TOP > バックナンバー > Vol.12 No.3 > 主軸受におけるエンジン振動エネルギーの減衰
熱効率向上に伴う急速燃焼化により背反となる振動・騒音性能の対応が必要とされており、かつ車外騒音規制が強化されていく中、高精度騒音予測技術の構築が課題となっている。そのためには燃焼衝撃力が与える影響の明確化が必要であるが、山口大学では、「燃焼衝撃から放射音発生に至る過程を時間・周波数域で表現可能な騒音発生の基本モデル」を構築・拡張している。それは(1)燃焼衝撃パワーの振動エネルギーとしての蓄積・伝達、(2)振動エネルギーの構造内減衰、(3)騒音放射、で表されるが、本研究では(2)の減衰を司る因子に関する調査を行った。
振動エネルギー減衰にかかわる因子として、①エンジンパーツ内部の分子間摩擦による減衰、②パーツ結合部の摩擦による減衰、③軸受等パーツ間接触部におけるオイル等の摩擦による減衰、の3因子について研究を行ったが、本稿では③のパーツ間接触部における減衰について記載する。
オイル粘性摩擦の振動エネルギー減衰への影響を調査するため、3種類の異なる粘度のエンジンオイル(粘度順に0W-30<5W-50<10W-60)を用いて実機実験を行った。図1に示すのはエンジン表面の加速度から算出した振動エネルギーの減衰率であるが、多くの周波数帯でエンジンオイル粘度を大きくすると減衰率が減少することが分かった。粘度を大きくすると粘性抵抗が強まり減衰率が上昇すると考えられるが、実験結果はそれと相対するものであった。この結果について考察するため、以下に示すシミュレーションを実施した。
粘度に大きく差を付けた2種類のオイルを用いてシミュレーションを実施し主軸受を解析すると、粘度の小さいオイル(Oil A)の場合、軸受において粗さ接触が生じることが判明した。図2に示すのは、左図のように軸受を切り開くようにして長方形に表示した、軸受粗さ接触圧力である(上:粘度の小さいオイルを用いた場合、下:粘度の大きいオイルを用いた場合)。これは燃焼衝撃を受けたクランク軸が弾性変形したことによると思われる。一方粘度の大きいオイル(Oil B)にすると、この粗さ接触圧力は激減した。これは粘度が大きくなってオイルのくさび効果が強まったことが原因と考えられる。
図3に示すのは主軸受の摩擦損失の時間変化であるが、粘度の小さいオイル(Oil A)では燃焼TDC付近において大きな粗さ接触摩擦損失が生じているのに対し、粘度の大きいオイル(Oil B)では粗さ接触が減少することでTDC付近の摩擦損失が減少する代わりに、定常的なオイル粘性摩擦損失が増大している。これらの摩擦損失がどの周波数域に影響を及ぼすか調査するため、周波数解析を行った。
図4に、図3の周波数解析結果を示す。左図から、粘度を大きくすると広い周波数域で摩擦損失が減少することが分かる。一方右図は左図の50 Hzまでを表示したものであるが、10 Hz以下では粘度を大きくすると摩擦損失が増大している。これらの結果から、粗さ接触摩擦損失は広い周波数域に、オイル粘性摩擦損失は極低周波数域に影響を及ぼすことが分かる。図1で示した、粘度を大きくすると減衰率が減少したのは、粗さ接触摩擦が減少したことが原因と考えられる。
本研究では、自動車用内燃機関技術研究組合の委託事業として、エンジン振動エネルギーの減衰に着目し、その関係因子の中でも、パーツ間接触部におけるオイル粘性摩擦による減衰について調査した。パーツ間接触部ではオイル粘性摩擦のみならず粗さ接触摩擦損失も生じており、燃焼起因振動・騒音に関係があるとされる1 kHz以上においては粗さ接触摩擦損失の影響が大きいことが分かった。本稿では触れていないが、軸受粗さ接触は減衰率のみならず、燃焼衝撃から振動エネルギーへの変換を司る振動伝達効率へも影響が及ぼすことが分かっており、今後も燃焼起因振動・騒音発生メカニズムについて調査をしていく計画である。
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