TOP > バックナンバー > Vol.15 No.1 > ミュージアム探訪(1)/日産エンジンの系譜(後編)
前編(1960年代まで)の日産のエンジン技術の発達史以降を紹介する。ガソリンエンジンの1970年~1980年の概略系譜を表1に示す。
この中から、本章では、排気・燃費対策に注力したエンジンを紹介する。
当時の排気規制背景:
北米:
・1950年あたりから排気ガスによる大気汚染の研究が進む。
・1963年「大気浄化法」、1970年「マスキー法」が成立。
HC、CO、NOx共に1/10以下のレベルが要求される。
日本:
・1973年:昭和48年排出ガス規制制定。
・1978年:昭和53年排出ガス規制が制定され、マスキー法と同様1/10以下に低減する事が要求された。
・車検制度による監視も含め、2000年まで世界で最も厳しい規制と言われた。
日産の排ガス対策:
当時電子制御は非常にコストが高かった為、大きくふたつの技術で対応した。
・大量EGRと酸化触媒
小型車:NOxの排出量が少ないのでHC、COを酸化触媒で処理
中型車:大量EGRにてNOxを低減しHC、COを酸化触媒で処理
EGRによる燃焼悪化は2点点火により対応した。(Z型エンジン)
・大型車:空燃比制御と三元触媒(Y44型エンジン)
日本の昭和53年排出ガス規制に対応するために、日産独自の急速燃焼方式が開発され、従来のL型系4気筒エンジンをベースに作られたエンジンである。 厳しい規制をクリアするためにHC、COは酸化触媒で、NOxは大量EGRで対応し、それによる燃焼悪化の対策として、1気筒当たり2本のスパークプラグを用いた(図2)。
開発の経緯:
1975年度当時、4気筒エンジンの排気対策として、トーチ型燃焼方式(図3)ロータリエンジン(図4)、リアクタ方式、など、様々な方式について開発を進めていた。 その中で、中央研究所から「2点点火方式であれば大量EGRでもNOxを対策できる」という知らせがあり、2点点火方式を採用することを決定した。 短期間で開発を行う必要があったため、ブロックなどの基本構成はL型系をそのまま用い、シリンダヘッド、吸気系、排気系のみ変更した。
研究所の提案はU20型エンジンをベースにしていたため、これをL型のディメンジョンで性能を出すには苦労があった。
主要諸元:
水冷直列4気筒ガソリンエンジン。 810型ブルーバード搭載。
Bore 85.0mm × Stroke 78.0mm。 排気量:1.77ℓ。 最高出力:105ps/6000rpm。 圧縮比: 8.8
・シリンダブロック:L型のブロックを流用。鋳鉄製。5ベアリング。
・シリンダヘッド:アルミ鋳造。半球型燃焼室。
・弁、弁機構:2弁ロッカシャフトOHC式。ローラチェーン駆動
・排気対策技術:Venturi Vacuum Transducer式EGR+2点点火急速燃焼+酸化触媒、リードバルブによる二次空気導入。
石油事情を契機として、省資源、省エネルギーの観点から、車両のFF化が急速に進みつつあり、1985年には世界の車の80%がFF化されると予想。 そうした時代の流れを背景にFF搭載にふさわしいサイズにすると同時に省資源、省エネルギーを一層追及し、世界小型車戦争に対応すべくZ型エンジンシリーズを更新することとした。基本寸法を1.8ℓに最適化し,コンパクトなサイズ,軽量化,摩擦損失の低減,ローメンテナンス化を主眼に開発され世界でも最軽量のエンジンとして誕生した。 車両重量の増加、電子制御技術の普及、標準型DOHCの台頭により、後継のSRエンジンに主力が移り、比較的短命となった。
主要諸元:
水冷直列4気筒ガソリンエンジン SOHC。 バイオレットシリーズT11型に搭載。
Bore 83.0mm × Stroke 83.6mm。 排気量 :1.809ℓ。 最高出力: 100ps/5600rpm 。 圧縮比: 8.8
・シリンダブロック:鋳鉄製。4連サイアミーズボア
・シリンダヘッド:アルミ鋳造。半球型燃焼室。
・弁、弁機構:2弁SOHC式。コッグドベルト駆動。
・排気制御:大量EGR+2点点火急速燃焼+酸化触媒。 DOHC型では三元触媒を採用。
大型エンジンの排気対策技術の暗中模索が続く中、北米エンゲルハルトから「ハニカム触媒の有効性」の情報を得る。 またBoschからは「LジェトロとO2センサを用いた空燃比制御と、三元触媒を用いた後処理の有効性」の情報を得る。 これらの技術はCVCCやロータリの弱点を克服できる理想のシステムと判断し、排気ガス対策技術の一本化が図られる。 現在では当たり前となっているエンジン制御の基礎がここに確立された。
開発の経緯:
1973年:国内初のEGR、フルトランジスタ式点火システム、改良型気化器により昭和48年規制に適合。
1975年:電子制御燃料噴射システム、EGR、ペレット型触媒を導入し昭和50年規制に適合。
1977年:ラムダコントロール付きEGI、EGR、三元触媒システムを導入。
主要諸元:
Y44E:水冷V型8気筒ガソリンエンジン。 OHV. 250型プレジデントに搭載。
Bore 92.0mm × Stroke 83.0mm。 排気量:4.414ℓ。 出力:200ps/4800rpm。 圧縮比:8.6。
出力の表記は発売当時のままとした。
1kW = 1.35962[PS](仏馬力)
1kW = 1.34102 [HP](英馬力)
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