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Vol.14 No.7

二輪車への電動化技術の取り組み
Initiatives in electrification technology for motorcycles
丸山 智千
Tomoyuki MARUYAMA
本田技研工業株式会社
Honda Motor Co., Ltd

アブストラクト

 二輪車の電動化については、カーボンニュートラル化における化石燃料に代わるエネルギーの主要な手段として、四輪と同様に注目されているが、一方で二輪車を使われるお客様と二輪車自体の特性が四輪と異なることで、その普及については大きな課題がある。この対応手段の一つとして、Hondaは「モバイルパワーパック」という持ち運び可能なバッテリパックによるソリューションを展開している。これにより、充電の利便性を向上させたり、エネルギーをより効率的に活用していくことが可能となる。電動車は、その高いエネルギー効率と、扱いやすい操作性、静粛性やクリーンさなどといった従来のガソリン車では達成できないポテンシャルをも持っている。これらの技術課題を解決し、お客様の生活を支える日常の足として、ニーズに合わせた電動化の技術進化が必要となる。

電動化へのニーズ

 四輪車のみならず二輪車にとっての電動化の理由および必要性は以下のような点が挙げられる。
1.環境への影響軽減、2.規制への対応、3.社会環境変化への対応
 まず1.の環境については、これまでの化石燃料に比べ、Tank to Wheel(燃料タンクに燃料が入っている状態から、走行時にどれだけCO2 を排出するか)でのCO2排出は、電動化することでゼロにすることができる。また、都市部においては人口の集中と共に交通量の増加により排ガスによる大気の汚染や騒音による問題が深刻化していることは広く知られていることと思われるが、この問題は化石燃料を使用する四輪車や二輪車を電動化していくことで、地球温暖化や大気の汚染の改善、また騒音などの都市公害の緩和についても寄与すると考えている。
 二輪車の世界販売台数が年間約5000万台規模である中、Hondaの二輪車は、小型コミューターから大型モーターサイクルまでのモデルラインナップで、新興国から先進国までと、非常に幅広い市場で約2000万台を販売しているが、その約8割がグローバルサウスと呼ばれる南半球中心とした新興国の市場で、コミューターモデルを中心に、日々の生活を支えるライフラインとして使って頂いており、この地域の電動化促進が環境改善に非常に大きく寄与すると考えている。
 また、SDGsやRE100などの取り組みによって、それを使用する企業にとって環境への責任と貢献、その取り組みによる企業価値の向上が持続可能な成長のメリットとしてとらえられてきており、まだまだ導入コストが高いものの積極的に導入していく企業が増加して来ている。ユーザーにとっても、環境対応車に乗ることによって、“環境改善に貢献している”という意識や評価を得られることがメリットとしてとらえられてきており、電動化へのモチベーションに繋がっていると感じられる。
 2.の規制への対応については、先に述べた環境対応に連動して様々な規制が導入されつつある。排ガス規制などは、四輪と比べて単価の低い二輪車の様な商品にとっては相対的に環境対応コストが高くなり、これを売価に反映せざるを得ず、ユーザーの大きな負担になりつつある。また都市中心部への流入規制やガソリン車の販売規制なども、ガソリン車から電動車への転換を促す結果となっている。
 3.の社会環境変化への対応は、実態として非常に大きな積極的要因となっている。環境対応のみならず、政治的・経済的背景が電動化を促進させている。
 例えば、インドではガソリン代が電気代に比べて非常に高く、より効率の良い動力源が求められており、これに政府の積極的な電動化への各種補助金や輸入関税によるトータルコストでの優位性が電動化を加速させており、これがインドの電動二輪車市場を急拡大させ、現在では90万台に迫る市場となっている。(図1

二輪車の電動化の課題

 しかしながら、お客様が電動車に乗り換えるには大きく三つの課題があると考えられる。
 それは、高い価格(コストが高い)、航続距離が短い、充電時間が長いことである。
 既に5000万台市場規模のガソリン二輪車と違い、希少金属を多用するバッテリやモータなどの電動部品は、まだまだ量産効果も低く、どうしても高コストになってしまい、これを売価へ反映した場合、ガソリン車と比較して非常に高価な物となってしまう。現状は補助金制度などで恩恵を受けている場合もあるが、このコストを下げていくことが大きな課題である。
 また、バッテリのエネルギー密度は、ガソリンに比べて約20分の1程度しか無いため、たくさんバッテリを積める四輪と比べると搭載スペースが限られ、それほど量を積めない二輪車は結果的に航続距離が短くなってしまう。(図2

 二輪車の特性としても、重量が軽く、前輪のブレーキによる制動力を主としているため、駆動軸となる後輪での回生充電の効率が非常に悪いことも航続距離が伸びない要因の一つとなっている。
 また、バッテリの充電についても、ガソリンスタンドでガソリンを入れる時間と比較して、とても長い時間を要することが利便性の面で大きなデメリットとなっている。

電動化課題への取り組み

 電動二輪車への搭載に大きく影響するバッテリパックは固定式、着脱式、交換式と三つの方式に分類される。電動車の課題への取り組みの一つとして、Hondaでは汎用性の高い交換式のバッテリ(モバイルパワーパック)を課題解決の一つの処方として採用している。(図3)。

