TOP > バックナンバー > Vol.11 No.8 > レシプロエンジンにおけるカーボンニュートラル化の動き
カーボンニュートラル社会においても、電動化や燃料電池化が難しい用途では、引き続きレシプロエンジンが使われると考えられる。例えば航続距離の長い用途、負荷の高い用途(船舶や長距離トラック)、発電設備(非常用、常用)、僻地で長時間利用される機械(建機、農機)などである。これら用途のレシプロエンジンにおいてもカーボンニュートラル化を進めていく必要がある。本章では、カーボンニュートラル社会を実現するために実施された戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)エネルギーキャリアについて紹介し、次に船舶や発電機向けレシプロエンジンに関するカーボンニュートラル化の動向を紹介する。
2014~18年度の5年間で実施された内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) エネルギーキャリアでは、水素を軸とした新エネルギー社会を実現するための各種の研究が実施された(1)。再生可能エネルギーを起源とする水素を活用するチェーンにかかわる研究開発テーマが設定され、具体的には水素、アンモニア、有機ハイドライドに関連する研究が実施された。エンジン関係では、水素エンジン技術開発とアンモニア直接燃焼の二つのテーマが設定され、水素、アンモニアのレシプロエンジン適用について多くの成果を得ている。この成果の一部について2章,3章で紹介する。
ここでは船舶や発電機についての動向を紹介する。
船舶のカーボンニュートラル化について国内で最近プレスリリースされた活動を表1に紹介する。アンモニア燃料に関する取り組みが先行しており、船舶用にはアンモニアが有力視されていることが分かる。これはアンモニアの方が水素に比較して発熱量当たりの容積が小さく、船舶への燃料搭載に適しているためである。またCO2回収装置を船舶に搭載する試験も計画されている。CO2回収技術はカーボンニュートラル化のキー技術の一つであり、4章で紹介する。
表1 船舶のカーボンニュートラルに関する活動の最近のプレスリリース
発表日 | 内容 | URL |
---|---|---|
2020年4月30日 | アンモニア焚機関を搭載する船舶の共同開発 | https://www.imazo.co.jp/news/200430/ |
2020年8月31日 | “世界初”船上での CO2回収試験 | https://www.kline.co.jp/ja/news/csr/csr-6181234315146271345/main/0/link/200831JA%20.pdf |
2020年9月3日 | アンモニア燃料タグボートの実用化共同研究開発 | https://www.nyk.com/news/2020/20200903_01.html |
2021年4月27日 | 舶用水素燃料エンジンの共同開発 | https://www.khi.co.jp/pressrelease/news_210427-2_1.pdf |
発電機については、欧州メーカーが開発した水素エンジン発電機が国内に導入され始めている。例えば日立パワーソリューションズではオーストリアINNIO社製の水素混焼エンジンを発電パッケージ化して国内に納入しており、都市ガス50%、水素50%の体積割合で混焼が可能となっている(2)。ヤンマーエネルギーシステム社はドイツ2G社と販売契約を結び、同社製の水素専焼エンジン発電機を国内で販売可能とした(3)。また三菱重工エンジン&ターボチャージャは発電用1MW級水素エンジンの開発に着手したことを発表している(4)。
ここでは、レシプロエンジンのカーボンニュートラル化の動きについて簡単に紹介した。水素、アンモニアを使ったエンジンに関する動きは活発化してきているが、いつごろ、どのように燃料が供給されるか、価格はどれくらいになるのか、など普及のための条件が明確にはなっておらず、実際の水素、アンモニアエンジンの普及は早くとも2030年以降と考えられる。しかしながら、大気中のCO2濃度は確実に上昇を続けており、カーボンニュートラル化を加速する必要がある。次章以降で、レシプロエンジンのカーボンニュートラル化でキーとなる、水素燃焼、アンモニア燃焼、CO2回収の三つの技術について、紹介する。
Hiroyuki ENDO (Mitsubishi Heavy Industries Engine & Turbocharger, Ltd.)