TOP > バックナンバー > Vol.13 No.8 > 新型3.3Lディーゼルエンジンの開発 ~燃焼の理想追求と大排気量直列6気筒による提供価値の向上~
マツダでは、2050年までのカーボンニュートラル化を目指し、電動化に加え、再生可能燃料を組み合わせたCO2削減の選択肢として内燃機関の効率改善を進めている。その一つの答えとして新世代クリーンディーゼルエンジンSKYACTIV-D 3.3 を開発した。2段エッグ燃焼室を用いたDCPCI燃焼(Distribution Controlled partially Premixed Compression Ignition:空間制御予混合燃焼)を中心とした技術で、量産エンジン世界トップクラスの実用域の熱効率および排気クリーン化を達成した。本稿では、開発のコンセプトならびに主要な技術について紹介する。
図2にマツダの内燃機関の熱効率改善のロードマップを示す。内燃機関の熱効率は七つの制御因子により決定される。各因子が理想化された状態をゴールとし、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンそれぞれ理想に向けた熱効率改善に取り組んでいる。SKYACTIV-D 3.3では第2世代のディーゼルエンジンとして、DCPCI燃焼、大排気量化、機械抵抗低減技術により特に燃焼期間・時期、比熱比、機械抵抗を大きく改善し第1世代から更に理想に近づけた。実用域の燃料消費率は競合を凌駕する世界トップレベルを達成した。また、排気エミッションにおいても、従来機種よりもNOx排出量を低減し、国内のReal Driving Emissions規制に対して余裕のあるレベルの排気性能を実現した。
大排気量化による環境性能と燃費性能の両立燃費、排気の機能強化の実現手段として排気量を4気筒2.2Lから6気筒3.3Lに拡大した(図3、4)。大排気量化のポイントは、同一トルクを出すための平均有効圧が低下することである。これにより、ミッドサイズSUV車両を力強く走らせるトルクを実現しつつ、高トルク域でEGRを用いることが可能となりNOxを大幅に低減できた。また、後述のDCPCI燃焼の適用上限負荷も、大排気量化によって高トルク側へ拡大でき、WLTCモードのような広い実用負荷をカバーできる300Nm程度まで特に効率の良い燃焼を実現している。大排気量化は一般的に機械抵抗を増加させるが、後述のスチールピストン採用などの構造系技術の進化により従来機種同等以下の機械抵抗を実現している。
DCPCI燃焼図5に新たに開発した 2 段エッグ燃焼室を用いたDCPCI燃焼コンセプトを示す。先に噴射された燃料噴霧を2段エッグ燃焼室の上下空間に分割配置させ、前段噴霧の既燃ガスと後段噴霧との干渉を抑えることで、後段噴霧があらかじめ混合した状態で着火・燃焼することを狙いとしている。動画に噴霧燃焼のCFD解析結果を示す。従来燃焼は時間的に燃料噴射を分割して噴霧干渉とスモークの増加を抑制していたが、DCPCI燃焼ではピストンの上死点付近で短時間に燃料噴射した場合でも噴霧干渉を抑制し、各噴射段が十分に空気と混ざってから燃焼する予混合燃焼を実現した。この結果、燃焼時期と期間、燃焼のリーン化による比熱比を改善した。
Movie.1 燃焼解析結果
SKYACTIV-D 3.3では機械抵抗低減のためにスチールピストンと油圧最適制御を採用した。アルミとスチールの線膨張係数の違いにより、暖機後のピストンとシリンダライナのクリアランスを最適化し、高強度化による小型スカートの採用により機械抵抗を低減した。また、スチールの低い熱伝導率によって燃焼室表面温度を上昇させて燃焼を改善した。ピストン測温によって燃焼室表面温度の変化を計測し、温度特性をモデル化した(図6)。そのモデルを用いてピストン冷却に必要な油量を算出し、可変容量オイルポンプおよびオイルジェット仕様を決定した(図7)。ピストン温度に応じて供給油量を油圧で制御して燃費性能と温度信頼性を両立した。また振動の少ない直列6気筒構造を採用することでバランスシャフトを廃止した。これらの技術によって大幅に機械抵抗を低減した。(図8)
新世代クリーンディーゼルエンジンSKYACTIV-D 3.3は、DCPCI燃焼、大排気量、機械抵抗低減技術などで、実用域における世界トップレベルの燃費率と高い環境性能を実現した。また、本エンジンは、高熱効率のみならず、再生可能燃料として期待されているHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化植物油)を特別な部品改修をせずにドロップインで使用することを想定した開発を実施した。今後、高熱効率と再生可能燃料の相乗効果でさらなるWell to WheelのCO2削減効果も期待できる。将来展望として、ディーゼルエンジンの理想化へのロードマップで大きく改善が必要なのは壁面熱伝達の抑制であり、改善技術を開発中である。さらなる熱効率の進化をご期待頂きたい。
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