TOP > バックナンバー > Vol.13 No.3 > CI機関(その1)
セッション「CI機関(1)」の中からマツダ(講演番号13)と京都大(講演番号14)のものを取り上げた。マツダの論文はPCI燃焼を中負荷まで拡張した2段エッグ燃焼室を用いた空間制御予混合燃焼である。この燃焼室は大型車両(大型トラック)に用いられている2段リップ燃焼室に形状的には極めて近い。偶然の一致とも思われるが、大型がこの形状を選んだ過程を振り返り、今後の両者の技術討議の材料としたい。
京都大の論文はディーゼルの着火、燃焼のきわめて基礎的な研究である。この分野ではサンデア研が、燃料性状の違いにより、リフトオフ長が変化することを指摘しているが、理由がまだ明確でない。カーボンニュートラルな合成燃料の方向性を検討するにあたり、この領域まで含めて検討しようとしており、今後の研究の進展を期待する。
松尾ら(1)は「ディーゼルエンジンの高効率化のための噴霧予混合気の空間制御による新燃焼コンセプト」と題して講演を行った。図1に 本研究で用いられた燃焼室を示す。この形状は2005-2010年に大型トラック用エンジンに研究、開発された2段リップ燃焼室に極めて似ている。スキッシュリップと呼ばれる燃焼室を上下2段に分けて噴霧の混合気形成を制御しようとする狙いは同じとみられるが、参考のために大型のたどった道筋を明らかにしてみたい。この時点での噴射系はコモンレールの高圧化、高出力、噴射ノズルの小噴口化により噴射期間が長くなり、噴射後期の噴霧が燃焼室内に収まらず、ピストン頂面かかってしまい反射してライナ面に行き、オイル劣化、オイルダイリューションの問題を起こしていた。この場合の一般解は大口径燃焼室だが、高速回転域で燃焼期間が長くなるため、上部のみ大口径化した。これにより上部のリップ形状の最適化と合わせて、燃焼室外のピストン頂面での反射を防止しオイル劣化等の問題を解決した。同時に上部のみの燃焼室の大口径化により、噴霧火炎の燃焼室壁面への衝突の低減、逆スキッシュ流の低減により熱損失量が低減し、燃費の向上にも寄与した。現在、この2段リップ燃焼室は、日野の排気量4-13Lのすべてのエンジンに用いられている。今後乗用車と大型との間で技術討議をすると面白いかもしれない。
下川ら(2)は「燃料性状がディーゼル噴霧の着火・燃焼過程に及ぼす影響」と題して講演を行った。ディーゼルエンジンのカーボンニュートラルを実現するために、化石燃料の代替となる燃料を利用する必要があり、その代替燃料の一つとして、水素ガスと二酸化炭素を原料として合成される合成燃料が注目されている。この合成燃料の実用化にあたって、その性状を積極的変化させることによる燃焼改善も検討されており、燃料性状と噴霧の着火、燃焼過程の関係を調査する必要がある。そこで本研究では、RCEM(急速圧縮膨張装置)を用いて燃料性状の異なる6種の燃料を使って、図2および表1に示すように、ススの生成量と関係の深いリフトオフ長(LOL)および液相長さ(LL)の解析を始めた。同時に着火遅れと熱発生率も同時に解析が可能である。従来より、噴霧火炎において燃料性状が変わるとリフトオフ長が変化することがサンデア研の研究により指摘されており、どのようなメカニズムによりリフトオフ長が変化するかが明確になれば、新合成燃料を用いた効果と合わせて、画期的な燃焼に結びつく可能性があり、今後の研究の発展に期待する。
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