TOP > バックナンバー > Vol.10 No.6 > 3 蒸発促進型噴霧形成による冷却損失低減への挑戦
冷却損失低減グループは、同志社大学(噴霧・燃焼の光学計測,単気筒エンジン実験)、大阪大学(燃焼コンセプトの数値実証)、大阪工業大学(高精度簡略化反応メカニズムの構築)の連携により研究を実施した。本研究では、2成分混合燃料(ガソリン系燃料と軽油系燃料の混合燃料)を用いて、早期蒸発の高分散・高エントレインメント噴霧形成によるコンパクトな噴霧火炎を燃焼室内に実現して冷却損失の低減を行った(図3-1)。ここでは、低沸点燃料の混合による蒸発率速度の上昇と2燃料の着火・燃焼率の違いによる燃焼制御を目的とした。定容容器内での単発噴霧燃焼実験での各種パラメータ実験を行ない冷却損失の26%低減を達成し、単気筒実機関では高負荷条件において熱勘定より0.9%の冷却損失の低減を達成した。さらにこの混合燃料噴霧の性状と燃焼室内部の燃焼状況を明らかにするため、定容器内での噴霧内燃料濃度分布を計測し、RCEM装置で噴霧燃焼火炎の推移と熱損失の関係を調べた。その結果の一部を紹介する。
ノルマルペンタン・ノルマルトリデカンの混合燃料(ノルマルペンタン75%質量分率)を用いて、噴射圧力、ノズル噴孔径、燃料噴射量、燃料温度などを変化させ、瞬時の壁面熱流束を測定するとともに火炎挙動を可視化撮影した(3-1)。図3-2に示すように、冷却損失と各パラメータの関係を求めて、それらのデータをニュートンの冷却則をもとに熱損失量と、熱伝達率、平均火炎温度と火炎の壁面接触時間とその面積、衝突距離などの関係を指数相関として解析し、各実験パラメータとニュートンの冷却則の物理因子との相関付けを行うとともに最終的に冷却損失の予測式(1)を算定した(3-2)。
(1)
この指数相関解析によって冷却損失の低減に有効な制御因子を抽出し、本混合燃料の適用と燃料加熱によりSIPの基準噴射条件に対して26.4%の冷却損失低減を達成した。次項で紹介する実機関での冷却損失低減の可能性が見えた嬉しい瞬間であった。
SIP単気筒ディーセル機関の高負荷基準条件において、軽油とノルマルペンタン・デカンの混合燃料(ノルマルペンタン80%質量分率,以降ML0.8と表記)を適用した燃焼実験を行った。ここでは燃料噴射圧力、噴射時期などを変化させた。図3-3は噴射圧力が180MPaの熱発生率の推移である。混合燃料において燃焼初期の燃焼率の向上と後半の急速燃焼により燃焼期間が短縮され、またスモークの大幅な低減も確認した。図3-4は同じ条件での熱勘定の比較であるが混合燃料において、冷却損失が0.9ポイント、排気損失が0.8ポイントそれぞれ低減して正味熱効率が1.3ポイント上昇する結果となった。詳細は別稿を御参照頂きたい(3-3)。
本研究で提案した混合燃料の早期蒸発コンパクト噴霧による急速燃焼過程の検証を行うため、定容容器内で高温雰囲気場の燃料噴霧のレーザ誘起蛍光法(LIF)とエキサイプレックス蛍光法(LIEF)測定を行った(3-4)。図3-5に混合燃料(ML 0.8)中のノルマルペンタン(LIEF;液相と気相の双方)と、デカンと軽油燃料を擬似したノルマルトリデカンのLIF画像を示した。この結果より、混合燃料における半径方向への高拡散化と高沸点燃料の到達距離の短縮が確認できる。
さらにRCEM実験において、双方の燃料の火炎輝度とOHラジカル発光強度の時間的変化を光学的に測定し、図3-6に動画を示した。これらの動画から、混合燃料(ML 0.8)で各時期において火炎輝度が相対的に低下してOHラジカル発光強度が増加していることが確認できる。これらから、この混合燃料適用時の半径方向への拡散と空気導入量の増加による初期の相対的な希薄低温燃焼と後期の燃焼促進効果が推測される。また動画より混合燃料(ML0.8)は、軽油に比べ左右に大きく揺れながら燃焼している。図3-6の後半は、燃焼室空間の現象を把握するために実施した数値計算の検証結果である。
Fig.3-6 RCEM実験における火炎輝度とOHラジカル発光強度の時間的変化
および数値計算による混合気形成過程の数値解析
(RCEM実験条件:Pinj=180MPa,Pa=6.0MPa,Tw=473K,mf =37.1mg)
本研究では低沸点燃料を含む混合燃料噴霧を適用して、燃焼室内部で高分散噴霧を形成し燃料間の反応性の違いによる燃焼制御を用いて高効率・低エミッションの燃焼を実現することを目的とした。容器内実験において冷却損失に関するパラメータ実験を行い、それらの影響度を冷却則の物理因子による指数相関マトリックスとして表示した。また混合燃料噴霧とその火炎の性状を各種の可視化手法に解析して、最終的に実機関での燃焼実験において冷却損失の0.9%低減と正味熱効率の1.3%向上を達成した。なお、本一連の研究では、混合燃料と言う物理・化学的特性の変化の双方を適用したことになるが、基準燃料の軽油を使用した場合における高分散噴霧形成の研究も行なっており(3-5)、燃焼制御過程そのものと冷却損失の低減量に占める噴霧蒸発という物理的因子と反応性制御という化学的因子の影響度の定量化解析を進めている。多くの関係諸氏のサポートにより種々の結果を得ることができた。心から感謝申し上げます。