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Vol.14 No.5

持続可能な電動車市場拡大を支えるCNな内燃機関の必要性
The Necessity of Carbon-Neutral Internal Combustion Engines for Supporting the Sustainable Electrified Vehicles Market Expansion
古野 志健男
Shigeo FURUNO
株式会社SOKEN
SOKEN, Inc

アブストラクト

 世界全体での持続可能な自動車市場のカーボンニュートラル(CN)のために、今後も内燃機関(エンジン)は必須となる。適材適所にすべてのCNなパワートレインを搭載したクルマが要求される。BEV(Battery EV)市場は過剰な伸び率を是正した状態で拡大し飽和する。BEV以外の電動車やCNを目指したエンジン車も増加する。CNを目指したエンジン車とは、電動車に最適な高効率エンジンを搭載したクルマ、また水素/アンモニアや合成燃料(e-fuel)、バイオ燃料などのCN燃料を用いたクルマ、さらにはカーボンクレジットを付与したクルマなどを意味する。CN燃料の課題は、低コスト化と供給量の拡大である。そのためには、再生可能エネルギー由来の電力の低価格化とその発電量の拡大が最重要となる。

一過性ではないBEV市場の減速

 世界各地域でBEV市場拡大の減速が鮮明になってきている。これは一過性だという議論もあるが、この傾向は継続すると筆者は考える。換言すれば、今まではBEVオーナーのEarly AdopterによりBEV市場の伸び率が過剰だったと言える。伸びは減速するが、減少するという意味ではない。あるべき伸び率で市場は拡大していき、2050年に向けてあるシェアで飽和すると思われる。
 そもそも、2050年に100%BEVに代替できたとしても、カーボンニュートラルとならない(図1)。電池含めて生産工場用や充電用の電気が再生可能エネルギー由来の電気に世界全体で100%となるというのは非現実的である。では、どうすれば世界の自動車市場でのカーボンニュートラル(CN)を実現できるのかを考察する。

内燃機関(エンジン)の必要性

 エンジンが誕生して約140年、CNな将来に向けてもクルマのパワートレインのひとつとしてその役割は持続的に成長していく。二次電池の先端技術を加味しても、決してBEVへの過渡期を埋める存在ではない。航続距離 (図2)、耐久性、ロバスト性、使用環境や燃料の多様性、価格などエンジンの必要性は枚挙に暇がない。
 クルマの使われ方が地域や環境など世界中で千差万別なのは言うまでもない。特に、近年インドや南アフリカなどグローバルサウスの国々での経済発展やモータリゼーションが盛んである。豊かな社会のためにクルマを始めモビリティは不可欠である。そのためにはBEVだけでは満足な対応ができない。それらのニーズのために電動車を中心にエンジンも含めたCNなすべてのパワートレインのクルマが必要である。

CNに向けたエンジンの役割

 エンジンの役割とは、BEVでは対応困難なニーズに応えられるCNなパワートレインのひとつとして貢献することである。そのために、一つは電駆動システムと融合し必要最低限のCO2排出量に抑えた電動車専用エンジン(Dedicated Hybrid Engine:DHE)開発が必要である。もう一つは様々なCN燃料に対応したエンジン開発か、あるいは既販エンジン車の燃料にも混合できるCNな燃料性状にすることである。
 近年、欧州も中国もDHE開発に注力している。欧州ではHEVに、中国ではPHEVに搭載するためである。実用の最大正味熱効率として50%以上を目指して研究が継続している。日本勢も遅ればせながら2024年5月28日にトヨタ、マツダ、スバル合同でDHEの必要性をプレス発表した。

