TOP > バックナンバー > Vol.14 No.2 > エンジンにおける燃焼起因振動の予測精度向上に向けた試み
エンジン熱効率向上時の背反となる燃焼起因振動・放射騒音について、高精度で予測可能なシミュレーションモデルの構築を目指し、エンジンの3Dシミュレーションを用いてパーツ内部減衰比の感度解析を行った。その結果、予測精度向上に重要となる2.5kHz帯振動にコンロッドの減衰比が大きく影響することが確認できた。また、内部伝達系全パーツにハンマリングによる単体加振実験から算出した減衰比を実装することで、これまで低かった高周波振動の予測精度が大きく向上することを確認した。
エンジンのマルチボディダイナミクス解析には3DシミュレーションソフトEXCITE Power Unit(AVL)を用いた。図1に実験に用いた単気筒ディーゼルエンジンに対するシミュレーションモデルを示す(1)。主軸受、コンロッド大端部およびピストン―ライナ間には弾性流体潤滑(EHD)ジョイントを使用し、コンロッド小端部周りには非線形ばねによるREVOジョイントまたはEHDジョイントを用いた(2)。筒内圧力には実験によって得られた実験値を用いた。
シミュレーションによる予測(デフォルトの減衰比の場合)図2に主軸受近傍外壁面における振動加速度のシミュレーション結果を、コンロッド小端部周りにREVOジョイントを用いた場合、EHDジョイントを用いた場合について実験値と比較して示す(2)。なおここでは、各パーツに与えるレーリー減衰比にはデフォルト値を用いている。図2より、REVOジョイントからEHDジョイントに変更することで、1kHz以下の周波数域においてシミュレーション結果はより実験値に近い値となっている。また、1kHz付近および2kHz付近におけるピークも良く再現できている。ただし、最も大きい加速度を示すピストン-コンロッド連成振動数(1)の2.5kHz付近においては、依然として実験値との差が大きいことがわかる。
内部伝達系パーツの減衰比に関する感度解析図3に主軸受近傍外壁面振動加速度の各パーツのレーリー減衰に関する感度解析の結果を、コンロッド小端部周りにREVOジョイントを用いた場合とEHDジョイントを用いた場合を比較して示す(2)。これより、コンロッド小端部周りにEHDジョイントを用いた場合にコンロッドの減衰比をデフォルト値の1/10と低下させることで、図2では見られなかったピストン-コンロッド連成振動数(1)である2.5kHz付近のピークが顕在化することがわかる。1kHzや2kHz弱の周波数においてはクランク軸の減衰比についてのみ感度が見られることから、これらの振動はクランク軸に関連した振動モードと考えられる。
パーツ単体加振による減衰比を用いた予測精度の向上図4にすべての内部伝達系パーツの減衰比にハンマリングによる単体加振実験から算出した値を用いたときの主軸受近傍エンジン外表面振動スペクトルをデフォルトの減衰比を用いた場合および実験値と比較して示す(3)。コンロッド小端部周りにはEHDジョイントを用いた。単体加振実験から算出した減衰比はデフォルトの減衰比の1/100程度の値である。この図より、すべての内部伝達系パーツの減衰比に単体加振実験から算出した値を用いた場合、2.5 kHz周辺の振動の予測精度がさらに向上することがわかる。コンロッドの減衰比のみを変更した際には大きな変化のなかった1 kHzや2 kHz周辺の振動加速度も増加しているものの、シミュレーションにおいて高周波の予測精度を向上させるには、すべての内部伝達系パーツの減衰比に単体加振実験から算出した値を用いる方法が有益であると言える。
エンジン熱効率向上時の背反となる燃焼起因振動について、3Dシミュレーションを用いた予測の精度向上の試みを紹介した。特にシミュレーションにおいて設定する減衰比に注目し、内部伝達系各パーツの減衰比をハンマリングによる単体加振実験により得られた減衰比を実装することで、高周波振動の予測精度が大きく向上することを示した。本報告ではディーゼルエンジンを用いたが、ガソリンエンジンにおいても等容度を高めて高効率化を行う場合には、同様に燃焼起因振動・放射騒音が過大となることが考えられる。エンジン設計の早い段階で精度高く燃焼起因振動・放射騒音の予測を行うことは、今後さらに重要度を増すと考えられる。
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