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Vol.14 No.7

二輪車のカーボンニュートラル化はなぜ必要か?
Why should motorcycles be carbon neutral?
荒木 裕次
Yuji ARAKI
ヤマハ発動機株式会社
YAMAHA MOTOR CO., LTD

アブストラクト

 二輪車は手頃な価格と様々な用途への適用性により世界各国で利用されており、小型軽量であることから環境に優しい効率的な交通手段の一つである。本稿では、二輪車からのCO2排出量と二輪車にかかわるカーボンニュートラル(CN)関連の規制や政策の現状を紹介し、二輪車におけるCO2排出量低減の必要性を解説する。

CN関連の各国規制の現状と二輪車からのCO2排出量
CNに向けての各国の目標、取り組み

 2015年に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択されて以降、世界の多くの国がそれぞれ目標を定めてCNに向けて様々な取り組みを進めている(表1)。日本では2050年にCN達成を目指すことを宣言し、グリーン成長戦略が策定される中、自動車業界では内燃機関の効率改善はもとより電気自動車やハイブリッド車など車両の電動化に取り組む一方、CN燃料※によるCO2排出量低減など、多様な選択肢(マルチパスウェイ)でCN実現への取り組みが進められている。
※ 燃料の製造から使用までの全過程で、大気中のCO2濃度を増やさない燃料(合成燃料(e-fuel)、バイオ燃料、水素など)

世界各地域の二輪車保有、販売状況

 二輪車は、ほかの道路輸送車両に比べて小型、軽量であるため、世界の都市や農村部で重要な交通手段となっている。現在世界では年間5000万台を超える規模の二輪車が販売され、約6億台の二輪車が保有されている。アジア地域(南アジア、ASEAN、東アジア)の販売台数が全体の8割以上を占めており、アジア地域は二輪車の大きな市場となっている中、日本の二輪メーカーは合計販売台数でおよそ半数のシェアを占めており、世界の二輪車市場をリードしている(図1)。

二輪車からのCO2排出量の現状

 International Energy Agency (IEA)が公開しているデータによると、世界のCO2排出量は2022年には350億トンに迫り、1990年の排出量と比べて60%以上増加している。運輸部門からのCO2排出量は全体のおよそ22~24%を占めており、増加傾向にある(図2)。

 国や地域によって二輪車の普及度が異なることから二輪車からのCO2排出量が全体の排出量に占める割合はまちまちであると考えられ、一例として日本国内における2022年度のCO2排出量と部門別の割合、運輸部門におけるカテゴリー毎の割合を示す(図3)。運輸部門のCO2排出量は全体の18.5%、そのうち二輪車から排出される割合は 0.4%であり、二輪車からのCO2排出量は国内CO2総排出量の0.075%となっている。このように国内においてはCO2排出量全体に占める二輪車の排出量割合は小さいものの、CNを達成するには化石燃料使用から脱却することが求められることから、CO2排出量低減は二輪車においても重要な課題となっている。

CNに向けた規制、政策の動向

 CNに向けた各国の政策は多岐にわたり、今後も規制の強化や様々な政策導入が予想される。 米国カリフォルニア州ではゼロエミッションモーターサイクル(ZEM)の普及促進のためにクレジット制度の導入が検討されている。また、ベトナムでは内燃機関を搭載した二輪車の燃費規制、電動二輪車への移行推進策が検討されている。欧州においてもUKでは2035年に内燃機関を搭載した二輪車の販売禁止が議論されている。 CNと産業振興を結び付け、自国産業育成を目的とした政策導入の動きも見られる。インドでは電動二輪車購入者を対象とした補助金や免税、生産者を対象とした「生産連動型優遇策(PLI)スキーム」の政策が施行され、消費者、生産者の両面から電動二輪車販売促進と産業育成にアプローチしている。タイではバッテリおよび電動二輪車の国内生産への投資優遇策を導入、インドネシアでもバッテリを軸とする電動二輪車産業育成策が導入されている(表2)。

 四輪車および二輪車用の燃料供給インフラへの取り組みとして、エタノール燃料に関する政策導入もみられる。バイオ燃料の一つであるエタノールはCN達成に向けた有力な手段である一方で、各国のエネルギーセキュリティ観点からも重要な燃料である。ブラジル、米国、EU、中国、タイ、インドなどの国でエタノール混合燃料の義務化に向けた政策が打ち出されている(表3)。

 また、注視すべき規制動向として、ゼロ・エミッション・ゾーン(ZEZ)がある。これは道路交通による大気汚染、混雑、CO2排出を緩和するために都市政府が導入を計画している規制であり、指定された区域内を走行できる車両を電動車(BEV)と燃料電池車(FCEV)に限定するというものである。現在施行されているZEZはほとんどないが、欧州と北米の幾つかの都市でZEZを実施する計画が発表されている。規制対象となる車種や施行時期は都市によってまちまちであり、パリやアムステルダムなど二輪車も対象としてZEZ規制導入を計画している都市もある(表4)。

 これまで述べてきたとおりCN関連の規制や政策は産業育成やエネルギーセキュリティの目的と相まって世界各国や地域で導入されており、その動きは今後も続くであろう。規制や政策の内容が国や地域によって様々であるため、今後も動向を注視していく必要がある。

まとめ

 本稿では、二輪車からのCO2排出量の実状と二輪車に係るCN関連の規制や政策の現状を紹介してきた。二輪車は小型、軽量である特性から環境に優しい乗り物でありCO2排出の割合も全体からみると僅かであるが、CN達成のためには化石燃料使用から脱却することが求められており、内燃機関の効率改善はもとより、電動化やCN燃料への対応など多様な選択肢をもって取り組まれている。年間販売台数約5000万台規模の二輪車市場でおよそ半数のシェアを有する国内二輪メーカーの取り組みは二輪車からのCO2排出量低減の大きな鍵を握っており、CN達成は、今後も世界をリードし、顧客に支持され続けるための極めて重要な課題となっている。

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