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Vol.14 No.3

先進ディーゼル機関技術
吉冨 和宣
Kazunori YOSHITOMI
JSAEエンジンレビュー編集委員/日野自動車株式会社
JSAE ER Editorial Committee / Hino Motors, Ltd.

講演紹介(1)CN燃料に対しても有効な筒内水成層によるNOx低減

 稲垣ら(1)は、CO2低減に寄与するCN燃料においても、筒内で燃焼させる上で回避できないNOx生成の低減を目的とし、筒内水噴射に注目した。筒内水噴射は、熱効率の悪化を伴うことが既知であり、少量の水を効率よく利用するため燃料噴霧と水の配置に注目した。水噴霧モデルを導入した自社開発のCFDにより、燃料噴霧軸に沿ったキャビティ内上部に水を配置することが、燃焼時の高温場に水を多くエントレインできる最適な水配置であると見出した(図1)。実機試験での具現化には、噴霧が扇形に出るインジェクタ(図2)で水を分割噴射させることで、水を成層配置させた。この結果、水の質量割合を50%とした中負荷運転条件での等スート(2.3FSN)で、熱効率は0.4pt悪化するものの、NOxを1/4に低減できることが分かった(図3、4)。

講演紹介(2)電動過給機のシステム試算のための単筒エンジン高過給性能試験

 齋藤ら(2)は、エンジンの運転状態にかかわらず高過給が得られる電動過給器での燃費改善を目的とし、過給が最大圧力比3.2の範囲で独立制御できる単筒エンジンを用い、λに対する図示熱効率の試験から必要な過給システムを試算した。図示熱効率は、噴射量66mm3でλ2.8-4.0に極大値があり(図5)、117mm3で試験可能な範囲内でλを高めるほど向上した(図6)。噴射量が低い場合での極大値を示す理由として、高過給による筒内密度の上昇により、噴霧の貫徹力低下と広がり方向の拡散による噴霧干渉を起こすことが一因であると考えられ、噴射圧力や燃焼室形状などの最適化も同時に図ることが重要である。また、燃焼温度が下がることによる冷却損失低下と排気損失の悪化は、実機試験とHIDECSでの両方で確認できた。これらを元にシステム検討した結果、λ2.4までは現状の過給機で実現できるが、それ以上の空気過剰率実現には、電動過給機が必要であることが示唆された(図7)。

講演紹介(3)船舶向け水素ディーゼル混焼の燃焼プロセス解明

 上野ら(3)は、船舶エンジンを想定した、軽油によるパイロット着火式の水素混焼条件における燃焼特性をCONVERGEにより解明した。混焼の模擬にはPeriniら提案による混焼モデルを使った。これは、燃料の着火には詳細化学反応モデル、ガス燃料の火炎伝播にはG方程式を組合わせて解くモデルである。今回、重要となる水素の層流燃焼速度はChemkin-Proにて計算した。水素混焼率を0、22、46、74%としたエンジン実験と計算の結果を比較し、混焼率によらず着火遅れが同程度であること、混焼率に準じて熱発生率ピーク値の変化が一致し(図8)、本モデルは精度良く現象を再現できると判断した。この手法により詳細解析を行った結果、混焼率違いでの熱発生のピーク値の違いの要因として、軽油が着火後に周囲の水素を巻き込んで燃焼する事に起因していると分かった(図9)。

講演紹介(4)船舶向け水素ディーゼル混焼の高負荷域での混焼率と過給条件

 森田ら(4)は、水素ディーゼル混焼による内燃機関の技術開発には、高負荷のような過給条件での運転領域での検討も必要である。そのため、高負荷域で燃焼と排気特性を知るために、図示平均有効圧力を固定し、水素混焼率や空気過剰率をパラメータとした実験的調査を実施した。水素混焼率の増加に従い、圧力上昇率が高くなることや燃焼期間の短縮が見られるが、熱効率は低下した。これは、バルブオーバラップ期間の吹き抜けが要因であると推測できる(図10)。空気過剰率違いでは、混焼率が60%未満では燃焼期間に大差はないが、60%以上では燃焼変動を抑え、安定した運転ができることが分かり(図11)、排気ガス成分も抑制できている(図12)。水素混焼を広範囲な運転条件で成立させるには、混焼率と空気過剰率を高めることが重要で、吹き抜けによる熱効率低下には、吸気行程中に水素の間欠噴霧を行うなどの有効策が考えられる。

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【参考文献】
(1) 稲垣 和久、河合 謹、近藤 照明、西川 一明、薄井 陽:ディーゼルエンジンにおける筒内水噴射を用いたNOx低減ストラテジー(第1報) -中・低負荷での筒内水成層コンセプトの提案―、公益社団法人自動車技術会 2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245200
(2-1) 齋藤 大晃、橋本 宗昌、石井 義範:重量車用ディーゼルエンジンの高過給化による熱効率改善と最適過給システムの研究、公益社団法人自動車技術会 2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245201
(3) 上野 尊史、平岡 賢二、天寅 喬文、森田 銀:数値シミュレーションによる水素ディーゼル混焼エンジンの燃焼プロセスの分析、公益社団法人自動車技術会 2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245204
(4) 森田 銀、天寅 喬文、平岡 賢二、上野 尊史、武本 徹:単筒試験による水素混焼ディーゼル機関の燃焼特性の把握、公益社団法人自動車技術会 2024年春季大会学術講演会講演予稿集、No.20245205