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Vol.14 No.5

EVシフトの背景と現状
The Background and Current Status of the EV Shift
寺地 淳
Atsushi TERAJI
日産自動車
Nissan Motor Co. Ltd.,

アブストラクト

 現在、世界的にクルマの電動化が進んでおり、多くの国や企業がEVへの移行を推進している。各国はEVの普及を促進するために充電インフラの整備を進め、公共の充電ステーションやホームチャージャの設置を増やし、利便性の向上に努めている。一部のメーカーは、将来的に完全に電動化された車両のラインナップを提供する計画を発表し、さらには新興企業もEV市場に参入し、革新的なモデルやテクノロジーを提供している。現在、欧州および中国におけるEVのマーケットシェアはそれぞれ約15%、20%まで急伸した。本記事では、世界中で起きているEVシフトの波について説明する。

グローバルEVシフトの波
日本におけるEVのはじまり

 日本の電動化の歴史は1947年の「たま」EV(図1)の発売から始まり、その歴史は75年にも及ぶ。当時の日本はGHQの軍需物資統制による石油不足に悩まされていたが、水力発電による電力は相対的に余力があり、この背景からEVに注目が集まった。このようにEV創世記のEV普及の原動力は燃料供給問題であった。EVは輸送能力が比較的優れていたため市場で受け入れられ、1945年から1952年の間に電気乗用車の総生産台数は3,500台を超えた。戦後の日本では主要都市には充電所などのインフラが整備され、150台を超える充電器が稼働してEVが国の復興を支えていたが、朝鮮戦争の勃発により鉛価格の高騰とガソリン供給の改善が起こり、EVの役割は終わりを迎えた。

EV再販へ

 環境への配慮が高まり、排出ガス規制および燃費規制が厳しくなる中でパワートレインの電動化の動きが高まった。そして、直接的な排出ガスを一切発生せず、クリーンなエネルギーから電力供給が可能なEVを世の中に導入すべく技術開発が加速した。2010年には日本国内で日産自動車から「LEAF」、三菱自動車から「i-MiEV」が一般発売された(図2)。特に「LEAF」は日本・米国に続き、欧州そして中国へと展開し、世界へEVの到来を告げる役割を担った。EVの普及には充電インフラの整備が必要不可欠である。EV販売に先立って2009年にCHAdeMO規格の最初のバージョンが策定された際に、東京電力(現・東京電力ホールディングス)と日産自動車を中心に、自動車メーカーや電力会社、充電インフラ事業者などが協力してCHAdeMO協議会を設立した。その後、メンバーシップ制度が導入され、自動車メーカーや電力会社、充電インフラ事業者、研究機関などの関連する企業や組織が参加できるようになり今日に至る。2011年には日本国内で500台を超えるCHAdeMO充電器が設置されており、EVの普及を支える充電インフラの整備が進んだ。

EV普及の加速

 2015年のパリ協定とこれに先立つIPCC第五次報告書では、長期目標として2deg.C目標のみならず1.5deg.Cを目指すことの重要性が確認された(4)。そのためには最も厳しいシナリオであるRCP2.6中央値近傍を達成せねばならず(図3)、CO2排出量を2005年レベルから約半減することが求められた。この高い目標を実現する方策の一つとして持続可能な交通システムの構築と、EVの普及を通じた温室効果ガスの排出削減が有効であることが示され、世界各国でEVに対する注目が集まった。2017年、英仏両政府が「2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する」と宣言し、中国では「NEV(新エネルギー車)規制を2019年から導入する」と発表するなど、世界中でEVシフトが明確に打ち出され、自動車業界は100年に一度の大転換期と言われた。政府の声に呼応するようにEV新興企業の参入もこのころからであり、米国テスラが同時期に「Tesla Model 3」を販売開始した。

世界情勢とEV普及状況

 現在、RCP2.6シナリオ(5)を達成すべく、各国がZEV規制の強化(図4)、CO2規制・燃費規制におけるZEVクレジットの抑制、ICE排出ガス規制の大幅な強化など、EV台数の増加に向けた方向性を打ち出している。EV増加をサポートすべく充電インフラにおいても大幅に整備され、充電スポット数は2017年から2023年までにグローバルトータルで12倍の増加となった(図5)。これらの方策の結果、中国および欧州におけるEVの販売台数は著しい伸びを見せ、EVの台数は中国では2017年比で20倍、欧州では15倍となった。現在、両マーケットの自動車販売におけるEV占有率は、中国で約20%に到達し、欧州では約15%となり、ディーゼル車のシェアを上回る躍進を遂げている。

まとめ

 RCP2.6シナリオを達成しサスティナビリティ社会の実現に向けて、図6に示すように各国でEVの更なる増加を宣言している。しかし、それでもなお2050年のカーボンニュートラル社会に向けては不十分な現状であり、より一層の普及への努力が望まれる。一方で、市場の受容性など現実的な難しさが理解され始め、各国・マーケットでEV普及の鈍化傾向が見られている。今後、EVをグリッドに接続するVGI (Vehicle-to-Grid Integration)を活用した自然エネルギーの安定供給へのEV活用、およびEVのバッテリを中心としたエコサイクルなど、真のサスティナビリティ社会の実現に寄与することで、EVの付加価値をさらに高め、普及率向上に努める必要がある。

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【参考文献】
(1) 寺地淳:日産自動車の電動化革命:「たま」から「アリア」までの75年の歴史と未来への展望,日産技報,No.90,p.5-18 (2024)
https://www.nissan-global.com/JP/TECHNICALREVIEW/
(2) 日産自動車 企業情報サイト, 電動化を牽引する「日産リーフ」の進化
https://www.nissan-global.com/JP/STORIES/RELEASES/nissan-leaf-10years/
(3) 三菱自動車 企業情報サイト, 三菱自動車の歴史, 車の歴史
https://www.mitsubishi-motors.com/jp/company/history/car/
(4) Fifth Assessment Report:Climate Change 2013(AR5), ipcc, https://archive.ipcc.ch/report/ar5/wg1/index.shtml
(5) Global EV Outlook 2023, IEA 2023, https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2023, Licence: CC BY 4.0
(6) Global EV Outlook 2024, IEA 2024, https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2024, Licence: CC BY 4.0