TOP > バックナンバー > Vol.12 No.6 > 燃焼による振動のエンジン内伝達経路を探る
エンジンにおいてシリンダ内(以下筒内)圧力は燃焼の熱発生に伴い急激に上昇し、それに伴い振動加速度も大きく振動し、放射音を発生させる。では、この振動はどのようにして発生し、どこを伝達して外壁面に到達するのだろうか。振動伝達経路が明確になれば、振動・騒音の効果的な対策が可能となるものと考えられる。本稿では、まず、筒内圧力と壁面振動加速度について、時間変化特性、周波数特性、時間・周波数特性という異なる面から特性を示す。そして、燃焼に起因する振動のエンジン内伝達経路の探索を周波数成分毎に行う試みとして筒内圧力と壁面振動加速度に対するウェーブレット相互相関解析を行い、その結果例を示す。
図1に単気筒ディーゼルエンジンの筒内圧力と燃焼室近くのエンジン外壁面の振動加速度の時間変化を示す。筒内圧力は燃焼による熱発生に伴い急激に上昇し、それに伴い振動加速度も大きく振動している。この振動はどのようにして発生し、どこを伝達して外壁面に到達するのだろうか。図2にエンジンにおける燃焼騒音発生過程の概念図を示す。燃焼による衝撃はシリンダヘッドやピストンに作用し、最終的にエンジン外壁面の振動となり、音として放射される。振動伝達経路が明確になれば、振動・騒音の効果的な対策が可能となるものと考えられる。本研究は、燃焼による振動のエンジン内伝達経路の探索をウェーブレット相互相関により試みるものである。
図1の筒内圧力と燃焼室近くの壁面の振動加速度の高速フーリエ変換(FFT)による結果を、図3に1/3オクターブバンド表示で示す。筒内圧力では8000Hzにおいて特徴的なピークが見られた。これは燃焼室内共鳴によるものと考えられる。振動加速度では2500Hzと8000Hzで特徴的なピークが見て取れた。三上(2)は本研究で用いたエンジンは2500Hz付近においてピストン―コンロッド連成振動数を含む固有振動数を持ち、騒音スペクトルにおいてピークを示すと述べている。よって、2500Hzのピークはこのピストン―コンロッド連成振動によるものと考えられる。
FFTでは欠落する時間情報も含めて解析を行うためウェーブレット変換による時間・周波数解析を行った。結果を図4に示す。筒内圧力は0deg.の上死点付近で全周波数においてピークを示す。ただし、8000Hzでは燃焼室内共鳴により20deg.ATDCまで大きい値が続いている。振動加速度ではほとんどの周波数において0deg.を過ぎたあたりでピークをとり、時間とともに減少する。時間・周波数依存騒音発生モデル(3)によれば、燃焼衝撃パワーは燃焼期間に構造内に振動エネルギーとして蓄積され減衰するが、ここでも同様の傾向を示している。これに対し、2500Hzでは40deg.ATDC付近に遅れてピークが見られた。
図4の振動加速度のうち燃焼起因の周波数成分を見出し、その伝達経路について考察を行うために、筒内圧力と振動加速度に対してウェーブレット相互相関解析を行った。結果を図5に示す。カラーはウェーブレット相互相関係数を表し、横軸は各周波数における筒内圧力から振動加速度の時間遅れをクランク角度で表示したものである。これより2500Hz、5000Hz、8000Hzで比較的大きな相関が見て取れる。8000Hzではほぼ時間遅れがなく、最短経路で振動が外壁面に到達したと考えられる。2500Hzでは30deg.程の遅れがあるが、これはピストン-コンロッド連成振動の励起遅れを伴って振動が到達したためと考えられる。
燃焼に起因する振動のエンジン内伝達経路の探索を周波数成分毎に行う試みとして、筒内圧力と壁面の振動加速度に対してウェーブレット相互相関解析を行った結果を示した。今回は壁面上のある一点における振動加速度を用いたが、これをさらに多点計測結果に対してウェーブレット相互相関解析を行うことで、より明確に伝達経路が考察できる。これにより、2500Hz成分は、燃焼室から最短経路で燃焼室近傍壁面に到達するよりむしろ、ピストン-コンロッド-クランク軸と経由して外壁面に到達し、燃焼室近傍壁面まで到達する経路の寄与が大きいことが分かりつつある。
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