CN燃料の種類と課題

 CN燃料には、再生可能エネルギー(再エネ)由来の電力によって製造された水素/アンモニア、再エネ電力による合成燃料(e-fuel)、バイオ燃料などがある (図3)。e-fuelは、工場排出や大気のCO2と水の電気分解による水素から再エネ電力でFT合成(Fischer‐Tropsch process)する。そのためにはCO2を大気から高効率で大量に回収するDAC(Direct Air Capture)技術の普及が重要となる。バイオ燃料には、サトウキビなどを発酵したバイオエタノールや、また植物油をエステル化したFAME(Fatty acid methyl ester)、さらに水素化処理をしたHVO(hydrotreated Vegetable Oil)と呼ばれるバイオディーゼルがある。
 水素とe-fuelを将来に向けて世界中で普及させるべく産官学の様々な事業が推進されているが、コスト低減と供給量拡大が大きな課題である。コスト低減には、再エネ電力による水素、つまり再エネ電力自身を安価にする必要がある。日本では容易ではない。南米チリでは、非常に安価な風力発電による合成燃料(e-gasoline)事業である「Haru-Oniプロジェクト」が計画通り進んでいる(2)

CN燃料の希望ある将来性

 CN燃料の供給先として最優先である持続可能な航空燃料SAF(Sustainable Aviation Fuel)の2050年必要量のある割合をFT合成法で製造できるとすると、副産物としてガソリンや軽油も製造されるので、例えばその1/2をFT合成法で製造すれば、副産物のガソリンや軽油でその頃のクルマの世界市場燃料の約4割を賄える試算もある(3)
 バイオ燃料について、米国は20年以上前からクルマ用として化石燃料に混合したE10やB5燃料などを政治的に推進してきた。2023年9月のインドG20サミットでは、モディ首相が世界バイオ燃料同盟(Global Biofuels Alliance:GBA)を米国、イタリアも含めて主にグローバルサウスの国々と設立した。米国はバイオエタノール、バイオディーゼル共に世界一の生産国(図4)で、輸出も含めさらに増産する計画だ。なお、バイオ燃料は、輸入し使用した国のCO2低減カウントとなる。

まとめ

 CNに向けて電動車市場が拡大していくが、BEV一辺倒の潮流は見直され、BEVも含めCNなすべてのパワートレイン車両が適材適所で要求される。多様な選択肢を用意するというよりは、世界全地域のニーズにマッチしたCNなすべてのパワートレインを提供しなければならない。そのひとつとして水素も含めCN燃料対応エンジンやDHEを持続的に成長させていかなければならない。欧州では水素エンジン開発も盛んだ。
 いずれにしても、e-fuelやバイオ燃料は、世界で15億7千万台以上走行している既販車のCO2低減手段の重要なひとつでもある。加えて、航空業界で採用し始めている従来燃料にDACや植林などのCO2低減によるカーボンクレジットを付与する手法を、既存のエンジン車にも活用してCNな内燃機関車とする手段も必要だろう。地球上の全業界が一体となってCNに挑戦すべきである。

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【参考文献】
(1) Rei Palm, R., Egeskog, A., Hagdahl, K., Krewer, C. and Råde, I.: The Carbon Footprint of Volvo XC40 BEV and ICE – Presented with Transparency, 30th Aachen Colloquium Sustainable Mobility, 245 (2021) (参照:2023.12.8)
(2) German Business: Collaboration in e-fuel, Porsche and Siemens Energy, https://eu-strategy.com/strategy-news/14170/porche-siemens-e-fuel (参照:2023.12.8)
(3) 日本自動車工業会:2050年カーボンニュートラルに向けたシナリオ分析、p18(2022.9)、https://www.jama.or.jp/operation/ecology/carbon_neutral_scenario/PDF/Transitioning_to_CN_by_2050A_Scenario_Based_Analysis_JP.pdf (参照:2024.6.12)
(4) IEEI: Analysis of the current status and future prospects of biofuels, https://ieei.or.jp/2023/07/kobayashi_20230724/(参照:2023.12.8)
【さらに学びたい方へ】
(1) 古野 志健男:カーボンニュートラルに向けた自動車産業の最新の方向性とエアロゾル排出の関係、Earozoru Kenkyu、 39(1)、 18–27(2024)
コメント: 今回の議論の詳細を広くわかりやすく解説している。