アブストラクト
自動車排出ガス規制強化や脱炭素化に伴い、排出ガス浄化システムの性能向上は大気環境の改善やコンパクト化、低コスト化につながる重要な課題となっている。本研究では火花点火機関の浄化技術として広く採用されている三元触媒を対象に、触媒に流入するガスの空気過剰率を高速で周期的に切り替えるパータベーション(Perturbation, 摂動)と呼ばれる浄化性能向上技術に着目する。パータベーションを三元触媒に適用した際の浄化率向上に関する詳細なメカニズムには未解明な点が多い。そこで、浄化性能向上につながる排出ガス組成の周期的な変化における振幅および周波数の影響をエンジン試験と表面反応を考慮した数値シミュレーションにより考察した。
パータベーション制御を適用した詳細メカニズムの解明
実機エンジンを用いたテストピース試験装置本実験で用いるテストピースリアクタ装置の概要を図1に示す。本装置の利点は、エンジンからの排出ガスを、下流部に設置したベンチュリ流量計によって制御しているため、GHSV(Gross Hourly Space Velocity、1時間当たりに触媒体積の何倍の排気が通過するかを表す空間速度、以後SV)を任意に変更できることである。パータベーションの周波数および振幅は吸入空気量一定のもと燃料噴射量を任意に設定することで制御した。また触媒はOSC(Oxygen Storage Capacity、酸素吸蔵能)を持つCeO2が塗布されているPd/CZ(Pd/Ce/Zr/Nd/Y/LaOx)を対象とし、触媒の前後では排出ガス分析計、熱電対、圧力計、空燃比計による諸値を計測した。 排出ガス分析計では、CO、NO、THC(Total Hydro Carbon)の三つの化学種を計測し、浄化率を算出した。
パータベーション制御実験結果図1の実験装置を用いて、表1にある条件で実験を行った結果を図2に示す。図2において、中実および中空のプロットはパータベーション有、無の結果、実線及び破線は振幅が各々λ0.034、0.068の結果である。同図から周波数増大により、三つの化学種の浄化率が向上していることが分かる。また振幅、SV増大で3種いずれも同周波数における浄化率が低下していることが分かる。ここで、高SVにおいて最大浄化率となっている1 Hzとλ=一定とした定常供給(0 Hz時)を比較すると、1 Hzのほうが顕著に浄化率の向上がみられる。以上より、パータベーション効果については高周波数にすることが有効であり、高SV時にその効果がさらに向上することが示唆された。
貴金属表面の化学反応速度を考慮した数値計算モデル概要次に各種温度条件下での連続撹拌槽型反応器(Continuous Stirred Tank Reactor:以後CSTR)の動作をシミュレートできるモデル (1)を用いて計算を行った。このモデルは、CSTRでの均一な気相および不均一な表面反応を計算できる。また表面反応機構にはPt触媒対象の反応スキームを用いており、O2の解離吸着を考慮しているため、リッチ、リーン、ストイキ各雰囲気場での反応挙動の変化を表現できることが特徴である。三元触媒は円筒形であるため半径方向、軸方向等を考慮する必要があるが、今回はパータベーションによる化学反応の変化を調査することを目的としたため、物質輸送および触媒層内拡散は考慮せず、貴金属表面の化学反応速度のみが考慮された0次元モデルを使用した。
モデル計算による三元反応メカニズムの解明CO、C3H6の酸化およびNOの還元反応を考慮し、三元反応のメカニズムを検証した。リーンガスを10秒間吹き込んだ後に表2に示すパータベーションを適用した結果を図4に示す。実験結果と同様に、排出ガスの触媒出口モル濃度の結果から、高周波数条件の方が浄化されずに漏れ出るスリップ量が概ね0であり非常に高い浄化性能を発揮しているといえる。また、リッチ時のCO、C3H6、リーン時におけるNO被毒の解消することによって、空きサイトである(S)を最も支配的に維持できることに繋がっていることが分かる。ゆえに高周波数パータベーションを適用することで触媒表面をクリーンな状態にすることができ、浄化性能が向上すると推測される。
まとめ
実機試験と数値計算シミュレーションによって、高周波数であるほど浄化率が向上する点を定性的に再現したとともに、実験では実測できない被覆率の観点からメカニズム考察を実施した。高周波数パータベーションによってリッチ時のCOとHC、リーン時におけるNOの被覆率上昇を抑制し、空きサイトを増加させることで浄化率が向上するメカニズムを明らかにした。今後の展望および課題としては、物質輸送、触媒層内拡散による影響ならびにOSC触媒による酸素吸蔵能を考慮したTWCモデリング、またSGB(Synthetics Gas Bench)装置を活用した低温域における現象解明が挙げられる。
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