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SIPガソリンサロゲート燃料が目指したのは、ガソリンの燃焼特性、特に自着火性と燃焼速度を再現することである。このためにガソリンの五つの代表成分を用い、燃焼特性を反応機構によって再現・解析できることを目指した。詳細反応機構は、これら五つの代表成分の燃焼反応の素過程と燃料間の交差反応を書き下したものである。一方で、簡略反応機構は、反応機構の本質を抽出することで、少数の反応で燃焼特性を再現することを目指したものである。
サロゲート燃料は、百種以上の化合物の混合物である実燃料を、数種類の成分で代理(surrogate)することを目的とした燃料である。SIP革新的燃焼技術・ガソリン燃焼チームではプロジェクト開始前後から、ガソリンサロゲートに関する議論を重ね、その目的を明確にしながら成分や組成などを定めていった。前稿(1)では、その議論とSIPサロゲートの目的を紹介した。本稿では、ガソリンとサロゲート成分の燃焼特性、燃焼反応機構の構築の考え方について紹介したい。反応機構には、実際の反応過程を忠実に記述して現象を再現することを目指した詳細反応機構(2)と、これを少数の反応過程で表現することで計算負荷を低減することを目的とした簡略反応機構 (3,4)がある。ここでは、それぞれの特徴について紹介する。
SIPサロゲートはガソリンの燃焼特性を再現することを目的とした。燃焼特性の一つは燃料-空気混合気の自着火性であり、耐ノック性(オクタン価)に強く影響する。もう一つは燃焼速度であり、等容度や燃焼効率、燃焼安定性などを支配し、耐ノック性にも関係する。このような燃焼特性は成分炭化水素の種類により変化するため、サロゲートは図1に示す五つのガソリンの代表成分と、添加物 [ETBE (エチル-t-ブチルエーテル)・エタノール] から構成した。図には成分のリサーチ法オクタン価 (RON) とモータ法オクタン価 (MON) を示す(5)。測定法の異なるこの2種類のオクタン価の差(オクタン感度)も燃料の重要な指標と考えられており(6,7)、ジイソブチレンなどのアルケンや、トルエンなどの芳香族炭化水素で大きい。
詳細反応機構トルエンを除く4成分の燃料の交差反応を含む詳細反応機構は、反応機構の自動生成システムKUCRS(8,9)によって生成したものが元になっている。これにトルエンの詳細反応機構(10)を結合し、さらに小倉によるETBEの反応機構(11)と、交差反応が追加されている。反応機構はそれぞれの成分燃料の基礎燃焼特性(衝撃波管による着火遅れ時間と燃焼速度)に対する検証と改訂を経て、最終的にサロゲート混合物に対する検証を行っている。図2にハイオクガソリン相当のサロゲート(S5H)の例を示した。シンボルが衝撃波管実験による着火遅れ時間(12)であり、実線が反応機構を用いた計算結果である。
簡略反応機構図1のトルエンを除く4成分とETBEの反応機構は、低温酸化反応の異性体をまとめて仮想的な化学種として扱うモデルとし、温度1000K以下の着火遅れ時間を計算できるように反応速度定数を調整した。トルエンとエタノールの反応機構は、詳細反応モデルの反応経路解析に基づき、着火遅れ時間や燃焼速度の予測に不必要な化学種と反応を削除して作成した。これらに、温度1000 K以上の着火遅れ時間や燃焼速度に感度の高い炭素数3までの化学種の反応を追加した。簡略反応機構は132の化学種と459の反応から構成されている。図3にS5Hの着火遅れ時間τ、低温酸化期間τ1、低温酸化による温度上昇ΔTの計算結果を示す。簡略反応機構(実線)は詳細反応機構(シンボル)による自着火過程を概ね再現することができる。さらに燃焼速度、エタノールやETBE混合効果、EGR条件下の着火遅れ時間と燃焼速度についても詳細反応機構の計算結果を再現することができる。
本稿では、SIPガソリンサロゲート燃料の燃焼反応機構に関して述べた。実ガソリンの燃焼特性(自着火性と燃焼速度)を模擬することを目指したサロゲート燃料の燃焼反応機構であり、実ガソリンの気相の燃焼反応のモデリングに使うことも可能であると考えられる。このような目的に際しても本稿が導入として役に立てば、幸いである。一方で、サロゲート燃料が再現することを目指していない蒸留特性や排気などについては前稿(1)の議論を参考にしていただきたい。
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