TOP > バックナンバー > Vol.12 No.8 > 水素専焼ドライ低NOx燃焼技術を用いた熱電供給実証
川崎重工業では、将来の水素社会の実現に向け、液体水素の供給、運搬、貯蔵、利用の技術開発を進めている。水素利用技術の中で、ガスタービンエンジンを用いた水素発電実証を進めている。ガスタービン燃焼器の様な高温・高圧に圧縮された空気の中で水素を連続燃焼させるには、安定燃焼と低NOx燃焼が重要となる。微細な水素火炎を形成する燃焼方式を採用した燃焼器を新たに開発し、兵庫県神戸市ポートアイランドに設置した水素コージェネレーション実証設備において、熱電供給実証を行った。2020年11月4日に水素専焼ドライ低NOx燃焼技術を用いた熱電供給に成功した。1700kW発電出力時のNOx値約55ppm(残存酸素16%、相対湿度60%換算値)を得た。
ガスタービンは燃料多様性に優れ、水素を燃料とすることは十分可能であるが、水素特有の燃焼特性への適合や、逆火や燃焼振動の無い安定燃焼と低NOx 性の両立が開発が鍵となる(1)。高濃度の水素を含む反応性の高い燃料ガスには、従来型の燃焼技術であるウエット方式(いわゆる拡散型燃焼と水や水蒸気噴射を用いたNOx低減)を用いる。しかしながら、純水製造設備の導入・運用や燃料消費量の増加に伴うエンジン効率低下等のデメリットが生じる。このため当社では、ドイツ・アーヘンにあるAcUAS(Aachen University Applied Sciences)が保有する水や水蒸気を用いない水素専焼ドライ低NOx燃焼技術:micro-mixに着目し、産業用ガスタービン燃焼器への適用検討等を実施した(2)(3)(4)。 図1にmicro-mixの概念図を示す(5)。微小な水素噴射孔から水素を噴射し、空気噴流と急速に混合、微小な水素火炎を形成することで、局所的な高温域の発生を無くし、反応時間を短くしてNOxの発生を抑制する。
図2にM1A-17型ガスタービンエンジン(1800kW発電出力)と試作燃焼器、micro-mixバーナモジュール背後に形成される水素火炎をそれぞれ示す。本試作燃焼器のmicro-mixバーナモジュールでは、水素噴射孔の直径は0.8mm、その個数は410個、また水素を供給するリング部品を3個備えている。図3にガスタービン運転時の燃料供給を示す。エンジンの起動(図3AとB)、低負荷運転(図3C)、部分負荷運転(図3D)、高負荷運転(図3E)のそれぞれで水素を供給するリングの数を切り替える。この燃料ステージング方式により、低負荷から高負荷運転での安定燃焼と低NOx運転を実現する。
図4に神戸市のポートアイランドに設置した水素コージェネレーション実証設備の全景を示す。当社のPUC17型常用発電装置を使用し、M1A-17型ガスタービンエンジンを装備した。2017年12月の設備完成以降、従来型の燃焼技術であるウエット方式を用いて、ガスタービン発電装置単独での試運転や、天然ガスによる運転試験を経たうえで、水素と天然ガスの混焼および水素専焼による熱電供給の実証試験を実施した。2018年4月19日と20日に実施した実証試験において、水素のみを燃料として、近隣の4施設への熱電の同時供給を実現し、市街地における水素ガス専焼のガスタービン発電による熱電供給を世界で初めて達成した(5)(6)。
図5にM1A-17ガスタービンエンジンに搭載した水素専焼ドライ低NOx燃焼器を示す。2020年5月よりエンジン運転技術を確立するための技術試験を実施した。エンジン起動調整試験、負荷運転試験等を実施した後、吸気温度25℃における100%負荷-1530kWに到達した(7)(8)。2020年10月から系統連系試験ならびに熱電供給実証試験を実施した。2020年11月4日に本水素専焼ドライ低NOx燃焼技術を用いた熱電供給に成功した。2021年1月18日には定格出力1800kWにおいて、NOx値は約60ppm(残存酸素16%、相対湿度60%換算値)、エンジン効率は水噴射によるNOx低減方式にくらべ、約1%改善し、27%となった。また、無負荷から100%負荷の全域で燃焼振動の振幅の強さ(RMS値)は3kPa 未満と安定燃焼を得た(9)。
本稿では、水素専焼ドライ低NOx燃焼技術ならびに熱電供給実証について、その取り組みと成果の概要を報告した。脱炭素社会の実現に向け、世界中で様々な研究開発、技術実証が行われる中、世界に先駆け市街地レベルで地域社会に水素発電による電気と熱の供給実証を達成した。今後も更なる燃焼特性の改善、特にNOx排出量の低減に取り組む。また、本micro-mix燃焼技術を水素と天然ガス混合燃料ガスにも対応させ、ガスタービン運転技術の確立にも取り組んで行く。
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