TOP > バックナンバー > Vol.14 No.4 > 小型ORCに用いるバンケル型ポンプの提案
近年の自動車業界は急速なCN化が進められているが、廃熱に関してはエンジンの投入エネルギーの大半を占めるにもかかわらず、そのほとんどは回収されていないのが現状である。そのため、我々は自動車の内燃機関の廃熱回収の手段として有機ランキンサイクル技術の開発を行っている。ランキンサイクルとは発電所などに用いられる熱サイクルであり、膨張器、加圧ポンプと複数の熱交換器からなる。また、冷媒として高分子有機媒体を使用するものを有機ランキンサイクルと呼ぶ。本研究は市販車への車載が容易となるように配管等を極限まで減らし各コンポーネントを一体化、小型化した有機ランキンサイクル発電機を開発している。また、本報では本サイクルに用いるポンプにおいて着目し、その概要を紹介する。
構想しているランキンサイクルの概念図を下図に示す。Cabinet2にはポンプ、タービン、凝縮器がある。蒸発器および過熱器はCabinet1に設置されており、冷却水、排気を熱源とし、それぞれ冷媒の蒸発、過熱を行う。作動流体には1336mzz(Z)を想定している。発電機とポンプ、膨張器は構造の小型化のために直結しており、両者の間に凝縮機が設けられている。機械的なコンポーネントを冷却側に集中的に配置させることにより構造の単純化や発電機等の熱的影響からの保護が可能となる。ポンプは通常のランキンサイクルと同様、凝縮器によって液化した飽和液を圧力の高い蒸発器内に送り込む必要がある。
ポンプの選定対冷媒にはピストン式のポンプがよく用いられるが、本サイクルでは小型化のためより単純な回転式の内転歯車ポンプを使用することを想定していた。しかし、極低粘度の冷媒を作動流体として用いる場合逆流による性能への影響は非常に大きく、またオイルによる潤滑にも制約が大きい。また、逆流量は回転数によらず圧力に大きく依存するため、回転数を上げればその影響は小さくなるが、凝縮器の直後の圧力はほぼ蒸気圧であるため、オイルポンプなどと比べポンプ内での吸い込み速度が速い場合は容易にキャビテーションを発生させ空回りや振動、損傷の原因となりうる。
バンケル型ポンプ新たに冷媒輸送用のポンプとしてバンケル型ポンプを設計した。ロータリーエンジンと同様の構造をした容積型ポンプであり、トロコイド曲線によって描かれたハウジングの内部を三角形のロータおよびその偏心軸が回転することにより液体を輸送する。吐出口及び吸入口は2対あり、それぞれが独立して動作を行う。試作ではハウジングをアルミニウム、ロータを自己潤滑性樹脂POMを用いることによりオイルレスでの使用を可能としている。また、キャビテーションの発生を内転歯車ポンプに比べ抑制できることが期待される。
Movie.1 ポンプの動作
容積型ポンプにおいて、キャビテーションの発生のし易さは容積の変化率と流入口の面積から求められる流入速度によって決まる。流入速度が増加すれば圧力が低下し、蒸気圧を下回るとポンプ内部流体の気化(キャビテーション)が起こりポンプの損傷や性能低下の原因となる。バンケル型ポンプでは流入口を大きくとることで、図3に示す通り全体的に流速が内転歯車ポンプより抑えられている。また、本ポンプは吐出が完了した段階で完全に容積が0にはならず、吐出口側の高圧部の流体の一部が次の吸入工程に送られる。即ち、次の吸入工程が始まる序盤は吸入口の圧力が高い状態から始まるため、流入開始時の圧力低下をより抑えることができる。
本報では乗用車の廃熱回収用小型ORCランキンサイクル用に用いる冷媒輸送ポンプとして、バンケル型ロータリーエンジンと同様の構造を持つバンケル型ポンプを提案した。本ポンプは既存のポンプに比べ単純で小型でありながらキャビテーションの抑制が可能であり、蒸気圧の低い液体であっても高い性能が期待できる。現在、試作を行っているが、試作品の精度等に課題があり、冷媒の試験においてよい結果を得ることが出来てはいない。冷媒を用いた試験で実際の挙動の解析を行なっていく。
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