TOP > バックナンバー > Vol.14 No.5 > EVシフトが進む事情と進みにくい事情
消費者視点から見ると、EVの自宅充電はガソリンスタンドが少ない地域での給油問題を解消する。しかし、電欠時の救援方法は依然として大きな課題であり、消費者に不安を与える。一方、OEM(自動車メーカー)の視点では、EVの販売が各国の年々厳しくなる環境規制をフリート平均で満たしつつ、地域事情に合わせた多様な車種を用意し、消費者に選択肢を提供できることに繋がるという利点がある。しかし、カーボンニュートラルを目指してEVの普及を進めることは、クリティカルミネラル(リチウム等重要鉱物)の需要を急増させ、限られた地球資源の枯渇に繋がるため、SDGsの観点からも大きな課題を抱えている。
静かでクリーン、太陽光余剰電力の蓄電、停電時の電力供給の利点は既に認知されているが、ここでは自宅充電が地域によっては大きな利点になるという事情を述べる。エンジン車の視点で見ると、1994年度末に60,421店だった全国のガソリンスタンド(サービスステーション:SS)は、2022年度末には27,963店へと減少した(図1)。さらにSSが3店舗以下の自治体「SS過疎地」は358市町村に達した。このような地域では、給油は往復の時間や経済的な負担に加え、精神的・体力的な負担も伴う。EVの自宅充電はこの課題を根本から解決する。充電の手間は、慣れればスマートフォンの充電と同様に日常に溶け込む可能性がある。
電欠の不安と救援方法の課題電欠時、JAFに救援を依頼すると、EVは最寄りの充電スポットへ搬送される。ガソリン車のガス欠時は、その場で給油、自走可能になるが、EVはそのような迅速な対応が難しい。この問題に対処するため、JAFは昨年から一部の都府県で、現場での急速充電が可能なサービスの試験運用を開始した(図2)。充電スポットまで走れる必要最低限の量を充電する。しかし、雨天時など一部の状況では現場での充電が不可能であり、場合によっては搬送が必要となる。大雪で高速道路が通行止めになった場合などは、特に電欠の不安とその救援方法の課題が顕在化する。
「消費者に多様な選択肢を提供できる」という意外な側面も各国の燃費および排出ガス規制は年々厳しくなり、今後もカーボンニュートラルに向けてさらに厳格化されるのは確実で(図3)、現状のエンジン車(エンジン付き電動車を含む)では規制クリアが困難なレベルになる。多くの国で採用している「フリート平均規制」と呼ばれる制度では、販売する車の平均値が規制基準を満たすことが要件となる。つまり、現行の規制上はゼロエミッションとして扱われるEVを販売することで、多様なエンジン車を販売することが可能となる。結果的に、地域事情に合わせた多様な車種を用意し、消費者に選択肢を提供できることに繋がるという利点が存在する。
リチウムなど需給バランスの懸念電動車に必要不可欠なモータやバッテリは、リチウムなどのクリティカルミネラルを多く必要とし、特にEVではその必要量が顕著となる。各国政府はカーボンニュートラルに向けて電動車普及目標を掲げており、その台数急増に伴いクリティカルミネラルの必要量も急増する。2035年予測では、リチウムやコバルトは供給量が下回り需給バランスが崩れている(図4)。また、これらの資源は地球上の限られた数カ国に集中しており、地政学的リスクを伴う。OEMにとっては、量の安定確保と価格変動の課題、さらにSDGsの観点からリサイクル技術の確立という開発課題も存在する。
消費者にとって、EVの充電はネガティブな要素として捉えられることが多いが、ガソリンスタンドの不便さが目立つ地域では、自宅で充電できることが日常生活を支えることに繋がる。つまり地域事情により、エンジン車とEVの利便性は大きく異なる。一方、OEMにとっては、厳しい規制に対応しながら、多様な車種を消費者へ提供し、限られた資源を効果的に活用することが持続可能なモビリティ社会実現の鍵となる。消費者とOEM双方にとって、EVとエンジン車が共に今後も重要な役割を果たしていくことは間違いない。
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