism of Pd/CeO2-ZrO2 Three-Way Catalysts Analyzed by Chassis-Dynamometer Tests and in Situ Diffuse Reflectance Spectroscopy, ACS Catalyst Vol.1 No.7, pp.6415-6424 (2019)
【さらに学びたい方へ】
(1) 三共出版:新しい触媒化学(2013)
コメント: Langmuir-Hinshelwood機構についての説明が、分かりやすく解説されている。
(2) CHEMKIN:Surface CHEMKINについてのマニュアル,SAND90-8003C・UC-706,September 1991
(3) CHEMKIN:CRESLAFについてのマニュアル,SAND93-0478・UC-401,September 1996
コメント:表面反応についての取り扱いが分かりやすく説明されている。
(4) Olaf Deutschmannのwebサイト、https://www.itcp.kit.edu/deutschmann/1601.php
コメント:三元触媒反応が詳しく記載されている。