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Vol.12 No.3

核沸騰熱伝達コントロールに向けた現象解明とモデル化
Experimental Investigation and Modeling for Nucleate Boiling Heat Transfer Control
チン コウウ、一柳 満久、鈴木 隆(上智大学)

Haoyu CHEN, Mitsuhisa ICHIYANAGI, Takashi SUZUKI (Sophia University)

アブストラクト

 内燃機関の熱効率向上ならびに有害排出ガス低減を目指し、高度な熱マネジメント技術が開発されてきた。冷却損失や摩擦損失低減に向けた高温制御や、局所高温部の冷却および信頼性を両立した熱マネジメント制御技術を開発するため、エンジン冷却系やEGRクーラに核沸騰現象を活用することを提案した。そのため、核沸騰現象コントロールに有効となる制御因子の解明および高温局部付近の沸騰発生と熱流束を予測可能な水路用核沸騰熱伝達モデルの構築が必要とされている。 本報告では、実際の冷却通路を模擬した実験により得られた成果および提案モデルについて紹介する。

核沸騰熱伝達モデルの開発
伝熱面の腐食現象

 核沸騰現象コントロールに有効な制御因子を調査するため、水平平板流路で核沸騰熱流束計測実験を行った。冷却液は、水およびLLCの主成分であるエチレングリコール50%水溶液(EG50%)を使用した。この2種類の冷却液はLLCと異なり防錆効果がないため、実験中、アルミ合金製の伝熱面に黒色の腐食現象が発生した(図1(a))。腐食による表面粗さの変化を調べた結果(図1(b))、黒色領域(I)の表面粗さは実験前(Base)より減少したことが分かった。更に、腐食による表面性状が熱流束(qw)へ与える影響を調査した結果(図1(c))、腐食は核沸騰熱流束および気泡核密度に抑制効果を与えていることが明らかになった。

※1 RLo:表面輪郭の展開長さ [%]。測定長さに対する粗さ曲線の展開長さの増加割合で表す。
   Sa:算術平均高さ [μm]。表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表す。
   Ssk:スキューネス (偏り度) [-]。表面の高さ分布の対称性を表す。
※2 ΔTsat :過熱度 [K]。表面温度と液体温度の温度差(表面温度 - 液体温度)を指す

有効制御因子の解明

 熱流束計測実験を通し、流速、サブクール度および圧力による核沸騰伝熱への影響感度を検証した(1)(2)図2(a)から図2(c)結果により、高流速、高サブクール度および高圧力になるにつれ、熱流束は増加する(沸騰曲線は左側に移動する)傾向が確認された。 また、図2(d)および図3により、水およびEG50%は同様な条件において、熱流束および沸騰現象が大きく変化することが分かった。EG50%の熱流束が小さい原因は気泡が水の場合のように上方に離脱せず、伝熱面に沿ってスライデングすることにより、離脱周波数が低減したためと推察される(2)。最後に、各因子が核沸騰熱流束への影響を図2(e)にまとめて示す。

※3 図2(e)
B点:沸騰開始点。加熱面に直接触れている液体が飽和温度以上に過熱され、核沸騰を生じ始める位置を指す。
C点:限界熱流束点。核沸騰熱流束の上限を指す。
A-B:沸騰発生前の強制対流熱伝達領域。
B-C:核沸騰熱伝達領域。
矢印:図に示している各因子の変化による沸騰曲線の変化傾向。

(a)

(b)

Fig. 3 気泡離脱現象(録画速度20000fps):(a)水(気泡はスライディングせずに離脱)、
(b)EG50%(気泡はスライディングしてから離脱)

核沸騰熱伝達モデルの提案

 前述のように局所高温部の冷却および信頼性を両立した熱マネジメント制御技術を開発するため核沸騰熱伝達モデルの開発が必要である。モデルの開発には、過去の式(Chenのモデル&Steinerらのモデル)(3)を参考にし、重ね合わせ理論(強制流動核沸騰熱流束は強制対流熱流束と核沸騰熱流束の重ね合わせ)を用いた。水とEG50%の沸騰現象に大きな差異が存在するため、次元解析を用い核沸騰熱伝達モデル(式1、式2)をそれぞれqw_waterおよびqw_EGとして提案した(2)。提案式を実測熱流束で検証した結果(図4)、各条件における予測誤差は概ね±10%以内であり、過去の式と比較し予測誤差が小さいと評価された。

1-D数値解析ソフト・OpenModelicaへの実装

 将来車全体の熱マネジメントシミュレーションを実現するため、提案式を1-Dシミュレーションソフト・OpenModelicaに実装した。図5(a)に提案式を実装したチューブ型のモデルを示す。モデル内のaice1というコンポーネントに、提案式を組み込んでおり、流路内の運転条件から熱伝達率が算出される。図5(b)(c)に示しているqw_waterおよびqw_EGによるシミュレーション結果により、どちらも実測結果と概ね一致していることが確認され、1Dシミュレーションは核沸騰熱伝達の予測に有効であることが分かった。

まとめ

 本稿では、AICEプロジェクト研究で取り組んだ核沸騰熱伝達モデルの開発の成果を紹介した。核沸騰は多くの物理量とかかわる現象であり、コントロールするのは難しい課題の一つと言える。AICEプロジェクトを通し、産学の共同研究としてその現象の解明および熱伝達の予測が進んでおり、内燃機関の熱効率向上および排出ガス改善に要求される熱マネジメント技術の開発に貢献している。現在、AICEモデル基盤研究にて、エンジン熱マネモデルを構成するサブモデルとしてEGRクーラモデルの開発に着手している。今後は、筒内の予測モデルと、冷却水の予測モデルを組み合わせた熱マネジメントモデルの構築とその制御に寄与したいと考えている。

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【参考文献】
(1) H. Chen, E. Yilmaz, K. Asano, R. Shindo, A. Homma, N. Kimata, T. Suzuki, M. Ichiyanagi, “Effects of Coolant Flow Characteristics and Channel Surface Temperature on Nucleate Boiling Heat Transfer in IC Engine Cooling System”, Int. J. Automotive Eng., Vol.11, No.4, pp.143-150, (2020).
(2) H. Chen, T. Suzuki, K. Asano, R. Shindo, A. Homma, N. Kimata, T. Nakaya, K. Nakamura, E. Yilmaz, M. Ichiyanagi, “Effects of water and 50% ethylene-glycol coolant characteristics on nucleate boiling heat transfer in IC engine cooling system”, Int. J. Automotive Eng., Vol. 12, No. 3, pp. 78-85, (2021).
(3) H. Steiner, A. Kobor and L. Gebhard, “A wall heat flux model for subcooled boiling flow”, Int. J. Heat Mass Transf., Vol. 48, No. 19-20, pp. 4161–4173, (2005).
【さらに学びたい方へ】
(1) 甲藤好郎、沸騰の科学(1), 伝熱, Vol.44, No.186, pp.38-42,(2005).
(2) 甲藤好郎、沸騰の科学(2), 伝熱, Vol.44, No.187, pp.15-20,(2005).
(3) 甲藤好郎、沸騰の科学(3), 伝熱, Vol.44, No.188, pp.31-35,(2005).
(4) 甲藤好郎、沸騰の科学(4), 伝熱, Vol.44, No.189, pp.15-18,(2005).
(5) 甲藤好郎、沸騰の科学(5), 伝熱, Vol.45, No.190, pp.50-55,(2005).
(6) 甲藤好郎、沸騰の科学(6), 伝熱, Vol.45, No.191, pp.29-34,(2005).
コメント:沸騰現象およびその原理を、生活中の事例を用いて分かりやすく解説されている。