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Vol.13 No.6

ツインタンブルによるリーンバーンガソリン燃焼の希薄限界拡大
Extension of Lean Limit of Gasoline Engine by Using Twin-Tumble Flow
森吉 泰生、窪山 達也、金子 誠
Yasuo MORIYOSHI, Tatsuya KUBOYAMA, Makoto KANEKO
千葉大学大学院
Chiba University
アブストラクト

 火花点火ガソリンエンジンの熱効率向上技術として、冷却損失の低減や比熱比の増大をもたらすリーンバーンが古くから注目されている(1)。リーンバーンの課題として、燃焼速度の低下と燃焼のサイクル変動が生じて燃焼安定性が低下し、リーン限界が制限されて熱効率向上につながらないことが挙げられる(2)。著者らのこれまでの研究から、リーン下におけるサイクル変動の主要因のひとつとして、燃焼初期の熱発生パターンが同じでも後半の熱発生がバルククエンチ(シリンダ内全域での失火)により変動してしまうことが明らかになった(3)。そこで、本研究では、このバルククエンチを低減させるためにタンブル流を利用した混合気の縦方向弱成層燃焼に着目し、排気性能を損なうことなく、リーン限界の拡大および熱効率の向上を目的としている。

混合気の縦方向弱成層燃焼によるリーン限界拡大
縦方向弱成層燃焼コンセプト

 成層化によるサイクル変動抑制のコンセプトを簡単に説明する。図1に燃焼容器内での2種類の混合気成層状態の様子を示す。通常の成層化燃焼は同図(a)のように、点火プラグ付近がリッチになるように火炎伝播方向と直交して成層化しており、燃焼初期においては安定した球状の火炎面となるが、燃焼後半に火炎がリーン領域に入るとバルククエンチが生じてしまう場合がある。それに対し、本研究で施す縦方向弱成層化燃焼は同図(b)のように、火炎伝播方向と平行に縦方向に燃料が濃い領域と薄い領域を作り燃焼させる。燃料が濃い領域の方が、燃料が薄い領域よりも燃えやすく火炎伝播速度も大きい。燃料が薄い領域は火炎伝播速度が小さく部分的な失火が起きやすい。しかし、燃料が濃い領域の既燃ガスが、燃料が薄い領域の火炎面を押すことで火炎はほぼ左右対称に広がる。薄い領域で部分的に失火しても、リッチ側から火炎が回り込み燃焼が継続される(4)。この縦方向弱成層化燃焼を施すことで、燃焼後半のバルククエンチを抑制することを狙っている。

縦方向弱成層燃焼の実現手法

 縦方向弱成層化を実現させるためにPFIインジェクタの中心軸を境に噴口が6個ずつあり、片側ふたつの噴口を閉じることで、ふたつの吸気バルブそれぞれに6:4の割合で燃料が噴かれるインジェクタ(以下6:4インジェクタ)を使用した。図2に筒内流動の様子を示す。2本の吸気ポートに挿入されたタンブル生成ノズルにより、筒内にはふたつの高タンブル流れが生じている。このふたつのタンブル流それぞれに、噴口6個分と4個分の燃料噴射を行うことで縦方向弱成層燃焼を実現した。

性能試験結果

 図3に空気過剰率に対するIMEPの変動率および図示熱効率の関係を示す。プロットは全気筒・全500サイクルの平均値で、各空気過剰率における最大IMEP点(ノック限界点またはMBT)である。同図より、6:4インジェクタの方がリーン限界が拡大し、図示熱効率は最大値同士を比較して0.3point向上できることが分かる。

排ガス性能

 図4に各空気過剰率における最大IMEP点(ノック限界点またはMBT)を抽出し、空気過剰率に対する排ガス濃度の結果を示す。排ガスは排気マニホールドの各気筒排気管の合流部よりサンプルしたデータである。同図(a)より、空気過剰率1.65~1.85の領域では、通常インジェクタに比べて6:4インジェクタは、NOxを2倍程排出していることが分かるが、リーン限界同士で比較をすればNOx排出量に大きな差は無い。

まとめ

 本研究では、4気筒ガソリンエンジンを用いて、6:4インジェクタによる縦方向の混合気弱成層リーン燃焼を実施し、燃焼後半の変動低減効果を解析した。以下に、得られた知見を示す。
(1) 6:4インジェクタによる縦方向の混合気弱成層化により、燃焼後半でのバルククエンチが抑制されてリーン限界が拡大し、熱効率が向上する。
(2) 縦方向の混合気成層化により、リーン条件において、均一燃焼よりも燃焼効率を高く保つことができると共に熱効率が改善される。
(3) NOxに関し、均一燃焼と縦方向の混合気成層燃焼を同一空気過剰率で比較すると、縦方向の混合気成層燃焼の方が多く排出されるが、リーン限界同士で比較をするとほとんど同じである。

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【参考文献】
(1)Ayala, F. and Heywood, J., SAE Technical Paper 2007-24-0030, 2007.
(2)Brequigny, P., Halter, F., Mounaïm-Rousselle, C., Moreau, B. et al., SAE Technical Paper 2014-01-2630, 2014.
(3)森吉 泰生、窪山 達也、楯村 俊希、金子 誠、山田 敏生、自技会2017年春季大会学術講演会予稿集NO.328(2017)pp.1817-1822
(4)Moriyoshi, Y.、Morikawa, H., Kamimoto, T., and Hayashi, T., SAE Technical Paper 962087, 1996.