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Vol.14 No.4

ディーゼル噴霧火炎の干渉領域におけるすすの特性
Soot Characteristics in a Jet-jet Interaction Region of Diesel Spray Flames
川那辺 洋、堀部 直人、林 潤、井上 大地
Hiroshi KAWANABE, Naoto HORIBE, Jun HAYASHI, Daichi INOUE
京都大学
Kyoto University

アブストラクト

 ディーゼル機関の熱効率向上には燃焼期間の短縮が有効である。このために、噴孔数を増加するなどの手法が考えられるが、この場合、隣接噴霧間隔が小さくなって各噴霧が利用できる空気量が減少し、すすの酸化が阻害されることが指摘されている。そこで本研究では、このようなすすの挙動を明らかにすることを目的として、ディーゼル噴霧火炎同士が互いに干渉する領域におけるすすの空間分布を検討する。ここでは、噴霧火炎が干渉する領域を含めてレーザ誘起赤熱法と散乱光計測を同時適用することで、すす濃度および粒径のクランク角経過を定性的に求める。

はじめに

 ディーゼルエンジンにおけるノズルの多孔化は隣接噴霧間隔が減少するために、壁面に衝突して噴霧火炎が巻き上がる際に図1に示すように隣接した噴霧火炎の既燃部をエントレインする。このために火炎内部での当量比が高くなってすすが酸化されずに排出される可能性がある。本研究ではこのような過程におけるすす性状を検討することを目的として、レーザ誘起赤熱法(Laser Induced Incandescence; LII)と散乱光計測(Laser Scattering; LS)を同時適用し、すす濃度および粒径分布を求める(1)。対象としたのは急速圧縮膨張装置(Rapid Compression and Expansion Machine; RCEM)においてヘッド側に形成した燃焼室に2噴孔インジェクタから燃料を噴射した際に形成される噴霧火炎として、互いに干渉する領域を含めて計測を実施する。また、噴射条件および雰囲気酸素濃度がすす生成特性におよぼす影響を調べる。

実験装置・方法

 ここでは、筒内を光学計測するためにヘッド側にディーゼルエンジンのピストンボウル部を模した燃焼室を設置したRCEMを用いる。装置の概略と燃焼室の形状を図2に示す。ボア85 mmであり、行程容積は0.55 L、圧縮比は14.6である。RCEMのシリンダヘッドにはトロイダル燃焼室の片側を模擬した形状の燃焼室を通常とは上下反対向きに設置している。燃焼室の側面およびピストントップにガラス窓を取り付けることで、側方および下方から可視化できる。実験では吸気の酸素分率を15%とし、燃料は(b)に示すように噴孔径0.133mmの2噴孔ノズルから噴射圧力150MPaで-2.9ºATDCのタイミングで噴射する。可視化については図2の緑色で示す領域に対してLIIとLSを適用する(2)。励起光にはNd:YAGレーザ(LOTIS TII製、LS-2137MH)の第二高調波(532 nm)を用いる。レーザシートは2本の噴霧軸を含む平面(断面A)およびその6 mm上方(断面B)に入射する。

すすの特性量の算出

 LIIとLSにより可視化された画像に基づき、相対すす濃度、相対すす粒径、相対すす数密度の2次元断面分布を以下の関係により算出する。
相対すす濃度 fv ∝ ILII
相対すす粒径 D ∝ (ILS/ILII)1/3
相対すす数密度 N ∝ ILII2/ILS
 ここで、ILII、ILSはそれぞれLII信号強度とLS信号強度である。実際のすす粒子は一次粒子が凝集した複雑な形状をとるが、ここではLII信号から得られるすす粒径と、散乱光理論から得られるすす粒径を等しいと仮定している。

可視化画像とすす特性量分布

 はじめに、高速度カメラを用いて輝炎発光の時間変化を捉える。動画1はその結果であり、図中の一点鎖線は噴霧中心軸を表している。3ºATDCくらいから対向壁面近傍で発光が観察され、とくに噴霧間の領域で比較的明るい部分が存在している。次にすす粒子特性量の分布を図3に断面B(上段)と断面A(下段)において得られたすす濃度(a),粒径(b)およびすす数密度(c)をそれぞれ擬似カラーで表す。8°ATDCにおいて断面Aでは両噴霧軸の衝突壁面付近にすすの存在が認められる。一方、断面Bでは噴霧軸間にすす濃度の高い領域が見られる。このすす濃度が高い領域は噴霧同士が干渉し、輝炎がくぼみの天井に沿ってノズルの方に移動する領域と一致する。また、すす粒径はいずれの位置においても大きな違いはなく、すす濃度の高い領域ではすす数密度が高い。8°ATDCおよび12°ATDCとクランク角度が進むと、いずれの断面でもすす濃度が低下するが、噴霧干渉が起こったと考えられる噴霧軸間にはすす濃度の高い領域が長く残った。噴霧干渉領域では隣接する噴霧火炎の影響で空気との混合が進みにくく、酸化が抑制されるために濃度の高い領域が広範囲に計測されたと考えられる。クランク角度が変わってもすす粒径に大きな変化はなく、すす濃度の低下はすす数密度の低下によることがわかる。これは、ピストン下降に伴う膨張により計測面における密度低下によるものと考えられる。

movie. 1 高速度直接撮影による可視化

まとめ

 隣接するディーゼル噴霧火炎同士が干渉する領域におけるすす分布挙動を明らかにするために、RCEMにおいて2噴孔インジェクタから噴射した壁面衝突噴霧火炎にLIIとLSを同時適用し、すす特性量の二次元分布を計測した。その結果、噴霧火炎干渉領域では空気導入が阻害されるために多くのすすが存在し、長く残り続ける。特に、火炎先端で多くのすすが生成されること、噴霧火炎干渉領域における噴霧火炎は火炎温度が低く、すすの生成や成長が停止するために、すす粒径は位置や時間に依らずすす濃度の高い領域ですす数密度は高くなることなどが明らかになった。なお、この成果は、自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて実施した助成事業(JPNP21014)の結果得られたものである。

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【参考文献】
(1)小酒 英範:レーザー誘起赤熱・散乱光法による非定常噴霧火炎内のすす生成と酸化に関する研究, 日本機械学会論文集(B編)、Vol.61、No.590、p.28-33 (1995).
(2) 林 潤:二次元レーザー誘起赤熱法の適用、日本燃焼学会誌、Vol.63、No.204、p.151-158 (2021).