TOP > バックナンバー > Vol.13 No.9 > 電動車両関係
電動車両関連のテーマは前回より大幅に減少したが、実際の製品を意識した細密なテーマも散見され、対象範囲、深さとも拡大している。ここでは、市販EVの開発競争からは少し離れた興味深いテーマの選択を試みた。
2000年ごろのFCV開発の初期段階では、水素ステーションを含めたFCVの運用の難しさとFCVの特性から、長距離輸送の大型車からの普及が有望視されていたが、実際の普及は普通乗用車に限られている。FCの特性から、現実には二次電池を搭載したFCHEVの形態が必須であるが、大型車の場合、長坂路の走破には大容量の電池が必要なこと、走行抵抗が大きいため回生の効果が小さいことから、HEVの効果が限定的であることなどがネックの一つになっている。鉄道車両でも気動車でカバーしている非電化区間も走行出来るFC-電池ハイブリッド車が期待されているが、重量が更に大きく、走破すべき坂路の長さの点でも難度が高い。
米山ら(1)は、試作したFCハイブリッド試験電車(図1)の概要を紹介し、システム構成の設定とその制御方法の難しさを述べ、このためのツールとして開発した走行エネルギーのシミュレータについて述べた。システムは、通常の電車の駆動系(DC1500V入力のインバータとモータ)の入力部分に充電/放電可能なパワーコンバータ経由でFC-HVシステムが接続されている構成(図2)である。HVシステムは、3ユニットの600V Liイオン電池(540kW,45.3kWh)の二次電池と、2並列の”DC 300VのFC(一次電池)と昇圧DC-DC”からなるハイブリッド電池で、寿命の観点からLiイオン電池の過放電/過充電を避ける制御が必須である。また、FCも効率と寿命の双方に配慮した出力制御が必須である。
自動車と異なり、鉄道車両は決められたルートを計画されたスケジュールで走行するので、必要な出力パターンは既知であるが、二次電池の初期値を含めて調整可能なパラメータが多いため制御基準を含めて、運用の可否を検討することが難しい。そこで、走行時のエネルギーフローを演算できる走行エネルギーシミュレータを作成し、鉄道用CHDYや短距離の試験線路での試験車両の試験による限定された条件下でシミュレータの妥当性を確認している。
最終的には、実機での確認試験が不能な実際の運用状態でのエネルギーフローをこのシミュレータで確認することで、運用が可能なシステム構成と制御方法を求めることを目的としている。二次電池の初期値の影響についてのシミュレーション例を図3に示す。
ユーザーの実使用状態での燃費や排ガスを規制対象にしようとする動きが盛んであるが、使用環境が様々であることもあって、定量的な比較評価が難しい点が車両側の対策をする上でも課題となっている。
生嶌ら(2)は、実路走行時のOBD情報とGPS情報から得られたデータ(表1参照)を用いて、WLTCなどの評価サイクル(基準走行サイクルと呼ぶ)を走行した際の電費を推測する手法を提案した。図4は、走行速度と加速度のリサージュで、黒線はWLTC試験時、緑線は実路走行時(加速度は道路勾配分を補正)で、後者のカバーする範囲が大幅に広いことがわかる。
手法は、まず、実走行時の時系列データから、定時毎の負荷状態を、リサージュグラフを等間隔に切った各メッシュ枠に分類し、その負荷条件での消費電力データの平均値を求める方法で、実路走行、CHDY上走行毎に、負荷状態によって消費される電力のマップを作成する。基準走行サイクルを走行時の消費電力量は、各時刻の加速度、速度値に対応するメッシュの消費電力を積算して求めるもので、実路のリサージュからの消費電力マップを利用すれば、実路での使用状態で基準走行サイクルを走行した際の消費電力量が求まる。図5に示すように、この推測による消費電力はCHDY上での試験結果とほぼ一致しており、この方法の妥当性が確保できたとしている。
また、この方法で、乗車人数とエアコンのON/OFFの影響を、これらの条件のみを変えた実路走行データから求めている(表2参照)。
ユーザーが実際に使用する際には、負荷そのものが緑線のようになることによって生じるカタログ値との乖離が問題であるので、本方法は乖離そのものの評価等にはつながらないものと考えられるが、正規化の一つの指標としての利用を期待したい。
e-Axle(モータと減速/変速機を一体にしたもの)の冷却・潤滑油は、e-Axleの性能を左右する重要な要素であるが、様々なe-Axleが開発されてきたこともあって、個別に検討されてきた。
柳原ら(3)は、EV向けの冷却・潤滑油についての系統的な検討がなされていないとして、この検討の第一弾として、潤滑油の動粘度と熱伝導度が与える影響を、モータ上部にオイルポンプで配管から油滴を滴下する形式のeAxleのベンチ試験で検討した結果を紹介した。試験は市場で用いられている潤滑油2サンプルとこれを参考に調整された3レベルの試験油(添加物を含まない)で実施した。
定トルク、定速度での暖機運転によって、モータ温度が85℃に達した段階を初期値として試験を開始している。WLTCモードを走行した際の効率は、e-Axleの入力電力と車軸の出力比(図6)を、トルクと回転数を順次変更して求めることでe-Axleの効率マップ(例を図7に示す)を作成し、このマップを用いてWLTCモード走行での値を計算で求めている。潤滑油温度25℃、40℃、60℃での試験で、効率は動粘度が低いほど、熱伝導率が高いほど良好となる傾向があり、動粘度寄与度、熱伝導率寄与度ともその線形回帰式の係数は3温度で近い値となっている。動粘度の効率への寄与度の例を図8に示す。回帰式は3温度でほぼ等しいことが判る。
また、冷却性は、暖機運転完了後、2倍のモータトルク付与と冷却を開始し、冷却油温度が120℃に達するまでの時間で評価している。この時間も、効率と同様の傾向があることを示した。
今後は、添加物の影響を含め、潤滑性能等も加味した検討を行いたいとしている。
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