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Vol.14 No.8

特集を企画するにあたって -カーボンニュートラルのコストパフォーマンス-
鈴木 央一
Hisakazu SUZUKI
JSAEエンジンレビュー編集委員 / 交通安全環境研究所
JSAE ER Editorial Committee / National Traffic Safety and Environment Laboratry

 500円で昼食をとったとしよう。仮に納得のいかない点があったとしても、ある程度までは「しょうがない」ですませるだろう。しかし5000円の昼食だとしたら、多少なりとも納得いかないことがあれば、落胆あるいは憤慨してその店には二度と行かないだろう。当然ながら内容的には5000円の昼食の方が充実しているはずだが、その違いが生まれる理由はもちろんコスト、値段の違いである。
 どんなものでもサービスでも、その善し悪しを判断する最も重要な因子はコストと言っていい。どれほど高性能で安全な乗用車であってもそれが1億円するとしたら、一般に普及することはあり得ない。その90%の性能の車が200万円だったら多くの人が買い求めることだろう。結局は費用対効果(コストパフォーマンス、コスパ)がすべてなのである。コスパの「パフォーマンス」のほう、車であれば安全、環境、走行性能を高める様々な技術は多くの特集が組まれる。一方のコストの方はこうした特集になじみがない。我らがエンジンレビュー誌においても、「コスト」をタイトルに含む特集を組むのは初めてである。コストは古今東西常に競争領域で、ライバルと共有したい成果などはほぼあり得ないので、公刊物としてなかなか表に出てこないものである。今回コストを特集したい、と思って企画を考えたとき、やはり自動車メーカーにおける生産技術などの面でのコスト改善、といってもなかなか記事にできるものが見つけられなかった。一方で、近年のカーボンニュートラルに向けた動きの中で、その問題の大きいことが感じられた。

 乗り物の動力源の主役が大きく変化したことは、歴史的に何度もある。帆船から蒸気船へ、プロペラ機からジェット機へ、蒸気機関車から電気機関車やディーゼル機関車へ、などである。これらは圧倒的な性能差や利便性向上により、補助金も促進策も不要で比較的短期間に置き換わっていった。自動車で電動化やカーボンニュートラル燃料の導入が進むが、これらは必ずしも利便性や性能差によるのではなく、このまま化石燃料を使い続けたら地球がやばいでしょ、という理由が第一である。なので蒸気船やジェット機への移行のように自然かつ不可逆的に流れていくことが約束されているとは言えない。流れを作り出すにはコストがポイントになる。コスト的に有利であれば短期間に普及が進むと見込まれるし、そうでなければおいそれとはいかない。また、電気や水素などこれまでの動力源と抜本的に異なるものをエネルギーとするとなると、インフラや供給面もリスクとなりうる。例えばEVを導入するにあたって、それらリスクの程度が見えないとハードルが高く感じられるが、コストイメージができれば踏み出しやすくなるだろう。
 本特集では、合成燃料、電気自動車(EV)、ワイヤレス給電インフラの導入に関するコストについて取り上げている。既に進行しつつあるEVの導入については、補助金事業とその事業者へのアンケート調査を行っている一般社団法人環境優良車普及機構殿と、事業者単位でのインフラも含めたEV導入のコンサルティングを行っているCUBE-LINX殿に執筆いただいた。合成燃料の製造コストについてはPwCコンサルティング合同会社殿、走行中ワイヤレス給電については、それに関する国土交通省、NEDO、グリーンイノベーション基金事業など幅広く携わっておられる東京理科大学居村先生に執筆いただいている。それぞれ興味深いものになっていると思うことに加え、4本の記事すべてに目を通すことで、それぞれが相対化されて全体が見えてくるように思われる。読者の皆様にもぜひすべてご覧いただき、カーボンニュートラルに向けた技術に必要なコストについてイメージを持っていただくことを希望したい。

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