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Vol.12 No.4

EVシフトに向けた電力供給システムの動向 - その背景と概要 -
Power Plant movement toward EV Shift - Background and Summary of the Theme -
清水 健一(本誌編集委員、早稲田大学)

Ken-ichi SHIMIZU (JSAE ER Editorial Committee, Waseda University)

特集の背景

 CO2削減が世界的な急務となっていることから、自動車の電動化を進める政策へのシフトが目立っている。電動車両は駆動系が高効率であるという絶対的な優位性があるものの、現状では電池による制約から、長距離大量輸送用途の大型車両への実現は、HEVレベルでも困難であるほか、暖房による実用時の電費性能の大幅低下など、電動車両の普及に課題が多いことも事実である。これらを解決するために、例えば走行中給電に代表されるような様々な試みがなされているが、補完技術にとどまり、広範にわたる普及を前提としたものではない。
 CO2削減を達成する手段としては、e fuelなど電動車両以外の手法もあり得るが、電動車両を目に見えるほど普及するには、電力供給側を含めたCO2削減効果に加えて、最終的にはライフサイクルを通してのCO2評価が重要となる。Engine Review誌Vol.9 No.6 (2019年12月発行)では、生ものである電気の発電時のCO2削減量評価は従来の電力ミックスによって削減効果を全体に振り分けるのではなく、その時点で実際に不要となる電源(マージナル電源)のCO2削減量で評価するGHGプロトコルが必要があり、これに関する発電側の対応と、車両側からみたCO2削減の考え方を紹介した。

EV普及に対応した電力システム

本特集では、EVと電力供給に関する第2弾として、再生可能エネルギーの比率が向上した状態で電動車両が大量に普及する場面での電力供給システムの姿を念頭に、これに向けた動向を紹介頂く。ここでは、紹介頂く各テーマの位置づけや内容の理解を助ける目的で、用語の予備説明を兼ねて現状の概要について述べ、将来の姿を想像して頂くための概説を試みる。

(1) 電力需要への対応手法の現状

 需要が確実な電力分を、応答には難がある発電設備で発電し、残りを発電電力を高速で調整できる発電設備(石油火力等)で発電する。発電電力の過不足で発電機の回転数が上下するので、周波数(回転数)が維持できるように発電出力を調整(周波数制御、周波数調整)することで需給のバランスが保たれる(図1参照)。従来は、一般送配電事業者(以下、電力会社)の専用電源の範囲でこの処理が完結できていたが、3.11以降、原発の運転停止による発電余裕の低下もあって、対応が複雑になっている。
 PV(Photvoltaic)等の再生可能発電の増大により、設備維持費を含めた採算性の観点から古い火力発電設備の停止がある一方、PV等の発電能力の変動をカバーするために必要な周波数調整用発電能力も増大するという皮肉な状況になっている。そのため、従来の電力会社のほかに、小売り電気事業者の関与する電力も含めた調整用電力を公募して運用する方法が執られている。表1(1)は調整電力の公募の分類で、電源Ⅰは一般送配電事業者の専用電源として常時確保するもの、電源Ⅱは小売り電気事業者の関与するもので余剰があれば利用する。調整力は、前述の機器の応答速度のほか、発動への対応時間、必要な持続時間等で区分されている。

(2)系統用蓄電設備とEV用電池の役割

 系統電力は生ものであるが、揚水発電(位置エネルギー)や系統連携蓄電設備(電池)に保存することで、需要に応じたタイミングでの利用が可能である。後者の目的で高温電池であるナトリウム硫黄(NaS)電池の開発が注目されたこともあるが、安全性に問題があり、実用レベルの大規模なものには至っていない。
 都市内利用の軽/小型EVは、業務使用の場合は継ぎ足し充電が必要なほど、電池容量に余裕がないが、いわゆる高性能EVはICEVに近い一充電走行距離を満たすほど、電池容量に余裕がある状態になっており、休止中の車両のこの”余裕”の利用が注目されている。当初、災害時の非常電源としてEVの電池を利用する方法として登場したVehicle to Home(V2H)は、コジェネと組み合わせたHome Energy Management System (HEMS)とともに系統への逆潮流機能を持った系統連携蓄電設備としての利用が有望視されている。分散してはいるが、普及によってEVの総容量が大きくなるので電力供給システム全体にも影響を与えるものと考えられる。
 安定した性能の電池が大量に供給される結果、EV用としての性能は満たせなくなった電池を系統連携蓄電設備用として再利用することも検討されており、電池のライフサイクルでのCO2低減面でも期待されている。これらは、図2のような分散型の電力供給システムを構成しているとみることができる。

(3) 分散型発電設備/分散型グリッドへ

 EVの充電は、新たな需要の偏在を生む可能性がある一方、充電タイミングをコントロールできれば、あげDR(あげDemand Response: 需給調整を目的に、系統側からの指示に応じて余剰電力を適切に利用)の役を果たす。Homeでの普通充電時に充電量、充電レート、充電完了時刻等の希望情報を付した充電要求に対して、グリッド側が需給を加味して充電タイミングを制御する「スマート充電」が期待されている(2)。しかし、分散しているが故に、従来の集中型設備のような管理・コントロールには無理があることは、容易に想像できる。現段階では限定的な範囲での実証にとどまっているが、高度なスマートグリッドをベースにした分散化された配電網で構成されるシステマティックな検討が必須と考えられ、分散配置された仮想発電設備(VPP)を取り込んだ仮想配電網(Vertual Grid)の運用となる。

まとめ

 本特集では、上記の流れの基盤と考えられる、系統側からみたV2Hの検討状況、車両側からみたV2Hの有効性、系統連携蓄電設備に有望視されているEV用電池の再利用に関する動向について、各分野の方に紹介いただく。
 これらは、需給の様子で電力の価格を変動させることがベースとなるが、アグリゲータ(分散した電力をとりまとめて取引や制御する事業者等)の機能を含めて、如何に適切に制御を実施できるかが課題である。また、トラブルが発生した場合でも二次的なトラブルを生まないためのフェールセイフ機能をはじめ、事前保守による故障回避がベースであった電力分野の設計を、分散機器に対しては一般の機器と同様に安全に壊れるものに変更すべきで、保守作業の合理化も重要な課題であると考えられる。全体としては緻密かつ壮大な社会インフラの修正・変更伴うので、どの様なステップを踏むべきかなど、課題は山積している。

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【参考文献】
(1) 今年度実施する調整力の公募調達等について-第61回制度設計専門会合資料、経済産業省、
https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/061_05_01.pdf
(2) Joao C. Ferreira, Alberto Rodrigues da Silva, Joao L. Afonso: Agent Based Approaches for Smart Charging Strategy for Electric Vehicles, Proc. of EVTeC’11, 20117214