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Vol.14 No.4

低温排気環境下における尿素からのアンモニア生成モデル構築
Construction of the model of ammonia formation from urea on the SCR catalyst under low temperature conditions
土橋 聖槻、田中 光太郎
Ibuki DOBASHI, Kotaro TANAKA
茨城大学
Ibaraki University

アブストラクト

 二酸化炭素の排出量を削減する高効率ディーゼルエンジンでは、排気温度の低温化が見込まれるため,排気温度がより低い領域から窒素酸化物(NOx)を浄化するシステムが求められる。ディーゼルエンジンのNOx浄化システムとして尿素選択還元(SCR)触媒が用いられてきたが、低温排気環境下におけるNOx浄化率を改善していくため、NOxを還元するSCR反応の促進とともに尿素からのアンモニア生成も促進する必要がある。そこで、本研究では、低温排気環境下の尿素からのアンモニア生成を促進する手法を提案することを最終目的とし、本記事では、その手法検討に活用可能な尿素からのアンモニア生成モデルの構築について述べる。

尿素からのアンモニア生成モデル構築に必要な反応速度定数の取得とモデル化 研究背景と目的

 ディーゼルエンジンの窒素酸化物(NOx)浄化に用いられてきた尿素選択還元(SCR)触媒では、還元剤であるアンモニアを、尿素を分解して生成している。その過程は以下の二つの反応式で表現される。(1)

(R1) (R1)
(R2) (R2)

 今後、二酸化炭素の排出削減に向けディーゼルエンジンの高効率化が進むと、排気温度は今よりも低温化することから、尿素からのアンモニア生成についても、より低温で実施していくことが求められる。この研究では、できるだけ低温排気環境下でも尿素からのアンモニア生成を促進させる手法を提案することを最終目的とし、その検討に向けて、尿素からのアンモニア生成モデルを構築した。茨城大学では、モデル構築に必要な反応式(R2)の反応速度定数を取得し(2)、産総研で取得した反応式(R1)の反応速度定数と組み合わせ(3)、尿素からのアンモニア生成モデルを構築した。

実験装置と方法

 イソシアン酸(HNCO)の加水分解反応R2の反応速度を取得するため。図1に示す実験装置を用いた。実験に使用した各ガスはガスボンベから供給し、マスフローコントローラを用いて流量を制御した。H2Oはシリンジポンプによって気化器へ供給し、HNCOはN2でバブリングすることで供給した。なお、HNCOはシアヌル酸から合成し、恒温槽を用いて-72 ℃に冷却して液体として保存しているものを用いた。供給されたモデルガスをバイパスラインに流通させることにより未反応の触媒入口ガス濃度をFTIRにより計測した。また(1)、反応ラインに流通させることで反応後の触媒出口ガス濃度を同様の手法で計測した。  HNCOの加水分解反応においては、生成したNH3が触媒上に吸着し、HNCO加水分解反応に影響を及ぼすことから、NH3の影響を考慮可能なLangmuir-Hinshelwood型速度式(1)を用いて反応速度を表現した。反応速度定数および吸着平衡定数は、式(2)により算出した実測の反応速度に対しLangmuir-Hinshelwood型速度式をフィットすることで導出した。実験条件は実機の排気を参考に、表1に示すガス濃度で実施した。O2は10%固定とし、総流量は400 cc/minで実験を行った。触媒は銅でイオン交換されたCu-CHA型ゼオライトの粉末触媒を用いた。Si/Al比は12.4でイオン交換率は80%、Cu担持量はCuO換算で3.2wt.%のものを使用した。

