TOP > バックナンバー > Vol.12 No.4 > 電池の再利用に向けた標準化
電動車の普及に向けて、電池を再利用することによるコストダウンが期待されている。また、図1にあるように、電動車製造時のCO2排出量において、リチウムイオン電池(LIB)の材料生成時とバッテリ製造時に排出されるCO2が約半分を占めており、一度生産したバッテリを最大限に有効活用することによりCO2を削減するためにも再利用への期待が大きい。
電動車に求められる性能を満たさなくなった電池は、周波数調整、ピークカット、再生可能エネルギーのオングリッドおよびオフグリッド貯蔵などの定置用途に再利用することが期待されている。しかし、再利用電池を安全に使用できるのか、不安視する声も少なくない。新車時においては、UNR100などの安全試験が存在するが、再利用電池に関しては、一部の国・地域で活用される規格UL1974(1)や中国GB/T標準(2-6)はあるが、車両で使用済み電池の安全性を評価する国際基準、標準は現存しない。電動車普及には、再利用電池を安全に使用するための国際標準が必要な状況にあることから、日本主導で再利用電池の国際標準化を進めている。本稿は電気自動車用電池を再利用するための課題とその対応状況について紹介する。
市場において、LIBが原因とされる火災事故が散見されている(7–8)。火災原因は不透明なところが多いこともあり、二次利用ユーザーからすると、再利用電池に対して不安視する声は少なくない。新車時は、工場で製造された同一性が確保されている製品に対して型式認可を取得するが、再利用電池の場合、すべての電池が1点もの(性能・品質がそれぞれ異なるもの)であることから、型式認可を取得することが難しい。また、電動車の新品電池に対する安全性標準 IEC62660-3(9)では、表1のように、破壊試験を伴うことから、同一性が保証されていない製品に対して型式認可を取得することが大きな課題となる。
UL1974や中国GB/Tで再利用電池に関する標準が準備されているが、 表2にあるとおり、一次製品(電動車用電池)に対して再利用を判断するアセスメント要求がない。また、一部の国・地域で活用される規格であることから、現時点において、再利用電池を高品質状態で安全に使用するための国際標準がない状態である。
再利用電池を安全に使用するために表3に示す、再利用電池に関する国際標準化を日本主導で進めている。電池工業会(BAJ)主導で再利用電池に対するガイダンス(IEC63338(10))を,日本自動車研究所(JARI)主導で、再利用電池に対する安全と性能要件の標準(IEC63330(11))を,電気学会主導で、系統連系蓄電池システムに再利用電池を使用する場合の安全要件(IEC62933-5-3(12))と環境要件(IEC62933-4-4(13))に関する標準作成を進めている。さらに、再利用電池を製造する企業に対しての企業認可標準として、リユース電池マネージメントシステムの標準作成がJARIの主導で進められている。
ここではIEC63330の内容について紹介する。IEC63330では品質管理の観点から使用履歴の確保を要求している。一次利用(車両での使用)において、使用履歴を管理することにより電池が異常な使用、劣化、故障をしていないことをデータで証明することにより品質維持の確保を要求している。考え方としては一次利用で設計された使用条件範囲内で、かつ、残性能、残使用可能期間がある電池は、一次利用同様に再利用できるものとしている。また、再利用時の残性能と残使用可能期間に応じて図2に示すランク分けを要求している。残性能は容量を用いるのが一般的だが、再利用ニーズに応じて、内部抵抗やその他電池性能による分類分けを組み合わせることにより、品質の確保と製品の同一性確保を要求している。再利用電池は1点もののため型式認可が難しいが、同ランク内の製品に対しては、同一性が確保されることから、本標準を採用することで型式認可の取得が可能となる。但し、型式認可は各国で設定される型式認可制度に準拠する必要がある。
再利用のニーズによっては、一次使用時の使用条件、電池構造を変更する場合が想定される。一次利用に対して使用条件を変更した場合、一次利用時に設計されていた安全、性能、使用可能期間等を準拠できなくなる。特に、安全性に関する設計を変更した場合は、FTA(Fault Tree Analysis、故障の木解析)やFMEA(Failure Mode and Effect Analysis、故障モード影響解析)などのツールを用いて変更箇所に対する安全性検証の実施を推奨している。再利用ユーザーの要求によっては、安全性を維持するために、運用中の電池状態監視や抜き取り検査を要求される場合がある。再利用が想定される場合は、新品電池の設計段階で、再利用用途を考慮した設計、検証試験等を実施することにより、再利用時の運用がスムーズになることが期待される。
表4には系統連系蓄電池システムに必要な関連標準を示している。新品時の系統連系蓄電池システムの認証時はJIS C4412(14)もしくはC4441(15)とJIS C8715-2(16)およびISO9001(17)を参照している。これに対して、再利用電池は、IEC62933-5-3,IEC62933-4-4とIEC63330、IEC63338およびリユース電池マネージメントシステム標準を準備している状況にある。これら標準が型式認可制度に採用されることにより、再利用電池市場が活性化されることが期待される。 但し、これら標準は審議中のため、内容が更新される可能性が含まれている。
再利用電池のコストは、電池パックの回収費、分解、組み立て、管理費などの費用を考慮して売価設定をする必要がある。一方、新品電池のコストは、使用材料の高騰問題があり不透明な部分があるものの、将来的にはコストダウンが予測されている。再利用電池の売価に対して、新品電池の価格低下が大きい場合、新品電池に対してアドバンテージを示すのが難しいことが想定される。再利用電池のコストを削減するには、効率的な輸送方法の検討、分解費削減のための易分解構造の開発、製作費低減のための予備設計、品質検査の簡素化、管理費低減等の施策を検討する必要がある。
一次利用後、リサイクルに活用するプロセスも想定される。しかし、例えば、正極にリン酸鉄を用いたLIBの場合、含有している材料のコスト価値が比較的低いため、ビジネス的にはリサイクル適用が難しい場合がある。このような電池の場合、再利用で最大限に有効活用することにより環境への貢献が期待される。再利用電池市場普及には課題はあるが、CO2削減およびリソースサーキュレーション社会実現の一アイテムとして取り組んでいく必要があると考える。
本文は筆者がJARI FC EV標準化委員会 電池分科会 電池標準化WG リユースSWG活動の成果をまとめたものである。執筆にあたりリユースSWGメンバーには、ご助言を戴いた。ここに感謝の意を表する。また、一部、経済産業省委託事業により実施されたものである。この場を借りて深く御礼申し上げる。
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