 バッテリを容易に交換可能とすることで、充電する場所を家庭や職場内の充電器もしくは市中設置型の充電器を活用することができ、市場および事業のニーズに合わせて方法を選択出来るようになることと、充電済のバッテリに交換することで、連続的な利用による長航続距離と、短時間給電を可能としている。
 また、これらを市中設置型のバッテリ充電器と共に活用したバッテリシェアリングサービスによる、より効率的なエネルギーの活用方法も推進している(図4)。バッテリを共用として運用管理することで、バッテリと電動製品それぞれの稼働率を上げ、充電している時間が不稼働時間となる固定式に比べてよりエネルギーを効率的に使うことが可能となるため、二輪車だけでなく、三輪車やマイクロコミューターなどと共用していくことも可能となる。特に稼働時間の長い業務用途での活用に優れており、これらのモデルは既に日本郵便様を中心に活用いただいており、ベトナムポスト様でも展開し始めている(図5)。
 また、Honda、川崎重工業(現カワサキモータース)、スズキ、ヤマハ発動機(以下ヤマハ)の国内二輪4社は、共通利用を目的とした交換式バッテリとバッテリ交換システムの標準化を進めるため、日本国内における電動二輪車の普及を目的とした「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を創設し、2021年3月に標準化(共通仕様)に合意した。こうした取り組みに続き、電動二輪車の共通仕様バッテリのシェアリングサービス提供と、シェアリングサービスのためのインフラ整備を目的とする「株式会社Gachaco(ガチャコ)」を2022年4月1日に設立し、東京を中心とした大都市圏にてサービスを開始している。またHondaとヤマハは、原付一種において、共通仕様に適合した交換式バッテリ「モバイルパワーパック」を動力用電源とするEM1 e:、BENLY e:Ⅰをベースとした車両のOEM供給に合意し、国内での標準化と展開を進めている。国外においても、欧州の交換式バッテリの標準化に向けて、コンソーシアム(The Swappable Batteries Motorcycle Consortium)にも参加し、インドでも現地企業とともに規格共通化を推進するなど、各地域での課題解決と共に普及を推進している。

電動車の普及における課題

 電動車そのものの課題だけでなく、電動車の普及によって新たな課題も生み出されつつある。
先にも述べたバッテリやモータには希少金属を多用しており、またその資源は特定の地域の産出に限られているため、資源確保者の独占による取引価格の上昇や、不法労働による採掘等の新たな問題を引き起こし、またそれを規制する法律なども生まれている。
 電動車の製造にあたっては、LCA(Life Cycle Assessment:生産された工業製品や各サービスの材料調達から、製造、流通、廃棄や再生まで含めたすべての工程に発生する環境負荷を包括的、定量的に評価や査定を行う方法)の観点でCO2排出量を算出した場合、一般的にはガソリン車よりもCO2排出量が多いことも分かっており、より効率的なエネルギーの活用と、資源循環の仕組みを技術的にも成立させていく必要がある。
 また、電動車の普及と共に、充電に必要とされる電力量の供給と、電欠不安を解消するための充電インフラの拡充・整備も電動化の大きな要素となる。

電動二輪車の可能性

 電動化におけるメリットの一つとして、その高いエネルギー変換効率がある。化石燃料を使った内燃機関と比較して、モータはエネルギーの変換効率が良く、同じ距離を移動するための必要エネルギー量を少なくさせることができ、エネルギー節約につながるため、将来の主要な動力源として期待されている。
 もう一つのメリットとして、ガソリン車より、コントロールしやすいドライバビリティや、音も少なく汚れないクリーンな車両やメンテナンスの容易化、知能化との親和性などといった魅力となる領域がある。このように騒音や排気ガスが出ないことで都市部や室内アリーナでもレース開催可能となり、今までにないユーザーへのアピールも可能となる広がりを考え、技術開発に取り組んでいる。実際、2024年2月に都市部でのレースを開催し、盛況に終わっている。(動画1
 さらに、部品点数が少ないことによる将来的なコストダウンやランニングコストの低減などの優位性は、全体的な資源節約につながると考えられる。

Movie.1 2024「FIM E-XPLORER WORLD CUP」大阪大会とCR ELECTRIC PROTO

まとめ

 このように二輪電動車の普及には、商品および社会環境においてもまだまだ大きな課題があるが、一方で技術推進によって大きな可能性も秘めている。
 カーボンニュートラル化に向けては、電動化を重要な手段の一つとしてとらえ、お客様の生活を支える日常の足として、ニーズに合わせた電動化の技術進化に取り組んでいきたい。

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【参考文献】
(1) 車載用リチウムイオン電池のリユース技術と実際例;監修 中村 崇;発行 (株)エヌ・ティー・エス 2023年
(2) 電動二輪車用交換式バッテリーの相互利用を可能にする標準化に合意 | Honda 企業情報サイト (global.honda)
https://global.honda/jp/news/2021/2210326.html
(3) Hondaとヤマハ発動機 原付一種の電動二輪車のOEM供給に合意 | Honda 企業情報サイト (global.honda)
https://global.honda/jp/news/2024/c240808.html