式(1) 式(1)
式(2) 式(2)
反応速度定数の取得結果

 HNCOの加水分解反応の反応速度を90℃で取得した結果を一例として図2に示す。この反応の反応速度は、触媒上に吸着するNH3の濃度の影響を受けると考えられることから、NH3濃度を変化させた場合の実験を実施し、その結果を図2(a)に示している。さらに、反応物であるH2OとHNCOの濃度に反応速度は依存することから、それらの濃度を変化させた場合の実験を実施し、その結果を図2(b)に示す。ここで取得した反応速度に対し、Langmuir-Hinshelwood型速度式(1)を用いてフィッティングを行うことで、反応速度定数および吸着平衡定数を導出した。結果を図3に、得られた反応速度定数と吸着平衡定数のアレニウス式をそれぞれ式(3)および(4)に示す。得られたアレニウスプロットから、反応速度定数および吸着平衡定数の活性化エネルギーと頻度因子を決定した。

式(3) 式(3)
式(4) 式(4)
尿素からのアンモニア生成モデルの構築

 産総研で取得された尿素分解速度定数(3)とHNCOの加水分解反応の反応速度定数を用いて尿素からのアンモニア生成モデルを構築した。産総研の尿素分解反応実験から、尿素はラングミュア型の分子吸着層が飽和吸着した後も、吸着容量を超えて2層目以上を形成するというモデルが提案され、それと連成させることにより尿素からのアンモニア生成モデルを構築した。モデルの検証データとして、産総研で実施された。尿素を触媒に吸着後TPR実験を行った結果を用い、モデルを検証した、結果の一例を図4に示す。尿素が分解して生成したCO2の濃度プロファイルを示しているが、計算結果は概ね実験結果を再現した。得られたモデルにより、100 ~ 200 ℃の排気温度条件で空間速度を10000 ~ 100000 h-1に設定した場合のアンモニア生成量を計算した結果を図5に示す。排気温度が低温化するとアンモニアが生成されていないことが確認できる。モデルの精度については改善していくことが必要であるが、低温排気環境下のアンモニア生成予測が可能なモデル構築が概ねできたことから、今後は、このモデルを活用し、低温排気環境下でアンモニア生成を促進する手法を検討していく。

まとめ

 低温排気環境下における尿素からのアンモニア生成を促進させる手法を検討することを最終的な目的とし、その検討に活用可能な尿素SCR触媒上での尿素からのアンモニア生成モデルを構築した。概ね実験結果を再現するモデルが構築されたことから、今後は、副生成物の生成を考慮したモデルに改良していくとともに、低温排気環境下において、尿素からのアンモニア生成を促進する手法について検討を行っていく。

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【参考文献】
(1) B. BORNHORST, O. DEUTSHMANN: Advances and challenges of ammonia delivery by urea-water sprays in SCR systems, Prog. Energy. Combust. Sci., 87, 100949 (2021).
(2) 田中 光太郎、松岡 正紘: 高純度イソシアン酸の生成方法、生成装置、内蔵キット、ガス発生装置および分析方法、特開2019-182705 (2019).
(3) 小渕 存、内澤 潤子、鈴木 俊介: SCR触媒上での尿素の蒸発および分解速度のモデル化、自動車技術会論文集、54, 2, p. 218-223 (2023).
【さらに学びたい方へ】
(1) 菊地 英一、射水 雄三、瀬川 幸一、多田 旭男、服部 英 共著、新版 新しい触媒化学: 三共出版(2010)。
コメント: 触媒化学について広い分野にわたり基礎と応用を記した教科書であり、エンジンや燃焼を専門とした研究者や学生が、触媒を新たに学ぶときの入門書として役立つ教科書である。
(2) 草壁 克己、増田 隆夫 共著、反応工学: 三共出版(2015)。
コメント: 触媒を用いた実験手法や、反応速度を取得する方法をわかりやすく解説しており、浄化率を評価する触媒実験やモデル化に必要な反応速度定数を取得する手法を学ぶ際に役立つ教科書である。
(3) HECK, R. M.、FARRAUTO, R. J.、GULATI, S. T. Catalytic Air Pollution Control, Commercial Technology, Third Edition: WILEY (2009).
コメント: 実用的に使用されている触媒について丁寧に説明した英語の教科書である。ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンに使用される触媒に関しても丁寧に説明してあり、エンジンを学んだ学生、研究者が読むと触媒システムをよく理解できる。