アブストラクト
内閣府SIP「革新的燃焼技術」(2014~2018年度)(1)での取り組み成果の一つとして、二成分混合燃料(ガソリン系燃料と軽油系燃料の混合燃料:ML0.8と表記)を用いて、早期蒸発の高分散・高エントレインメント噴霧形成によるコンパクトな噴霧火炎を燃焼室内に実現し、単気筒実機関で高負荷条件において熱勘定より0.9%の冷却損失の低減と熱効率向上を実現した(2)~(4)。この手法は低沸点燃料の混合による蒸発率速度の上昇と二燃料の着火・燃焼率の違いによる燃焼制御を目的としているが、量産されている実機関への適用性を考慮し、軽油を使用することを前提に噴孔形状の変更によるコンパクト噴霧火炎で冷却損失低減を目指した(5)~(6)。本稿では、その結果の一部を紹介する。
軽油燃料でのコンパクト噴霧火炎による熱効率向上への挑戦
噴孔形状変更による均質なコンパクト噴霧の実現ML0.8の早期蒸発効果により得られたコンパクトかつ均質な噴霧を模擬するため、噴霧分散性の向上によるコンパクト化を狙い、標準ノズル(STD)よりもノズル噴孔長を短くし小l/d仕様とするため噴孔出口に座繰りを追加した座繰り噴孔ノズル(With Step)を検討し噴霧角を計測した。さらに、定容容器内の高温雰囲気場で燃料噴霧にレーザ誘起蛍光法(LIF)とエキサイプレックス蛍光法(LIEF)を用いて混合燃料(ML0.8)中のノルマルペンタン(LIEF:液相と気相の双方)とデカン、軽油燃料を擬似したノルマルトリデカンの濃度分布を計測した(図1)。 この結果より、With Stepの噴霧角はML0.8と同程度に増大したが、均質性の指標となる噴霧中心部の過濃領域はSTDより低減できたもののML0.8に及ばなかった。
単気筒エンジン実験における熱効率向上の実証SIP単気筒ディーセル機関の高負荷基準条件において、STDとWith Stepのノズルを用いて燃焼実験を行った(図2)。With Stepは燃焼初期においてSTDと比較し、熱発生率の傾きが急峻ではないが、燃焼後期では燃焼終了時期が早期化した。With Stepの低貫徹力かつ高分散なコンパクト噴霧火炎により噴霧火炎と噴霧外縁部の空気との燃焼反応面積が増大したことで拡散燃焼率が増加し、後燃え期間中(噴射終了時期以降)の燃焼が活発であったと考えられる。熱勘定の比較では、With Stepにおいて、冷却損失が0.1ポイント、排気損失が0.8ポイント低減し図示熱効率が0.9ポイント上昇する結果となった。詳細は別稿を御参照頂きたい(6)。
噴霧性状と燃焼火炎の可視化RCEM装置を用いた燃焼火炎の可視化を行った。STDとWith Stepのノズルを用いてOHラジカル発光強度の時間的変化を光学的に測定した(動画1)。動画の後半には撮影画像より解析したOHラジカルの平均輝度値のクランク角度履歴を示している。動画から、With StepはSTDと比較しOHラジカルの発光輝度が大きく、特に燃焼後半での輝度の差が大きいことが確認できる。これらの結果から、With Stepはコンパクト噴霧による火炎帯の増大と噴霧内当量比の均一化により燃焼が活発となり、燃焼後期の急速燃焼を実現することが明らかとなった。
Movie.1 OH radical images
With Stepノズルでの熱効率向上の効果を噴霧形状の視点から検証するため、手荒い方法ではあるが、容器実験で撮影した噴霧画像から最大噴霧幅を噴霧先端到達距離で除したWmax/X(Wmax:最大噴霧幅、X:噴霧先端到達距離)と図示熱効率との関係をまとめた(図3)。Wmax/Xはコンパクト噴霧の指標であり、値が大きいほどコンパクト噴霧であることを示している。噴霧のコンパクト化に伴い熱効率が向上しており、With Stepノズルは有効な手段であると考えられるがML0.8の噴霧コンパクト化と熱効率向上に至らなかった。これは、LIF画像で確認されたML0.8の高い蒸発性と噴霧内濃度の過濃領域抑制(噴霧内当量比の均一化)による燃焼後期の燃焼期間の短縮が大きく影響していると考えられ、燃料性状の違いによる効果であると考えられる。
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